更新日:2025年9月25日
ビタミンB6はつわりに効果的?多く含む食べ物や効率よく摂取するためのポイントを紹介
「つわりにはビタミンB6が効く」という話を聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。つわりは妊娠初期に多くの妊婦が経験するものですが、その症状のつらさから、家事や仕事などの普段の生活もままならなくなってしまうことがあるようです。ここでは、つわりにビタミンB6が効くといわれる背景と、そもそもビタミンB6とはどのような栄養素なのか、どのような食べ物に含まれているのかなどを解説します。
監修
宗田 聡 先生
広尾レディース 院長・茨城県立医療大学 客員教授
INDEX
つわりの緩和にビタミンB6が効くって本当?
つわりのメカニズム
つわりの原因は、実はまだよくわかっていません。現在のところ、妊娠に伴う内分泌(ホルモン)や代謝(栄養素をエネルギーとして利用したり他の物質に作り変える化学反応)の変化の影響、あるいは精神医学的な要素などが関係していると考えられています。
例えば、妊娠によって活性化されるホルモンが、脳内にある嘔吐中枢を刺激することによって、吐き気をはじめとするさまざまな不快感を生じさせるのではないかという考えがあります。また、妊娠とともに増加するプロゲステロン(黄体ホルモン)が、平滑筋(自律神経によりコントロールされていて、自分の意思では動かすことのできない筋肉。消化管のぜん動運動(腸の内容物を先へ先へと運ぶための運動)などにかかわる)を弛緩させるように作用することも、消化器症状につながることがあると考えられています。
その他にも、妊娠中はビタミンの必要量が増えるために、相対的にビタミン不足になりやすく、そのことが代謝の変化などにつながり、つわりの症状を引き起こすという可能性も指摘されています。なお、つわりのリスク因子(起こりやすさと関係のある要因)としては、初産、多胎妊娠(双子など)、女児の妊娠、高ストレス状態や不安感、ピロリ菌感染などが知られています。
・つわりで起こる主な症状
つわりの症状や程度はさまざまで個人差が大きいものですが、吐き気や嘔吐は高い頻度でみられます。その他、唾液の増加、倦怠感、頭痛、眠気、食欲不振、嗜好の変化なども現れやすい症状として挙げられます。
・つわりの起こる時期と経過
つわりには個人差がありますが、人によっては妊娠初期(4~6週)から起こり始めます。そのため、つわりの症状が現れて、初めて妊娠したことに気づく人もいます。妊娠14~16週になると、つわりの症状は自然に消失することが多いとされています。もし妊娠16週を過ぎてもつわりのような症状が続く場合は、つわりによるものではなく妊娠後期に起こるつわりと似た症状(子宮の増大による胃腸への圧迫が原因で起こる吐き気など)、あるいは全く別の病気(胃腸系の病気)の可能性もあるため、医師に相談するようにしましょう。
つわりの緩和にビタミンB6が効くといわれる理由とは?
先述のように、つわりは原因がまだよくわかっていないため、“特効薬”のような治療法はないのが現状です。一方で、妊娠中はビタミンB6の需要が高まる(必要量が増える)ことが知られています。また、つわりのある妊婦は、つわりのない妊婦に比べて、血液中のビタミンB6濃度が低いといわれることもあります。
ビタミンB6は、主にタンパク質の代謝や、自律神経の働きにも必要とされるため、不足によってそれらの機能が滞りがちになることも、つわりの症状に関係しているのではないかといわれています。例えば、タンパク質の材料であるアミノ酸の一種の「トリプトファン」は、ビタミンB6が不足すると代謝がスムーズにいかず、「キサンツレン酸」という物質が増加します。これがつわりに関与しているという仮説もあります。
また、つわりに対する医学的な治療として、ビタミンB6製剤を投与する薬物療法の有効性については、古くから研究が行われ、効果が報告されてきています。実際、米国産科婦人科学会では、ランダム化比較試験(RCT:治療法の効果を確かめるために無作為に行われる信頼性の高い試験)の結果から、つわりに対する薬物療法としてビタミンB6製剤の投与を推奨しています。また、日本産婦人科学会のガイドライン1)でも、ビタミンB6製剤の投与については考慮の対象となる参考意見(レベルC)として記されています。
このような理由から、ビタミンB6を摂取することでつわりの緩和が期待できるとされているのです。
1) 産婦人科診療ガイドライン産科編
(https://www.jsog.or.jp/activity/pdf/gl_sanka_2023.pdf)
ビタミンB6について
ビタミンは、体の諸機能を整える「微量栄養素」です。微量栄養素とは、エネルギー源となる三大栄養素(炭水化物、タンパク質、脂質)に比べれば必要とされる量はごくわずかなものの、体内でほとんど作り出すことができないため、食品からの摂取が欠かせない栄養素のことです。
ビタミンは、水に溶けやすい水溶性ビタミンと、水には溶けにくく脂肪に溶けやすい脂溶性ビタミンに分けられます。前者の水溶性ビタミンには、ビタミンB群(B1、B2、B6、B12、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビオチン)とビタミンCの9種類が該当し、後者の脂溶性ビタミンには、ビタミンA、D、E、Kの4種類が該当します。
ビタミンB6の働き
ビタミンB6は、ビタミンB群の中でも体内のさまざまな化学反応に不可欠な酵素の活性を調整する補酵素として働きます。また、筋肉や血液などが作られる際のタンパク質の代謝に重要な役割を担っています。
またビタミンB6は、神経伝達物質(例えばアドレナリンやセロトニン、ドーパミンなど)の合成にも必要とされます。その他にも、赤血球やホルモンの産生などにもかかわっていて、ビタミンB6は体内でさまざまな働きを担っているのです。
ビタミンB6が欠乏すると現れる症状
体に必要な栄養素が足りないことによって、何らかの症状が現れている状態を「欠乏」状態といいます。ビタミンB6が欠乏した場合、神経障害や皮膚炎、口角炎、口唇炎(こうしんえん)などが現れることがあります。他にも、食欲不振や吐き気・嘔吐、下痢、貧血、けいれん、手足のしびれ、足のこむらがえり(ふくらはぎがつること)といった症状にも、ビタミンB6の欠乏が関係していることがあるとされています。
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ビタミンB6の摂取推奨量は?
厚生労働省が策定している「日本人の食事摂取基準」によると、性別および年代別のビタミンB6の推定平均必要量と推奨量、耐用上限量は以下のとおりです。「推定平均必要量」とは、50%の人が必要量を満たすと考えられる量のこと、「推奨量」とは日本人の大半(97~98%)が必要量を満たすと考えられる量のこと、「耐用上限量」とは習慣的に摂取しても健康障害をもたらすリスクがないとみなされる上限量のことです。
なお、妊婦または授乳婦については「付加量」という項目が設けられています。妊娠中には赤ちゃんの成長などのために需要が増えるため、追加的に摂取すべき量として、この付加量が掲げられているのです。
性 別 | 男 性 | 女 性 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
年齢等 | 推定平均 必要量 | 推奨量 | 耐用 上限量※2 | 推定平均 必要量 | 推奨量 | 耐用 上限量 |
18~29(歳) | 1.2 | 1.5 | 55 | 1.0 | 1.2 | 45 |
30~49(歳) | 1.2 | 1.5 | 60 | 1.0 | 1.2 | 45 |
50~64(歳) | 1.2 | 1.5 | 60 | 1.0 | 1.2 | 45 |
65~74(歳) | 1.2 | 1.4 | 55 | 1.0 | 1.2 | 45 |
75以上(歳) | 1.2 | 1.4 | 50 | 1.0 | 1.2 | 40 |
妊婦(付加量) | +0.2 | +0.2 | ─ | |||
授乳婦(付加量) | +0.3 | +0.3 | ─ |
※1 タンパク質の推奨量を用いて算定した(妊婦・授乳婦の付加量は除く)。
※2 ピリドキシン(分子量=169.2)相当量として示した。
〔出典:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」〕
ビタミンB6の摂りすぎによる影響はある?
先述のように、ビタミンB群は水溶性ビタミンの一種です。ビタミンは1つの食品で多くを摂取することが難しいとされていますが、特に水溶性ビタミンはその種類によっては、体が必要としていない分は尿から排泄されるため体から失われやすかったりすることから、一般的に摂りすぎの心配は少ないといわれています。
ただし、サプリメントや薬剤として大量に(例えば1日に250mg以上)長期間、摂取・服用し続けた結果、感覚神経障害や光線過敏症などが生じたという報告があることから、サプリメントや薬剤については、定められた用法・用量を守ることが大切です。
つわり対策に!ビタミンB6を多く含む食べ物をチェック
肉類
食品名 | 加工状態など | ビタミンB6(mg) |
---|---|---|
ぶた ヒレ 赤肉 | 焼き | 0.76 |
ぶた ひき肉 | 焼き | 0.42 |
にわとり 若どり ささみ | 焼き | 0.59 |
にわとり ひき肉 | 焼き | 0.61 |
うし(輸入牛肉) もも 皮下脂肪なし | 焼き | 0.53 |
うし(乳用肥育牛肉・雄) ヒレ 赤肉 | 焼き | 0.45 |
〔出典:文部科学省「食品成分データベース」〕
魚介類
食品名 | 加工状態など | ビタミンB6(mg) |
---|---|---|
ごまさば | 焼き | 0.55 |
たいせいようさけ(養殖) 皮つき | 電子レンジ調理 | 0.61 |
まいわし | 焼き | 0.39 |
さんま | 開き干し | 0.54 |
〔出典:文部科学省「食品成分データベース」〕
穀類
食品名 | 加工状態など | ビタミンB6(mg) |
---|---|---|
こめ(水稲めし) | 玄米 | 0.21 |
こむぎ(パン類) | 全粒粉パン | 0.13 |
〔出典:文部科学省「食品成分データベース」〕
種実類
食品名 | 加工状態など | ビタミンB6(mg) |
---|---|---|
らっかせい | バターピーナッツ | 0.48 |
らっかせい | いり | 0.46 |
くり(中国ぐり) | 甘ぐり | 0.37 |
ピスタチオ | いり 味付け | 1.22 |
〔出典:文部科学省「食品成分データベース」〕
野菜・果物類
食品名 | 加工状態など | ビタミンB6(mg) |
---|---|---|
西洋かぼちゃ | 果実 ゆで | 0.18 |
だいこん | 切干しだいこん 乾 | 0.29 |
ブロッコリー | 花序 焼き | 0.67 |
赤ピーマン | 果実 油いため | 0.39 |
モロヘイヤ | 茎葉 生 | 0.35 |
バナナ | 生 | 0.38 |
〔出典:文部科学省「食品成分データベース」〕
ビタミンB6を効率よく摂取するためのポイント
調理方法を工夫する
先述のように、ビタミンB6は水に溶けやすい水溶性ビタミンです。そのため、ビタミンB6が豊富な食材であっても、調理に水を使うと食材からビタミンB6が水の方へ出ていってしまいます。そこで、ビタミンB6を効率よく摂取するには、スープなどのゆで汁や煮汁も使って食べるようなメニューにするとよいでしょう。
また、ビタミンB6の体内での利用率は食品によって差があり、植物性食品よりも動物性食品のほうが高いことがわかっています。一方、調理による損失は、植物性食品のほうが少ないとされています。これらのことから、特定の食品に偏ることなく、さまざまな食品を摂ることが大切と考えられます。
サプリメントやビタミン剤を活用する
食品に含まれるビタミンB6の体内での利用率は7割程度で、植物性食品は動物性食品よりも低いとされています。それに対して、サプリメントやビタミン剤には体内で吸収しやすいような形で含まれているため、利用率は9割以上といわれています。そのため、ビタミンB6の必要量が高くなるようなときには、サプリメントやビタミン剤を活用するのも一つの手です。ビタミンB6を含むビタミンB群は互いに協働しているため、ビタミンB6だけでなく、ビタミンB1やB2、B12、葉酸なども含まれている製品を選ぶと、より効率的に不足が補正されるでしょう。
なお、ビタミンB6は欠乏すると、先述のような神経障害や皮膚炎など、さまざまな症状や影響が現れることがあるため、妊婦に限らず積極的に摂取したい栄養素の一つといえます。
一方、ビタミンB群以外のビタミンの中には、妊娠中には過剰摂取に注意が必要なビタミン(脂溶性ビタミンであるビタミンAなど)もあります。ビタミン剤によっては複数のビタミンが含まれていることもあるので、妊娠中または妊娠の予定があり、サプリメントやビタミン剤の服用を考えている場合は、十分に注意して選ぶようにしましょう。
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妊娠中は、つわりの緩和が期待できるビタミンB6が不足しないよう心がけよう
今回は、つわり対策としてのビタミンB6の可能性や、ビタミンB6そのものについて解説してきました。妊婦にとってつわりの症状はつらいものですが、ビタミンB6を摂取することで症状の緩和が期待できます。また、妊婦以外の方にとっても、ビタミンB6はタンパク質の代謝や神経やホルモンの働きにも関わる重要な栄養素です。そのため、性別や年齢にかかわらず、十分に摂取することが望ましいとされています。食生活の改善とともに無理なく続けられる習慣として、サプリメントやビタミン剤の活用も考えてみてはいかがでしょうか。
- <参考文献>
- 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」
- 文部科学省「食品成分データベース」