更新日:2025年4月22日
ビタミン欠乏症とは?原因や症状、ビタミン不足との違いも解説
「ビタミン欠乏症」とは、体に必要なビタミンが不足することにより、何らかの症状が現れてしまう状態のことをいいます。ビタミンの必要量は三大栄養素(炭水化物、脂質、タンパク質)よりは少量で、食品中にもわずかしか含まれていませんが、人の生命活動には欠くことのできない栄養素です。もし、体に必要なビタミンが欠乏すると、どのような影響が現れるのでしょうか?ここでは、ビタミンの欠乏によって起こる病気や症状、ビタミン欠乏症を予防する方法について解説します。
監修
福渡 努 先生
滋賀県立大学 人間文化学研究院 教授、日本ビタミン学会 幹事、ビタミンB研究委員会 委員
INDEX
ビタミン欠乏症とは
・ビタミンとは
ビタミンという言葉は、生命維持に必須であることを意味する「Vital(バイタル)」と、最初に発見されたビタミンB1(チアミン)に「Amine(アミン)」という化学構造が認められたことから、「Vital+Amine」で「Vitamine(ビタミン)」と名付けられました。その後、すべてのビタミンがアミン構造をもつわけではないとわかったため、最後の「e」が削除され「Vitamin」となりました。
ビタミンは、人の体内で産生できない、または産生は可能でも必要量を満たすことができない微量栄養素です。現在、人の生命活動に欠かせない栄養素として、13種類のビタミンの存在が知られています。それらのビタミンの必要量は決して多くはありません。しかし、それでも体のさまざまな機能の維持になくてはならない存在です。
・ビタミン欠乏症とは
体に必要なビタミンが欠乏することによって、何らかの症状が現れている状態を「ビタミン欠乏症」といいます。
食糧事情のよい先進国では、食糧不足のためにビタミン欠乏症になることはまれとなりました。しかし、日本でも戦前は、ビタミンB1の欠乏で生じる「脚気(かっけ)」が、結核と並び国民病とされていた時代もありました。また、戦後になり食糧事情が好転し、何かしら病気の影響がある場合を除いて、ビタミン欠乏症はみられなくなったと考えられていましたが、清涼飲料水やインスタント食品が流通し始めたことで、若者を中心に脚気の発症が増加するということもありました。
日本を含む先進国において、食糧不足とは異なる原因によるビタミン欠乏症は、現在でも珍しいものではありません。詳しくは追って解説していきます。
ビタミン欠乏症の原因
ビタミン欠乏症と診断される人には、以下のような原因が考えられます。
・食事の量が少ない
一部のビタミンは腸内細菌で産生されたり、皮膚に紫外線が当たることで産生されますが、大半のビタミンは食品中に含まれていて、食事を摂ることで体内に取り込まれます。食品中のビタミンの含有量はごくわずかであるために、食事の量が全体的に少ないとビタミンが欠乏することがあります。
とくに高齢の方は、食欲低下のために少食であることが多いものです。あるいは、食欲はあるとしても、咀嚼(そしゃく)機能・嚥下(えんげ)機能※1の低下のために少食になっていることもあり、ビタミンが欠乏するリスクが高くなっています。
※1 嚥下(えんげ)機能:食べ物や飲み物を飲み込み、食道から胃へと送り込む一連の動作のこと。
・栄養バランスが偏っている
食べる量は足りていても栄養バランスが偏っていると、ビタミンが欠乏することがあります。例えば、菜食主義の人(ベジタリアン)やアレルギーがあるためにアレルゲン除去食を続けている人、食べ物の好き嫌いが極端な人などが当てはまります。
・アルコールの過剰摂取
飲酒などにより摂取されたアルコールは胃や腸から吸収され、ほとんどが肝臓でアルコール脱水素酵素により「アセトアルデヒド」という物質に分解されます。この過程でナイアシンなどが必要とされます。また、アルコールの過剰摂取によりアルコール脱水素酵素だけでは処理しきれないという場合に、別の経路で代謝が行われ、その際にはビタミンB1が必要とされます。
一方で、アルコールは人に必要なさまざまな栄養素の吸収を低下させますが、なかでもビタミンの吸収を大きく低下させることが知られており、特にアルコールの代謝に必要なビタミンB1の欠乏には注意が必要です。
アルコールを過剰摂取する人は、食事の摂取量が少ない(つまみ程度しか食べない)傾向があることも、ビタミンが欠乏するリスクを押し上げています。
・食べた物が十分に吸収されない
食事として摂取するビタミンの量は充足していても、体内で吸収されにくい状態である場合は、ビタミンの欠乏につながることがあります。具体的には、消化器の病気のために胃や腸を切除した人、腸の病気(例えば、クローン病など)をもつ人などが挙げられます。他にも、高齢の方は、一般的に栄養素の吸収力が低下していることが多いとされています。
・体内のビタミン需要が増えている
妊娠中や未成年の成長期には、ビタミンを含む栄養素の必要量が増加します。その他、代謝が高まったり栄養素の消費が増えたりする何らかの病気(例えば、甲状腺機能亢進症やがんなど)では、ビタミンの必要量が増えるために、相対的にビタミンが欠乏することがあります。
またビタミンは、生命活動には欠かせないエネルギー代謝にも必要とされます。例えば、エネルギー源の一つとなる糖質の代謝には、ビタミンB1が必要不可欠です。糖質を大量に摂取するような食事が続いていたり、身体活動量が多くエネルギーが大量に必要とされる場合には、ビタミンB1の需要が高まります。つまり、エネルギー源となる栄養素をいくら摂取しても、代謝に必要なビタミンが不足しているとエネルギーを生み出すことができなくなってしまいます。人の生命活動には、ビタミンB1をはじめとするビタミンの摂取が欠かせないのです。
・病気やその治療によるビタミン欠乏のリスク上昇
肝臓や腎臓の働きが低下していると、体内にビタミンはあってもそれが活性化されずに、十分に働かなくなってしまいます。また、胃酸分泌を抑える薬や抗菌薬を長期間服用している場合にも、吸収の低下などのためにビタミンが欠乏することがあります。この他、摂食障害、糖尿病、慢性透析なども、ビタミンが欠乏するリスクが高い状態として挙げられます。
・ビタミンは失われやすく、とくに水溶性ビタミンは欠乏しやすい
ビタミンは、保存、加工、調理の過程で失われやすい栄養素です。そのため、食べた物に含まれる量を計算しても、正確な摂取量を把握するのは難しいといわれています。
また、ビタミンは水に溶けやすい水溶性ビタミン(ビタミンB群・C)と、水には溶けにくく脂肪に溶けやすい脂溶性ビタミン(ビタミンA・D・E・K)に大別され、前者は摂取しても尿の中に混ざって排泄されやすく体内に蓄積されないため、摂取量が不足した場合に欠乏リスクが生じやすいことが知られています。
ビタミンの「欠乏」と「不足」の違い
前述のように、体に必要なビタミンが足りないことによって、何らかの症状が現れている状態がビタミンの「欠乏」です。それに対して、ビタミンが欠乏するリスクはあるものの、まだ症状が現れたり病気になったりしていない段階がビタミンの「不足」です。
ただし、ビタミンの研究が進んだことで、ビタミン不足はビタミン欠乏のリスクがある段階であるだけでなく、ビタミン欠乏症として生じる病気や症状の前段階と思われるような状態や、別の健康リスクを高めてしまうことがわかってきています。例えば、ビタミンDの「欠乏」では、「骨軟化症」や「くる病」が起こりますが、ビタミンDの「不足」ではそのような病気のリスクが上昇するとともに、免疫機能の低下やメンタルヘルスへの影響が生じやすくなるといわれています1)。
1)臨床栄養140(1), 2022, p.74-80
・「不足」は「欠乏」と比べて自覚しにくい
ビタミンが欠乏しているときは、何らかの症状が現れている状態なので、本人も異常に気づいて医療機関を受診するなどの対処をします。それに対してビタミンが不足しているときは、何らかの体調不良を感じていたとしても、原因がビタミンの不足であると考えることは難しく、日常生活に影響がない場合はそのままにしてしまうことが多いでしょう。また、健康診断を受けても体内のビタミンレベルは測定されないため、不足に気づくことは難しいのです。
このようなことから、ビタミンの不足は自覚しにくいため、欠乏に陥る一因といえます。欠乏に至らなくても、偏食や激しい運動により必要なビタミンが不足すると、体のだるさや倦怠感などが現れることがあります。このような状態を「潜在性ビタミン欠乏症」と呼ぶこともあります。ビタミン不足や潜在性ビタミン欠乏症を予防するためにも、普段の生活でビタミンを意識して摂取することが大切です。
1日に必要なビタミンの摂取量は?
厚生労働省が策定している「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、「日本人の健康の保持・増進、生活習慣病の発症予防を目的として、食事によるエネルギー及び各栄養素の摂取量」を示しています。ここでは、各ビタミンの推奨量・目安量について紹介します。
水溶性ビタミン
30~49歳における水溶性ビタミンの1日あたりの摂取基準は以下の通りです。
男 性 | 女 性 | |||
---|---|---|---|---|
種類 | 推奨量※2 | 目安量※3 | 推奨量 | 目安量 |
ビタミンB1 | 1.2mg | ─ | 0.9mg | ─ |
ビタミンB2 | 1.7mg | ─ | 1.2mg | ─ |
ビタミンB6 | 1.5mg | ─ | 1.2mg | ─ |
ビタミンB12 | ─ | 4.0µg | ─ | 4.0µg |
ビタミンC | 100mg | ─ | 100mg | ─ |
ナイアシン(ニコチン酸、ニコチン酸アミド) | 16mgNE | ─ | 12mgNE | ─ |
パントテン酸 | ─ | 6mg | ─ | 5mg |
葉酸 | 240µg | ─ | 240µg | ─ |
ビオチン | ─ | 50µg | ─ | 50µg |
〔厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」〕
※2 推奨量:日本人の大半(97~98%)が必要量を満たすと考えられる量。
※3 目安量:栄養状態を維持するのに十分と考えられる量。ビタミンの種類によっては、欠乏症を実験的に再現できないことから推奨量を設定できないものもある。そのような場合は、目安量のみ定められている。
脂溶性ビタミン
30~49歳における脂溶性ビタミンの1日あたりの摂取基準は以下の通りです。
男 性 | 女 性 | |||
---|---|---|---|---|
種類 | 推奨量 | 目安量 | 推奨量 | 目安量 |
ビタミンA | 900µg RAE | ─ | 700µg RAE | ─ |
ビタミンD | ─ | 9.0µg | ─ | 9.0µg |
ビタミンE | ─ | 6.5mg | ─ | 6.0mg |
ビタミンK | ─ | 150µg | ─ | 150µg |
〔厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」〕
ビタミンの欠乏により現れる症状(水溶性ビタミン)
ビタミンB1
・ビタミンB1の働きと特徴
糖質の代謝に必要不可欠とされるビタミンです。また、神経の機能維持にも役立つとされています。日本人研究者の鈴木梅太郎氏が、精白米に不足している栄養素を発見し「オリザニン」と命名したものが、後にビタミンB1と呼ばれるようになりました。
・ビタミンB1の欠乏による症状
ビタミンB1欠乏症として、末梢神経の障害のために足先に痛みやしびれが生じたり、感覚が鈍くなったり、麻痺したりする「脚気」、および、脚気に伴う心不全の「脚気心」、さらに心不全症状として「浮腫(むくみ)」などが現れます。また、中枢神経の障害による脳症(認知機能低下)、眼球運動障害、歩行失調などが生じる「ウェルニッケ脳症」も、ビタミンB1欠乏症としてよく知られています。
これらの他に、糖質をエネルギーとして利用しにくくなることが、疲れやすさや抑うつ、物忘れが増えるといったことに関連するともいわれています。
・ビタミンB1を多く含む食品
肉類/豚肉
魚介類/うなぎ、さば、たらこ
穀類/玄米、ライ麦パン
野菜・種子・果物/グリーンピース、枝豆、カシューナッツ
その他/ひらたけ
- <ビタミンB1の効果的な摂り方や必要量などの詳細はこちらをチェック>
- <肉体疲労時のビタミンB1などの補給に>
ビタミンB2
・ビタミンB2の働きと特徴
脂質の代謝に必要不可欠とされるビタミンです。また、過酸化脂質の分解や、皮膚・爪・毛の発育にも役立ちます。光に弱いため、ビタミンB2が豊富な食品は不透明の容器に保存するとよいとされています。過剰に摂取した分は尿とともに排泄され、このとき、尿が濃い黄色になります。
・ビタミンB2の欠乏による症状
ビタミンB2欠乏症として、唇の端が切れる「口角炎」、唇が腫れる「口唇炎」、舌が腫れて痛む「舌炎」などと関連があるとされています。また、にきびや小鼻の脇にブツブツができたり(脂漏性皮膚炎)、眼精疲労、子どもの成長障害のリスクとの関連も指摘されています。
・ビタミンB2を多く含む食品
肉類/豚・牛・鶏レバー
魚介類/さば、いわし、うなぎ
野菜・種子・果物/ブロッコリー
その他/マッシュルーム、鶏卵、牛乳、チーズ、ヨーグルト、納豆
- <ビタミンB2の効果的な摂り方や必要量などの詳細はこちらをチェック>
- <肉体疲労時などのビタミンB1・B2・B6・B12の補給に>
ビタミンB6
・ビタミンB6の働きと特徴
タンパク質の代謝に必要不可欠とされるビタミンです。タンパク質を摂取すると、消化によってアミノ酸へ分解されて吸収された後、再び体の各部位が必要としているタンパク質が作られます。タンパク質を構成するアミノ酸がエネルギー産生などのために分解される過程でビタミンB6が必要とされます。また、脳の中での情報のやり取りに重要な神経伝達物質(ドーパミン、セロトニン、γアミノ酪酸(GABA/ギャバ))の合成にも使われ、他にもホルモンの作用や免疫機能の維持にかかわっています。なお、ビタミンB6は、ピリドキシンなど6種類の化合物の総称です。
・ビタミンB6の欠乏による症状
ビタミンB6欠乏症として、「神経障害」や「皮膚炎」、「口角炎」、「口唇炎」などと関連があるとされています。その他、食欲不振、悪心・嘔吐、下痢、貧血、けいれん、手足のしびれ、足のこむらがえり(ふくらはぎがつること)などのリスクとの関連も指摘されています。
・ビタミンB6を多く含む食品
肉類/豚赤身、鶏ささ身、牛レバー
魚介類/まぐろ、かつお、さば、いわし
穀類/玄米
野菜・種子・果物/ピーマン、にんにく、バナナ、ピスタチオ、ごま、じゃがいも
- <ビタミンB6の効果的な摂り方や必要量などの詳細はこちらをチェック>
- <神経痛、手足のしびれの緩和に>
ビタミンB12
・ビタミンB12の働きと特徴
鉄の補充では改善しない貧血の治療に役立つ成分として発見され、「造血ビタミン」とも呼ばれるビタミンです。造血機能の他に、神経の機能維持などにも働きます。体の隅々の細胞が必要としている酸素は、血液中の赤血球の中にある「ヘモグロビン」に結合して、血流に乗り届けられています。そのヘモグロビンが少なくなった状態が「貧血」であり、その原因として、主に鉄またはビタミンB12の不足が挙げられます。
・ビタミンB12の欠乏による症状
ビタミンB12の欠乏症として、「悪性貧血」と「神経障害」がよく知られています。悪性貧血とは、貧血の原因として一般的な鉄の欠乏ではない貧血のことで、その多くがビタミンB12の欠乏によるものです。また、ビタミンB12の欠乏による神経障害では、手足のしびれや痛みが左右対称に生じます。
他にも、疲れやすさや認知機能低下などが起こりやすく、また血液中のホモシステインというアミノ酸が増えて、動脈硬化が進みやすい状態になることとも関連がわかってきています2)。
2)ビタミン93(8), 2019, p.325-333
・ビタミンB12を多く含む食品
肉類/牛・豚・鶏レバー
魚介類/いわし、さば、さんま、かつお、あじ、さけ、しじみ、あさり、かき、海苔
その他/鶏卵、牛乳、チーズ、ヨーグルト
- <ビタミンB12の効果的な摂り方や必要量などの詳細はこちらをチェック>
ビタミンC
・ビタミンCの働きと特徴
抗酸化作用をもつ他、エネルギー産生にかかわるカルニチンの生成にも役立つビタミンです。他にも、コラーゲンの生成にビタミンCが必要不可欠とされています。コラーゲンは体に存在しているタンパク質の3分の1を占め、皮膚や筋肉、腱、靱帯も、主にコラーゲンでできています。
・ビタミンCの欠乏による症状
ビタミンC欠乏症として、出血しやすく、血が止まりにくかったり、皮下出血ができやすいといった症状が現れる「壊血(かいけつ)病」が知られています。この壊血病による明らかな出血傾向が現れる前段階としては、歯茎に血が滲みやすい、倦怠感、体重減少、手足や関節の痛みなどが生じることがあるとされています。
また、ビタミンCには、活性酸素の働きを抑える「抗酸化作用」があり、不足の段階でその作用が低下して、動脈硬化や認知機能低下などが生じやすくなる可能性が指摘されています。
・ビタミンCを多く含む食品
野菜・種子・果物/オレンジ、レモン、キウイ、ブロッコリー、いちご、赤ピーマン、黄ピーマン
その他/じゃがいも
ナイアシン(ビタミンB3/ニコチン酸、ニコチンアミド)
・ナイアシンの働きと特徴
ビタミンB群の一種で、「ビタミンB3」とも呼ばれます。糖質や脂質、タンパク質の代謝に必要とされる他、皮膚の機能を保持する働きをもっています。また、アルコールを飲んだ後にできる「アセトアルデヒド」という、二日酔いの原因ともいわれる物質の分解にも関係しています。ナイアシンは、ニコチン酸とニコチンアミドの総称です。
なお、ナイアシンは食事から摂取する以外に、アミノ酸である「トリプトファン」から体内でも作られています。
・ナイアシンの欠乏による症状
ナイアシンの欠乏症として、「ペラグラ」が挙げられます。「ペラグラ」とはイタリア語で「荒れた肌」という意味で、皮膚や粘膜の炎症が特徴的な病気です。他にも、下痢、認知機能低下、頭痛、抑うつ、不安、性格の変化、けいれんなどが現れることがあるといわれています。
ペラグラは、とうもろこしを主食とする民族でよくみられます。これは、とうもろこしにナイアシンとトリプトファンが少ないためです。日本でペラグラを発症することはあまりありませんが、食事を十分に摂らずに大量の飲酒をしている場合にみられることがあります。
他にも、ナイアシンの不足により食欲低下や消化不良などが起こり得るとされています。
・ナイアシンを多く含む食品
肉類/鶏肉(皮付き、ささ身)、牛・豚レバー
魚介類/かつお、まぐろ、かじき、いわし、さば
その他/ひらたけ、エリンギ
パントテン酸(ビタミンB5)
・パントテン酸の働きと特徴
ビタミンB群の一種で、「ビタミンB5」とも呼ばれます。糖質や脂質、タンパク質の代謝に必要とされます。パントテン酸は英語では「pantothenic acid」と書きますが、「pantothenic」の語源はギリシャ語の「pantos」で、これは「すべての/どこにでもある」といった意味があります。実際、パントテン酸は、大半の食品に含まれています。
・パントテン酸の欠乏による症状
多くの食品中に含まれているビタミンのため、欠乏症はほとんどみられません。古い報告の中には、極端な栄養不良の状況において、皮膚の耐え難い痛みなどの「痛覚異常」が生じたというものがありますが、因果関係は不明です。動物実験では、皮膚炎、副腎の機能低下などが生じたといわれています。
・パントテン酸を多く含む食品
肉類/牛・豚・鶏レバー、鶏肉(皮付き、ささ身)
魚介類/たらこ、ししゃも
野菜・種子・果物/アボカド、モロヘイヤ
その他/納豆、ひらたけ、なめこ、エリンギ
葉酸(ビタミンB9)
・葉酸の働きと特徴
ビタミンB群の一種で、「ビタミンB9」とも呼ばれます。DNAの合成や細胞分裂にかかわる他、正常な赤血球の生成に役立つとされています。
・葉酸の欠乏による症状
葉酸欠乏症としては、「貧血」と「神経症状」が多くみられます。この場合の貧血は、赤血球が作られないために生じるもので、鉄欠乏で生じる貧血とは異なり、貧血の診断に用いられている一般的な検査値であるヘモグロビンが正常でも、息切れ、動悸、めまい、疲れやすいなどの貧血の症状が現れます。一方、神経障害では、足の感覚が鈍くなることがあります。
この他、葉酸が不足していると、ビタミンB12の不足と同様に、ホモシステインというアミノ酸が増えて動脈硬化が進行しやすくなります。また、妊娠初期の葉酸不足は、胎児の神経管閉鎖障害のリスクを高めることが明らかになっていて、新生児の二分脊椎などにつながることがあります。
・葉酸を多く含む食品
肉類/牛・豚・鶏レバー、鶏肉(皮付き、ささ身)
魚介類/海苔
野菜・種子・果物/ブロッコリー、ほうれんそう、芽キャベツ、かぼちゃ、枝豆、アボカド
- <葉酸の効果的な摂り方や必要量などの詳細はこちらをチェック>
ビオチン(ビタミンB7)
・ビオチンの働きと特徴
ビタミンB群の一種で、「ビタミンB7」とも呼ばれます。糖質や脂質、タンパク質の代謝に必要とされる他、皮膚の機能を正常に保つ働きをもっています。ビオチンは食事から摂取する以外に、腸内細菌によっても作られています。
鶏卵の卵黄にはビオチンが豊富に含まれていますが、卵白にはビオチンの働きを抑える成分が含まれていて、生の鶏卵を大量に食べるとビオチンが不足することがあります。ただし、加熱すると、卵白にあるビオチンの働きを抑える成分の働きが失われるため、ビオチンの不足は生じません。
・ビオチンの欠乏による症状
生卵を大量に摂取した場合に、「皮膚炎」や「倦怠感」、「筋肉痛」、「感覚異常」などが生じるといわれています。その他、抗菌薬を長期間使用している場合などに腸内細菌で産生されるビオチンが少なくなり、欠乏症のリスクが高まる可能性があるといわれています。
・ビオチンを多く含む食品
肉類/牛・豚・鶏レバー、鶏肉(皮付き、ささ身)
魚介類/かれい、さけ、あさり
野菜・種子・果物/ピーナッツ
その他/卵黄、納豆、まいたけ
ビタミンの欠乏により現れる症状(脂溶性ビタミン)
ビタミンA
・ビタミンAの働きと特徴
皮膚や粘膜を正常に保ったり、暗順応や視力を保つ働きをもつビタミンです。暗順応とは、暗い所で物を見るための機能のことで、これには網膜の細胞の働きに重要な「ロドプシン」がかかわっています。そのロドプシンの形成にビタミンAが必要なのです。なお、ビタミンAの前駆体(変化する前段階の状態)である「プロビタミンA」(β-カロテンなど)は、抗酸化作用をもっています。
・ビタミンAの欠乏による症状
ビタミンA欠乏症として、暗いところで見えにくくなる「夜盲症」、目の表面が乾燥する「角膜乾燥症(ドライアイ)」が挙げられます。
欠乏ではなく不足の段階では、皮膚や粘膜が乾燥して感染症にかかりやすくなったり、成長期の成長障害、麻疹(はしか)の重症化、消化管での吸収障害、尿路結石、胎児奇形のリスク上昇などが知られています。
・ビタミンAを多く含む食品
肉類/豚・鶏・牛レバー
魚介類/うなぎ、あなご、ぎんだら、あゆ
野菜・種子・果物/にんじん、かぼちゃ、モロヘイヤ、ピーマン
その他/鶏卵、チーズ
ビタミンD
・ビタミンDの働きと特徴
カルシウムやリンの吸収を促進したり、骨・歯の形成に役立つビタミンです。他にも、免疫機能やインスリン(血糖の利用にかかわるホルモン)の感受性の維持などにもかかわっていることが明らかになってきています。
ビタミンDは、食事から摂取する以外に、皮膚に紫外線が当たることによって産生されます。このため、日射量が少ない冬季や高緯度に暮らす人は血液中のビタミンDが少ないといわれています。
・ビタミンDの欠乏による症状
ビタミンD欠乏症として、成人の「骨軟化症」、乳幼児の「くる病」が知られています。骨軟化症は、骨の中のカルシウムが少なくなることで、骨の強度が低下して痛みが生じたり、変形や骨折が起きやすくなる病気です。くる病は、成長過程にある子どもの骨が、カルシウム不足などのために十分成長できず、弱い骨が作られてしまう病気で、足が曲がって成長したり、身長が伸びにくくなったりすることがあります。
・ビタミンDを多く含む食品
魚介類/さけ、さんま、まいわし、うなぎ、かれい、ぶり、かじき
その他/鶏卵、牛乳、チーズ、きくらげ、まいたけ、マッシュルーム
ビタミンE
・ビタミンEの働きと特徴
体内では主に細胞膜に含まれていて、抗酸化作用をもつビタミンです。細胞膜は不飽和脂肪酸などで作られていますが、不飽和脂肪酸は酸化しやすく、それによって異常な細胞が作られたり細胞死が速まったりしてしまうことがあります。ビタミンEの抗酸化作用は、それらを抑制すると考えられています。
この他、手足の血液の流れを活発にしたり、ホルモンの分泌を円滑にするなど、生殖機能の維持にも役立っていると考えられています。ビタミンEは、トコフェロール類やトコトリエノール類の総称です。
・ビタミンEの欠乏による症状
ビタミンE欠乏症は、まれな先天性疾患患者以外では報告されておらず、目に見える異常は生じないとされています。しかし、ビタミンEが不足している状態では、酸化ストレスが高い状態にあると考えられ、長期的には動脈硬化などの加齢に伴う変化が速まる可能性が考えられます。また、赤血球が壊れやすくなるために貧血が起きやすくなったり、末梢神経に障害が現れることで、肩こりや首こり、腰痛、手足のしびれといった症状にも関連することがあるいわれています。
・ビタミンEを多く含む食品
魚介類/あゆ、かじき、うなぎ、さば、すじこ
野菜・種子・果物/かぼちゃ、ほうれんそう、ブロッコリー、アボカド、アーモンド、落花生
その他/ひまわり油
- <ビタミンEの効果的な摂り方や必要量などの詳細はこちらをチェック>
- <肩こりや腰痛、手足のしびれの緩和に>
ビタミンK
・ビタミンKの働きと特徴
骨形成の調整や血液凝固にかかわるビタミンです。なお、ビタミンKを含むいくつかのビタミンは、食事から摂取する以外に腸内細菌によっても作られていますが、それらの中でもビタミンKは、腸内細菌により作られる経路が比較的重要で、その経路が欠乏の抑止に役立っていると考えられています。ビタミンKは、フィロキノン(K1)とメナキノン類(K2)の総称です。
・ビタミンKの欠乏による症状
健康な成人では、ビタミンKの欠乏のために血液の凝固が悪くなり出血が止まらなくなるといったような症状は現れることはないとされています。しかし、抗菌薬を長期間服用していて腸内細菌がビタミンKを十分に作れなくなっていたり、肝臓の病気などのために体内で利用できる量が少なくなっているような場合に、血液が固まりにくくなることもあるといわれています。一方、すぐに症状に現れることはないものの、ビタミンKの不足によって骨がもろくなり骨折などのリスクが上がる可能性があります。
・ビタミンKを多く含む食品
肉類/鶏もも肉(皮付き)
野菜・種子・果物/ブロッコリー、モロヘイヤ、ほうれんそう、しゅんぎく、こまつな、アボカド
その他/チーズ、納豆
ビタミン欠乏症に陥らないようにするには
バランスの整った食事を摂る
ビタミンは「微量栄養素」と呼ばれるように、さまざまな食品にごくわずかな量が含まれている栄養素です。
ビタミン欠乏症に陥らないようにするには、なるべく多くの食品をバランスよく食べることで、ビタミン欠乏症に陥るリスクを抑えることができると考えられます。また、野菜や果物の「旬」とされる時期にはビタミンの含有量が多くなるといわれているため、季節感を取り入れた食事にすることが、ビタミン欠乏症を防ぐのに役立つとも考えられます。
その他、飲酒はビタミンの吸収を抑制したり排泄を増やしてしまうので、ほどほどにするとよいでしょう。
食べ方を工夫する
ビタミンB群・Cの水溶性ビタミンは、水に溶けやすいという特徴があるため、調理に水を使う場合は、ゆで汁や煮汁も使って食べられるよう、スープや煮物などにして工夫するとよいでしょう。
ビタミンA・D・E・Kの脂溶性ビタミンは、油との相性がよく、脂質の食品と一緒に摂ることで吸収されやすくなるといわれています。また加熱調理でも破壊されにくいという特徴もあるため、油炒めなどにして工夫するとよいでしょう。
サプリメントやビタミン剤などを活用する
栄養素は食事から摂り入れることが基本です。とはいえ、13種類すべてのビタミンを意識した食事を摂るのはなかなか大変です。とくに、忙しさのために食事に気を遣うことができない、外食が多い、高齢のために食べる量が少ない、普段から身体活動量が多くビタミンの需要量が多い…などといった場合は、ビタミン欠乏症は生じないとしても、ビタミン不足による健康リスクの上昇が懸念されます。そのような場合は、毎日効率的に摂取できるものとして、サプリメントやビタミン剤などの活用も一つの手として考えてみてもよいかもしれません。
・ビタミンB1よりも吸収しやすい「フルスルチアミン」
ビタミンの中でも特にビタミンB1は、エネルギーを生み出すためになくてはならない栄養素です。体に吸収されにくく、必要とする組織へ移行しにくいという水溶性ビタミンの欠点をカバーするために、ビタミンB1をより吸収しやすくした誘導体「フルスルチアミン」が開発されました。フルスルチアミンはビタミンB1を効率よく吸収できるだけでなく、脳内の神経伝達物質であるドーパミンの放出を促すともいわれています。このフルスルチアミンが配合された製品を選ぶのもよいでしょう。
ビタミン欠乏症やビタミン不足による健康リスクを避けるために
ビタミン欠乏症やビタミン不足を防ぐためには、バランスの整った食事や食べ方の工夫を意識してみましょう。家事や仕事などの忙しさにより、食事に気を遣うことが難しい方は、効率的に摂取できるサプリメントやビタミン剤などの活用も考えてみてはいかがでしょうか。
- <参考文献>
- 「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001316585.pdf - 文光堂「臨床病態栄養学 第4版」, 2021
- 南山堂「症例から学ぶ栄養素欠乏」, 2023
- 「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書