更新日:2024年7月25日

倍速視聴とは?脳への影響や倍速視聴がもたらす脳疲労への対処法をご紹介

「倍速視聴」とは、テレビや映画、ネット配信など、映像の元々の速度を変えて再生・視聴することを指します。自分の好みの速度で倍速視聴することにより再生時間を短縮したり、効率的に情報を得たりすることができる一方、情報過多になり脳に影響が生じる懸念も。

ここでは、倍速視聴に関するデータを取り上げながら、脳への影響や脳疲労への対処法についてご紹介します。

監修

渡辺 恭良 先生

日本疲労学会 理事長、
神戸大学大学院 科学技術イノベーション研究科 特命教授、
理化学研究所 名誉研究員、
Integrated Health Science株式会社 代表取締役CEO

INDEX

倍速視聴(倍速再生)とは?

倍速視聴とは、テレビや映画、ネット配信などの映像を、速度を変えて再生(視聴)することをいいます。倍速といっても単に2倍にするのではなく、1.2倍や1.5倍など、好みの速度で視聴する場合に対し使われます。視聴速度を上げるだけでなく、0.75倍や0.5倍などに下げる場合も倍速視聴と呼ぶことがあります。

倍速視聴は昨今、Z世代※1を中心に耳にするようになった「Time Performance(タイム・パフォーマンス)」、通称「タイパ※2」(以下、タイパ)の代表的な行動とされています。タイパを重視する背景には、例えば「自分にとって『価値がある』と感じることに時間を割きたい」「多くのことをできるだけ効率化したい」というように、費やす時間に対して高い満足度を追求したいという思いがあると考えられます。

※1:ジェネレーションZ。1990年代中盤以降に生まれ2010~2020年代に社会進出する世代を指すことが多いが、定義は厳密に決められているわけではない
※2:かけた時間に対して得られる成果。また、短い時間で効率を上げようとすること。時間対効果

若年層(Z世代)以外にも広まる「倍速視聴」

倍速視聴の経験がある人は増加傾向

倍速視聴は若年層に限らずさまざまな年代に浸透しています。動画コンテンツの倍速視聴経験が「ある」と答えた人の割合は全体で約半数、50~60代でも3~4割を占めています。3年前と比べると全体の割合も1割以上増加しており、倍速視聴の習慣が世間一般に広がっていることがわかります。

※マーケティング・リサーチ会社のクロス・マーケティングが実施した
「動画の倍速視聴に関する調査」をもとに作成

倍速視聴をする理由は?

倍速視聴をする理由はさまざまですが、若い人ほどタイパを意識している傾向があることが、民間企業による複数の調査結果から見てとれます。特にZ世代は、一人あたりが視聴する動画の数が多い傾向があり、それを消化するために倍速で視聴しているという意見も聞かれます。

倍速視聴をするのはいつ?見るコンテンツは何?

倍速視聴をするタイミングは休日や平日の夜、寝る前など多岐にわたっています。

倍速で見る動画の種類は男女で少し差があり、女性はドラマ、男性はYouTubeを倍速視聴することが多いようです。しかし、その差はさほど大きくなく、どんな動画を倍速視聴するのかは、性別や年代よりも個人差のほうが大きいようです。

倍速視聴に対する意識

動画コンテンツを倍速で視聴することに対しては、「自分の好きな速度で見られるので、自由度が上がる」と答える人がいる一方で、「テンポが速すぎて内容がよく理解できない」「印象が残りにくく、内容を忘れてしまいやすい」という回答もあり、意見が分かれています。

通常速度での視聴では必要な情報にたどり着くまでに時間を要し、効率がよくないと思ってしまう方は、倍速視聴と一時停止を頻繁に繰り返すことも多いでしょう。また、見たいシーンを通り過ぎてしまって巻き戻すこともよくありますよね。このとき、倍速にするシーンと通常速度にするシーンとの切替の判断を瞬時に、絶えず行うことになります。そのため、日常的に脳疲労が発生してしまうのです。

また、タイパや効率を高める目的で動画を倍速視聴しても、動画コンテンツサービスでは一つの動画が終わるごとに次々とおすすめの関連動画が表示、再生されます。それを延々と見続けてしまった結果、長時間視聴につながり、かえってタイパが下がるという悪循環も生じています。そのため、倍速視聴が必ずしも効率化につながるとはいえず、メリット・デメリットを考えたうえで付き合っていく必要がありそうです。

倍速視聴がもたらすのはよいことばかりではない!?倍速視聴による脳への影響

脳はたくさんの情報を処理している

倍速視聴をすると視聴できる動画の数が増えたり、行動の効率化をはかったりできるというメリットがありますが、一方であまり歓迎できない影響が生じることも考えられます。例えば「疲労感の増大」です。

脳は「何かを考える」という活動だけでなく、話したり運動したりといったすべての生命活動にかかわっています。そのため、脳はいつでも活動時の指令や情報を電気信号によって伝達できるよう、常に一定の微量な電位を保っています。車のアイドリングのような状態です。このように脳は絶えず、多くのエネルギーを消費しています。それに加え現代はマルチタスク化が進み、複数の作業を同時に進行するなど、脳が処理すべき情報量が増えている傾向にあります。

また、脳は全身の各所で発生している疲れを感じるという大切な役割も担っています。体の疲れに加えて、脳での膨大な情報処理による負担が加わることで、疲労感が倍増している可能性も考えられます。

脳が一度に処理できる情報量には限界があります。多くの情報を処理するとその分、脳の負荷も増し、疲れの感じ方も強くなるでしょう。

倍速視聴は脳を疲れさせる?

倍速視聴が、疲労感だけでなく、脳の疲れを引き起こす一因になっている可能性も否定できません。

例えば2倍の速度で動画を視聴した場合、それは通常の速度で動画を視聴するときに比べて時間あたりの情報(刺激)量が2倍になることを意味します。

映像コンテンツの高速提示が学習効果に与える影響を研究した論文によると、映像コンテンツの速度が速まることによって脳の情報処理量が増大し、負荷が高まる可能性が示唆されています。

脳の情報処理負荷が高まるということはつまり、脳の活動量が増えることであり、脳の疲労が増すと考えられます。動画を視聴している間、脳はずっと情報を処理し続けているため、ストレスも強くなるでしょう。

脳の過活動が疲れの根本的原因に?

脳が疲れると集中力の低下やミスの増加、イライラするといった症状が現れやすくなります。頭がぼーっとするほか、しっかり寝たのにすっきりしないこともあるでしょう。それは脳の活動量が増えることによって、脳内に活性酸素がたまりやすくなった影響かもしれません。

人間が活動する際のエネルギーは、酸素を使ってブドウ糖や脂肪酸からつくられたATP(アデノシン三リン酸)が分解されるときに発生します。そのときに副産物として活性酸素がつくられます。活性酸素が体内に蓄積されていくと脳の細胞が酸化され機能低下を起こし、例えば、集中力の低下やミスが増えるといったことがあります。

また、強い身体的・精神的疲労負荷をかけたときの脳の活動を調べた研究によると、急性疲労には脳の過活動が影響していることもわかっています。つまり、体の疲れのもとをたどれば、脳の疲れ(=脳疲労)が原因になっていることもあるのです。

倍速視聴がもたらす脳疲労への対処法

倍速視聴は、脳が疲労する一つの要因になっている可能性があります。そこで、倍速視聴によって生じる脳疲労への対処法をご紹介します。

倍速視聴をする時間、コンテンツを決め、情報量をコントロールする

脳にとって最も良くないのは、常に過剰な負荷がかかり続ける状態になることです。倍速視聴をすると脳に入ってくる情報量が増えるので、負荷が上がります。そのため、可能であれば倍速視聴する時間を限定したり(例:1日2時間まで)、倍速で再生する動画の種類を限定したりして情報量をコントロールし、脳にかける負荷を下げるような工夫をしましょう。

【倍速視聴に向くコンテンツ・向かないコンテンツ】

マーケティング・リサーチ会社のクロス・マーケティング社が実施した「動画の倍速視聴に関する調査」でも、倍速視聴をしたいコンテンツとしてドラマやニュース・報道などをあげる人が多くいました。それは、これらがセリフやナレーションなどの音声情報も多く含んでおり、倍速で視聴しても通常速度とそん色ない情報を得やすいことが関係しているかもしれません。

一方、スポーツ、アニメ・特撮、ドキュメンタリーなどは倍速視聴したいと答える人が比較的少ない傾向がありました。これらのコンテンツはビジュアルから得る情報が多く、再生速度を上げると十分に楽しめない可能性があることが関係していそうです。こうした情報を参考に、倍速視聴するコンテンツを決めるのもよいでしょう。

音声による情報の補完で情報処理負荷を減らす

さきほども紹介した映像コンテンツの高速提示が学習効果に与える影響を研究した論文によると、映像の再生速度と脳への負荷はコンテンツの内容というよりも、主に情報を取得する手段が映像優位(ビジュアル型)なのか、音声+映像(バーバル型)なのかが関係すると示唆されています。

ビジュアル型の場合、音声からの情報取得が少なく、ほとんどを映像から情報を得ているため、再生速度が速くなると短時間で多くの情報を得ようとして脳の情報処理負荷が高まっている可能性が示されています。

一方、バーバル型の場合、聴覚からの情報の取得の補完として映像を使用しているため、情報処理負荷が軽減していた可能性が示唆されています。

休息を挟む

再生速度にかかわらず、映像を見続けていると脳の負荷の他に眼精疲労もたまり、目の痛み、かすみ、まぶしさ、充血などの症状が生じることがあります。適度に休息を挟み、脳も目も休ませることが大切です。スマホ(スマートフォン)を利用して視聴している場合は姿勢が前かがみになり、首や肩に負担がかかっていることもあります。適度に姿勢を変えたり、ストレッチをすることも意識しましょう。

スマートフォンとの付き合い方に関連する記事はこちら

寝る直前に倍速視聴をしない

睡眠は体や脳の疲労回復に欠かせません。睡眠は脳を休めて不要な記憶を消去するとともに、活性酸素の除去にも有効といわれています。

眠る時間だけでなく質も重要で、質のよい睡眠を取ることが大切です。寝る直前に倍速で動画を視聴すると、その刺激によって交感神経(活動的になるときに働く自律神経)が活性化されやすくなり、眠りの妨げになる可能性があります。

寝室にはスマホやタブレット端末を持ち込まず、できるだけ暗くして寝ることが睡眠の質を高めることにつながるとされています。ノルウェーで行われた大規模調査でも、寝る直前にデジタル機器を使用した場合、入眠が妨げられ、睡眠不足になりやすいことがわかっています。それだけでなく、動画視聴後に表示されるおすすめ動画を見てしまうことによって長時間視聴にもつながってしまうことも多く、ますます睡眠時間が削られてしまいます。脳への刺激となってしまうため、寝る直前の倍速視聴はもちろん、デジタル機器を使用すること自体を避けたほうがよいでしょう。

疲労回復に有効な栄養素を積極的に摂る

脳を含む疲れの回復には、栄養も重要です。必須とされる栄養素が不足すると、エネルギー不足や細胞の生命・機能維持に必要なタンパク質の不足などを引き起こし、疲労の原因となることが。そのため、バランスよく栄養を摂取することが疲労回復の基本です。

また、これまでの研究により疲労回復効果が明らかになった栄養素がいくつかあります。それらを積極的に摂取するのもよいでしょう。

【疲労回復に役立つ栄養素】

ビタミンB1疲労対策に必要な栄養素として有名。ビタミンB1が不足すると疲労回復力や疲労に対する抵抗力が低下します。心臓などの臓器の機能低下も招いてしまうので注意が必要です。ビタミンB1は豚肉・かつお・うなぎ・玄米・大豆・ジャガイモ・ほうれん草などに多く含まれていますが、水に溶けやすく熱に弱い性質のため、調理で失われがちです。また、体内に蓄えておきにくく、不足すると疲労感の増加、臓器の機能低下を引き起こすことも。糖質中心の食生活や飲酒量の多い人はビタミンB1が不足がちになることもわかっています。ニンニクやタマネギに含まれるアリシンとともに摂取すると吸収率が上がります。

ビタミンB1は体内に貯蔵されにくい栄養素なので、日々積極的に摂ることが大切です。特に医薬品成分として改良されたフルスルチアミン(ビタミンB1誘導体)は、ビタミンB1よりも腸管から吸収されやすく、エネルギー産生に働きかけることで疲労回復効果を発揮します。こういった疲労回復に必要な栄養素が補給できる栄養ドリンクを活用するのもよいでしょう。

疲労回復におすすめのフルスルチアミン(ビタミンB1誘導体)を配合したアリナミンの栄養ドリンク

パントテン酸:ビタミンの一つで、ビタミンB₂とともに脂肪の分解を促進し、エネルギー代謝に重要な役割を果たしています。レバーや桜エビ、牛乳などに多く含まれます。

L-カルニチン:脂肪燃焼系のアミノ酸です。脂肪の代謝をサポートしエネルギー産生を効率よく進めてくれます。ラム肉や牛肉、カツオなどに多く含まれます。

クエン酸:エネルギーをつくるシステムであるTCA回路を円滑に回してくれる栄養素です。柑橘系の果物や梅干しなどに多く含まれています。

コエンザイムQ10:栄養素をエネルギーに変える補酵素。不足するとうまくエネルギーの産生ができなくなってしまいます。いわしや牛乳、ほうれん草などに多く含まれます。

倍速視聴とうまく付き合って、脳への負担を減らそう

動画の倍速視聴は、Z世代と呼ばれる若者世代を中心に行われていますが、ここ数年、世代にかかわらず幅広く広まっています。倍速視聴をするメリットとして、動画の再生時間が短縮でき、より多くの動画を見ることができるなど、タイパの向上が期待できる点があります。

しかしデメリットもあり、脳が処理する時間あたりの情報量が増えるため、脳の負荷が大きくなり、疲労の原因になっている可能性があります。倍速視聴をする時間を限定したり、疲労回復に積極的に努めたりして、脳を含めた体への疲労の蓄積をしないようにしましょう。

<参考文献>

疲労の回復・予防、集中力の維持・改善に
アリナミンからのおすすめの製品

製品ラインナップをみる