更新日:2023年10月31日

ビタミンB1はなぜ必要?ビタミンB1の働きや効果的な摂り方も紹介

ビタミンB1は、“疲労回復ビタミン”とも呼ばれ、ビタミンB1不足が疲れを感じる大きな原因となっていることがあります。また、腰痛や肩こり、疲れ目などに、ビタミンB1不足が関係していることもあるようです。今回は、ビタミンB1の働きと多く含まれる食品、またビタミンB1を効率よく摂るポイントなどを紹介します。

監修

田中 清 先生

静岡県立総合病院リサーチサポートセンター 臨床研究部長、日本ビタミン学会 理事

INDEX

ビタミンB1とは

ビタミンB1は、ビタミンの一種であり、ビタミンは、体の諸機能を円滑にするために必要な微量栄養素の一つです。ビタミンB1の働きをくわしく知るために、まず、栄養素全般の解説をします。

三大栄養素(エネルギー産生栄養素)と微量栄養素

栄養素の中で、糖質・タンパク質・脂質の三つを「エネルギー産生栄養素」といい、この三つの栄養素はいずれも、エネルギー源として利用できます。また、タンパク質は筋肉や血液、内臓などを作る材料として使われ、脂質はホルモンや細胞膜の材料としても使われます。これら三つは毎日数十~数百グラム単位の摂取が必要です。

それに対して、必要とされる摂取量がごくわずかな栄養素のことを「微量栄養素」といい、ビタミンとミネラルが該当します。ビタミン、ミネラルは、どちらもエネルギー源にはなりません。しかし、体の諸機能を円滑にするために欠かせない栄養素で、また、三大栄養素を効率よく使うためにも必要とされます。

ビタミンB1の働き

ビタミンB1は微量栄養素のビタミンの中でも、三大栄養素の代謝を助ける「潤滑油」的な働きをしています。

細胞のエネルギーの源は三大栄養素だとお話ししましたが、その三つの栄養素の中でもとくに「糖質」は、エネルギー源として使われやすい栄養素です。その糖質からエネルギーを作りだす際に不可欠な微量栄養素がビタミンB1です。ビタミンB1そのものがエネルギーになるわけではないものの、生きていくうえで必要不可欠な存在です。

・ビタミンB1は神経の情報伝達などにも関係している

ビタミンB1は糖質からエネルギーを作るのを助けるだけではありません。神経の情報伝達にも関係しています。

神経細胞の主要なエネルギー源も、糖質が分解されてできる「ブドウ糖」であり、ビタミンB1はそのブドウ糖をエネルギーに変える反応にかかわっています。そのためビタミンB1は、神経の働きを支えるという重要な役割も担っているといえるでしょう。

実際、ビタミンB1が不足すると、神経の機能がうまく働かなくなって神経痛などが現れることがあります。

ビタミンB1の特徴

・ビタミンB1は体に吸収されにくい

十分なエネルギーを産み出したり神経の働きに欠かせないビタミンB1ですが、食品から摂取するビタミンB1は、体に吸収される量に限度があります。また、ビタミンB1は水溶性ビタミンのため、調理の際の水洗いや、ゆでたり、煮たりすることで流出しやすく、さらに加熱でも失われがちです。また、体内に蓄えることができないこともわかっており、不足しやすい栄養素の一つです。

・ビタミンB1の弱点を改善した成分「フルスルチアミン」

このようなビタミンB1の弱点を改善した「フルスルチアミン」という成分があります。

ビタミンB1とアリシンという成分が結合すると、体に吸収されやすく分解されにくい「アリチアミン」という化合物に変化し、さらにその安定性を高めたビタミンB1誘導体が「フルスルチアミン」です。このフルスルチアミンは、ビタミンB1に比べて腸からの吸収がすぐれていて、筋肉や神経などの細胞内で効果を発揮する形である「活性型ビタミンB1」に変換されます。

フルスルチアミンは、医薬品の成分として用いられていて、疲労の軽減や神経や筋肉の働きに関与し、機能低下を回復することで、肩こりや腰痛などの症状を和らげるといった作用を発揮します。

ビタミンB1が不足するとどうなる?

疲れやすい、体の不調が起こりやすい

ビタミンB1が不足すると、食事から摂った糖質からエネルギーを効率よく作り出せなくなり、細胞でエネルギーが不足すると疲れやすくなります。また、腰痛や肩こり、目の疲れ、手足のしびれなどにもビタミンB1の不足が関係していて、ビタミンB1を補給することで、それらの症状が改善することがあります。

さらに、ビタミンB1不足によって、気力や活力が減退したり、食欲が低下しやすくなることがあります。また、イライラしやすくなったり、集中力や記憶力が低下したり、情緒不安定といった症状や状態に、ビタミンB1不足が関係していることがあるとされます。

脚気(かっけ)

脚気(かっけ)はビタミンB1欠乏症の一つであり、昔はビタミンB1欠乏による脚気で亡くなる人もいたようです。現在では脚気になる人はほとんどいませんが、ビタミンB1が足りないことにより末梢神経障害、体重減少、浮腫(むくみ)などが見られることがあります。

なお、江戸時代に脚気は「江戸患い」と呼ばれていました。江戸ではビタミンB1が豊富な玄米や麦飯ではなく、精製された白米が食べられていたため、ビタミンB1欠乏による脚気患者が多かったからです。参勤交代や商売などのために地方から江戸に出てくると脚気になり、地元に帰ると脚気が治ることから、ビタミンのことなど知られていなかった当時は、江戸の水があわないことが原因ではないかと推測されていたようです。

心不全

心臓の役割の一つに、血液を全身へ送り出すというポンプとしての働きがあります。そのポンプ機能が低下してしまう病気が心不全です。近年、高齢化を背景に「心不全パンデミック」といわれるほど心不全の患者数が急増しています。

心不全の症状は、息切れや疲れやすさから始まり、進行すると、浮腫や呼吸困難が現れます。ビタミンB1の欠乏も心不全の一因となることがあり、そのような場合、「脚気心」と呼ばれます。

また、欠乏までではなくても潜在的な不足によっても心不全のリスクが高まる可能性が示唆されており、特に高齢者においてはビタミンB1の不足との関係が注目されています。さらに、心不全によって代謝が亢進したり、利尿薬を服用している場合は、ビタミンB1が不足しやすくなるため、注意が必要です。

脳症

ビタミンB1欠乏が原因で生じる病気の一つに、「ウェルニッケ脳症」という病気があります。習慣的に多量のアルコールを摂取し、ビタミンB1が失われやすい人などは、この病気のリスクが高いことが知られています。

習慣的な多量飲酒がウェルニッケ脳症のリスクを高める原因は、アルコールによってビタミンB1の吸収や活性化が阻害されるためです。そして、アルコールを飲む人の中には食事をきちんと摂らない人が少なくないことも関係していると考えられています。また、アルコールを分解する際にはビタミンB1が消費されるため、不足しやすくなります。

ウェルニッケ脳症の初期症状は、吐き気や嘔吐などです。進行すると、視力が低下したり、歩行できなくなったり、意識障害が現れたりします。ウェルニッケ脳症の初期であれば、ビタミンB1の補充によって改善することが多いですが、ときに「コルサコフ症候群」という後遺症が残ってしまい、改善しないことがあります。

コルサコフ症候群の症状は、最近の出来事を記憶できない、時間や場所など自分が置かれている状況が理解できない、および「作話」などです。作話とは、忘れてしまったことを取り繕うために話を創作することで、本人は嘘をついているという自覚はありません。

ビタミンB1の1日に必要な摂取量は?

ビタミンB1だけでなく、栄養素をどのくらい摂るべきかは一般的に、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」を参考にします。「日本人の食事摂取基準」によると、ビタミンB1の必要量は「チアミン(ビタミンB1の化学名)として0.35mg/1,000kcal、チアミン塩化物塩酸塩量として0.45mg/1,000kcal」とされていて、これを基に具体的な摂取量として、年齢別に以下のような値が示されています。

なお、「推定平均必要量」とは、50%の人が必要量を満たすと考えられる量のことです。また、「推奨量」とは日本人の大半(97~98%)が必要量を満たすと考えられる量のこと、「目安量」とは栄養状態を維持するのに十分な量のことです。

ビタミンB1 の食事摂取基準(mg/日)※1、2
性 別男 性女 性
年齢等推定平均
必要量
推奨量目安量推定平均
必要量
推奨量目安量
0 ~ 5 (月)0.10.1
6 ~11(月)0.20.2
1 ~ 2 (歳)0.40.50.40.5
3 ~ 5 (歳)0.60.70.60.7
6 ~ 7 (歳)0.70.80.70.8
8 ~ 9 (歳)0.81.00.80.9
10~11(歳)1.01.20.91.1
12~14(歳)1.21.41.11.3
15~17(歳)1.31.51.01.2
18~29(歳)1.21.40.91.1
30~49(歳)1.21.40.91.1
50~64(歳)1.11.30.91.1
65~74(歳)1.11.30.91.1
75 以上(歳)1.01.20.80.9
妊婦(付加量)+0.2+0.2
授乳婦(付加量)+0.2+0.2

※1 チアミン塩化物塩酸塩(分子量=337.3)の重量として示した。
※2 身体活動レベルⅡの推定エネルギー必要量を用いて算定した。
特記事項:推定平均必要量は、ビタミンB1の欠乏症である脚気を予防するに足る最小必要量からではなく、尿中にビタミンB1の排泄量が増大し始める摂取量(体内飽和量)から算定。

〔参考:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」〕

ビタミンB1が多く含まれる食べ物は?

豚肉

豚肉はビタミンB1の含有量が高い食材ですが、同じ豚肉でも脂身つきのばら肉は、ビタミンB1があまり多くありません。また、すでにお話ししたように、ビタミンB1は調理による損失が大きく、ゆでたあとには半分くらいに減ってしまいます。ゆでる場合はゆで汁をスープなどに利用するとよいでしょう。

■豚肉に含まれるビタミンB1量(可食部100g当たり)
食品名加工状態などビタミンB1(mg)
豚 [大型種肉] ヒレ 赤肉1.32
豚 [大型種肉] もも 赤肉0.96
豚 [大型種肉] ロース 赤肉0.80
豚 [大型種肉] ばら 脂身つき0.51

〔参考:文部科学省「食品成分データベース」〕

大豆などの豆類

豆類には、日本人の多くが主食として食べている「ご飯(精白米)」の10倍近いビタミンB1が含まれています(※精白米のビタミンB1量は可食部100g当たり0.02㎎)。豆類を主菜や副菜としていろいろな料理に使うことで、ビタミンB1の摂取量を確保するのと同時に、主食の主成分である糖質を効率的にエネルギーとして利用することができるでしょう。

■豆類に含まれるビタミンB1量(可食部100g当たり)
食品名加工状態などビタミンB1(mg)
いんげんまめ 全粒ゆで0.17
あずき 全粒ゆで0.15
挽きわり納豆0.14
絹ごし豆腐0.11

〔参考:文部科学省「食品成分データベース」〕

ほうれん草、ブロッコリーなどの緑色野菜

野菜のなかでは、ほうれん草やブロッコリー、ケールなどは比較的ビタミンB1が豊富です。ただし、豚肉の項目で解説したように、ゆでたりした場合かなりのビタミンB1が失われてしまうので注意しましょう。

■緑色野菜に含まれるビタミンB1量(可食部100g当たり)
食品名加工状態などビタミンB1(mg)
ほうれん草 葉0.11
ほうれん草 葉ゆで0.05
ブロッコリー 花序0.17
ブロッコリー 花序ゆで0.06
ケール 葉0.06

〔参考:文部科学省「食品成分データベース」〕

ビタミンB1を効率よく摂るポイント

調理法や食べ方の工夫

・ビタミンB1が減りにくい調理法とは

ビタミンB1は調理による損失が大きいです。高温に弱いことに加えて、水溶性ビタミンであるために、水分があるとそちらに移動してしまいます。ゆでたり煮たりする料理では、なるべく、ゆで汁や煮汁も利用できる調理法を考えてみましょう。

また、生の貝類や甲殻類、淡水魚には、アノイリナーゼというビタミンB1を分解する酵素が含まれています。この成分は加熱によって活性をなくすことが可能です。ただし、加熱によってビタミンB1も失われてしまうので、調理法には気を付ける必要があります。

・アリシンと一緒に食べる

一方、「ビタミンB1の特徴」の項目で解説したように、ビタミンB1はアリシンという成分と一緒に摂ると、吸収率を高めることができます。アリシンは、にんにく、こんにゃく、たまねぎ、ニラなどに多く含まれています。

市販の医薬品などの利用を考えてみる

少食や偏食をしていて微量栄養素の摂取量が少ない人、あるいはお酒を習慣的に飲んでいる人では、ビタミンB1が不足している可能性があります。不足しているのではないかと心配な人は、前述の吸収に優れたフルスルチアミンが配合されている市販の医薬品などの利用を考えてみるのもよいでしょう。

なお、サプリメントにはフルスルチアミンを入れることが出来ません。

ビタミンB1不足を放置しないで

“疲労回復ビタミン”とも呼ばれる「ビタミンB1」は、必要とされる量はわずかですが、わずかであるがために、少食や偏食のために摂取量自体が少なかったり、アルコールや糖質の過剰摂取などによって需要が増えている場合には、不足が生じてしまうこともあります。さらに、ビタミンB1は水溶性のため調理の工夫が必要だったり、吸収される量には限度があり、体内に蓄えられないことなども、説明してきたとおりです。

ビタミンB1が不足すると疲れを感じやすくなります。その理由は、ビタミンB1不足は「エネルギーの通貨(ATP)」の不足を招き、エネルギーが十分に作られなくなるからです。

・エネルギー産生の仕組みとビタミンB1

食品としての糖質は通常、いくつかの糖類が結合したかたち(多糖類や複合糖質と呼ばれるもので、例えばでんぷん)になっていて、消化によって単糖類であるブドウ糖などに分解されてから体内に吸収されます。ブドウ糖は体内でさまざまなステップを経てピルビン酸となり、そのピルビン酸はビタミンB1の働きでアセチルCoAに変わります。このアセチルCoAを利用して、エネルギー産生に繋がる「TCA回路(クエン酸回路)」が回転して、電子伝達系を経てATP(エネルギーの通貨)が作られます。

糖質は「エネルギーの源」であるものの、ビタミンB1が不足していると糖質がアセチルCoAとなりTCA回路に入ることができず、「エネルギーの通貨(ATP)」を十分に作り出せません。また、糖質の過剰摂取で、ビタミンB1が不足しやすくなることもあります。

つまり、ビタミンB1が不足すると、エネルギー産生が十分にできず、疲れを感じやすくなります。

また、ビタミンB1は神経の情報伝達に関与しているため、ビタミンB1不足によって腰痛や肩こり、疲れ目、手足のしびれなどが現れることもあります。それらの症状が現れている場合は、ビタミン剤などの医薬品で対処することも考えてみましょう。市販のビタミン剤などでビタミンB1を補給しても症状が緩和されない場合には、それらの症状の原因がビタミンB1不足だけではなく、その他の病気などの可能性もあるので、気になる場合は早めに医師の診察を受けましょう。

<参考文献>
  • 「医薬品ビタミンB1誘導体と抗疲労」BIO Clinica36(1),p.50-,2021
  • 「食べて治す医学大事典」2018,p.54-,67-,205-
  • 「血清ビタミン濃度」総合診療29(8),p.934-,2019
  • 「8.高齢者心不全におけるビタミンB1不足の意義」2018年92巻11号p. 516-517
  • 「ビタミン不足の臨床的・社会的意義に関する研究」Vitamins (Japan), 93 (8), 325-333 (2019)

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