更新日:2025年7月29日
オーバートレーニング症候群とは?疲労の蓄積によって起きる不調や疲れを溜めない方法を解説
「オーバートレーニング症候群」とは、過度なトレーニングや休養不足、栄養不足などによって慢性的な疲労が続いてしまう状態を指します。運動能力や競技成績が低下するだけでなく、症状が悪化すると心身にさまざまな不調が生じるため、早めの対策が必要です。オーバートレーニング症候群は、主にアスリートなど強度の高いトレーニングを行う人が陥るものと考えられていますが、アスリートに限らず一般の人においても、自分のコンディションを把握せずに過度な運動を行うと同様の症状が現れる可能性があるため、注意が必要です。今回は、オーバートレーニング症候群が起きる仕組みや症状、原因の他、日常的に疲労が蓄積することで起きる体の不調や有効な対策について解説します。
監修
田中 祐貴 先生
ゆうき内科・スポーツ内科 院長/内科医/スポーツドクター
INDEX
オーバートレーニング症候群とは
オーバートレーニング症候群とは、過度なトレーニングによる肉体的・精神的疲労が十分に回復せずに蓄積されてしまい、慢性的に疲労を感じている状態を指します。似た言葉に「オーバーワーク」がありますが、オーバーワークは長時間労働などによって働きすぎになっている状態のこと。オーバーワークは仕事や家事、育児、介護などによる日常的な負荷が原因となって引き起こされますが、オーバートレーニング症候群は過度なトレーニングが主な原因となって生じるのが特徴です。
オーバートレーニング症候群が起きる仕組み
トレーニングの後には誰しも疲労を感じますが、一時的な疲労であれば、栄養素を十分に摂ったり、休養や睡眠を取ったりすることで回復します。体力向上や競技成績のアップといったトレーニングの効果は、トレーニングと休養、栄養摂取のバランスが取れることで初めて得られるもの。そのため、休養や栄養摂取が不足している中で過度なトレーニングを続けていると、疲労がどんどん溜まり、トレーニングの効果も低下してしまう可能性があります。
オーバートレーニング症候群は、疲労の蓄積に加えて、さまざまな要因が重なり合うことで発症すると考えられています。例えば、疲労が溜まっている状態で慢性的に肉体的・精神的ストレスがかかることで、ホルモンの指令塔である脳の「視床下部-下垂体系」が機能不全になり、ホルモンのバランスが崩れることも発症に関連しているといわれています。
こうした状態が慢性化すると、オーバートレーニング症候群が起き、運動能力や競技成績が低下したり、さらには精神状態の悪化などの症状が現れたりしてしまうのです。
オーバートレーニング症候群のリスクが高い人とは
一般的にオーバートレーニング症候群は、マラソンや水泳など、淡々と同じトレーニングを繰り返す必要のある持久系のスポーツを行う人において発症リスクが高いといわれています。
また、オーバートレーニング症候群の主な要因は、肉体的・精神的疲労の蓄積です。そのため、「もっと成績を上げなければ」「周りの期待に応えなければ」と強いプレッシャーを感じている人やストイックに練習を続けている人ほど、休養が十分に取れず、肉体的・精神的疲労が蓄積することでオーバートレーニング症候群になりやすいとされています。
オーバートレーニング症候群の症状
オーバートレーニング症候群の症状は、初期症状から中等症、重症へと段階的に進行していきます。ただし、オーバートレーニング症候群には特有の症状はなく、初期の段階では異常に気付けないことも少なくありません。そのため、放置することで次第に症状が悪化し、最終的には日常生活にも支障をきたすほど深刻な状態に陥ることもあるため、早期発見が何より大切です。
ここでは、オーバートレーニング症候群の症状を、初期症状から中等症、重症の3段階に分けて詳しく解説します。気になる症状があった人は、他の疾患が隠れている場合もあるので、早めに医療機関を受診するようにしましょう。
初期症状
オーバートレーニング症候群の初期では、「なんとなく記録が伸びない」「動きにキレがない」といったように、スポーツの成績や動きの質が落ち始めるのが特徴です。日常生活では問題なく過ごせても、トレーニングの際に疲れやだるさを感じることが増えてきます。強い負荷がかかるトレーニングを行うと、体が思うように動かず、疲労を感じるようになるのも初期症状のひとつです。
中等症
休養や栄養が不足して症状が悪化すると、トレーニングの強度を強めたときだけでなく、比較的軽めの運動でも体が思うように動かなくなり、疲労を感じるようになります。
運動後も筋肉痛や疲労がなかなか回復しなくなり、倦怠感が生じたり、集中力が低下したりする他、食欲低下や体重減少、睡眠障害が引き起こされることも。さらに、免疫機能が低下するため、風邪や感染症にかかりやすくなったり、口内炎やヘルペスができたりといった不調が起こることもあります。
中等症になると回復に2~3ヵ月かかるケースもあるため、疲れやだるさを感じるようになったら早めに休養を取るようにしましょう。
重症
重症になると、トレーニングやスポーツをしているときだけでなく、普段の生活でも常に疲労感や倦怠感が現れるようになり、気分の落ち込みや無気力感といった、うつ病に似た精神症状が起こります。
トレーニングどころか、日常生活や今後の競技生活にも大きな支障をきたしてしまうため、まずはトレーニングを完全に休んで十分な休息を取るのが好ましいとされています。症状などにもよりますが、治療には3~6ヵ月の完全休養が必要だといわれています。「大会が控えていて休めない」という人もいるかもしれませんが、心身の健康を守り、今後も競技を続けていくためには、休養する勇気を持つことが大切です。
オーバートレーニング症候群の原因
オーバートレーニング症候群は、運動そのものだけでなく、休養不足や栄養不足、ストレスなどさまざまな要因が重なることで発症します。ここからは、オーバートレーニング症候群を引き起こす主な原因を見ていきましょう。
過度なトレーニング
オーバートレーニング症候群の主な原因は、過度なトレーニングです。
トレーニングの量を急激に増やしたり、強度を上げすぎたり、自分の体力レベルに見合わないハードな練習を詰め込むと、体が回復しきれないまま次のトレーニングに臨むことになり、疲労がどんどん蓄積されてしまいます。特にマラソンやトライアスロンなど持久系のスポーツは、トレーニングの強度が高くなりやすいので注意が必要です。
運動を終えてから10分以上経っても息切れが続く場合や、心拍数が100回/分以下にならない場合は、運動の強度が高すぎる可能性があります。また、起床時の心拍数が通常より15回/分以上増加している状態が1週間以上続く場合は、過度なトレーニングによって疲労症状が高まっているサインです。こうした異常が見られる場合は、トレーニングの負荷を下げるようにしましょう。
心拍数は、心臓病や甲状腺の異常、肺の疾患、貧血などによって上昇することもあります。また、高血糖や高血圧、高コレステロールなども、高心拍数と強い関係があるといわれています。安静時の心拍数が高い状態が続く場合は、医師の診断を受けるようにしましょう。
休養不足・睡眠不足
トレーニングの予定を詰め込みすぎて休養が十分取れていないことも、発症のリスクになります。特に睡眠不足は、オーバートレーニング症候群を引き起こす大きな要因のひとつです。
睡眠を十分取っている場合は、脳から「成長ホルモン」が分泌され、骨や筋肉の発育・発達を促したり、筋肉の疲労回復を早めたりします。しかし、睡眠時間が短かったり睡眠の質が悪かったりすると、成長ホルモンが十分に分泌されず、回復が追いつかなくなってしまうのです。
栄養不足
十分な栄養素が摂取できていない場合も、体の回復が追いつかなくなります。そのため、栄養バランスが乱れていたり、エネルギーが不足したりしていると、オーバートレーニング症候群の発症リスクが高まってしまいます。
特に、体のエネルギー源となる糖質や、筋肉などをつくる主成分になるタンパク質が不足していると不調を感じやすくなるため、注意が必要です。また、ビタミンB1、B2、B6、B12、ナイアシン、パントテン酸、ビオチン、葉酸の8つの栄養素からなるビタミンB群は、エネルギー代謝を助ける働きがあるため、筋肉や神経の疲労回復に欠かせません。
さらに、激しい運動で大量に汗をかくと、ナトリウムやカリウムなど電解質も失われやすく、筋力の低下や筋肉のけいれん、ひきつりなどにつながります。そのため、トレーニング中やトレーニング後は、水分と一緒にミネラルを摂取することも大切です。
過度な精神的ストレス
肉体的疲労だけでなく、精神的なストレスもオーバートレーニング症候群の原因になります。
特に、競技成績や試合について不安やプレッシャーを抱えている場合は、自律神経やホルモンのバランスが乱れて疲労回復力が低下するため、注意が必要です。「もっと頑張らなければ」「休んではいけない」と自分に過度なプレッシャーをかけると、知らず知らずのうちに精神的なストレスが蓄積され、オーバートレーニング症候群に陥りやすくなってしまいます。
アスリートではない人も要注意!日常的な疲労が引き起こす体の不調
オーバートレーニング症候群は、過度なトレーニングなどによって引き起こされるため、主にアスリートが陥るものといわれています。しかし、アスリートではない一般の人も、ランニングや筋トレなどの負荷が高い運動を日常的に行っている場合は、肉体的な疲労が溜まりやすいため、注意が必要です。他にも、仕事や家事、育児、介護などで疲れやストレスが溜まったり、食生活が乱れたりすると、オーバートレーニング症候群のような症状にまでは至らずとも、体にさまざまな不調が現れることがあります。
疲労の回復には、十分な睡眠や栄養バランスのよい食事が欠かせません。睡眠不足になったり、疲労回復に必要な栄養素が不足したりすると、疲労が蓄積されてしまい、思考能力や集中力が低下する他、頭痛や目のかすみ、腰痛、肩こりなどが起こることがあります。
さらに、動脈硬化や高血糖、肥満などのリスクが高まり、生活習慣病の原因になることも。加えて、免疫機能が低下することで、感染症にかかりやすくなったり、がんに対する防衛機能が弱まったりする可能性もあります。
ここでは、主に一般の方における疲労が溜まりやすい人の特徴や、オーバートレーニング症候群と似た症状が現れる「慢性疲労症候群」について解説していきます。
疲労が溜まりやすい人の特徴
一般的に、仕事や家事、育児、介護などで忙しく、休養や睡眠を十分に確保できていなかったり、栄養摂取が不十分だったりする人は、疲労が溜まりやすいといわれています。例えば、下記の特徴に当てはまる人は、肉体疲労や精神疲労が溜まりやすいため、生活習慣を見直したり、セルフケアを行ったりして疲労を解消するようにしましょう。
- ・忙しくて食生活が乱れがち
- ・ダイエットのために食事制限を続けている
- ・仕事柄、長時間の外出や移動をしたり、中腰姿勢を続けたりすることが多い
- ・仕事や人間関係などでストレスを感じやすい
- ・筋トレやランニングなどの運動が趣味
など
オーバートレーニング症候群と似た症状が現れる「慢性疲労症候群」とは
「慢性疲労症候群」とは、慢性的な強い倦怠感に加えて、微熱、筋肉痛、睡眠障害、抑うつといった不調によって日常生活が困難になる状況が6ヵ月以上続いてしまう疾患です。慢性疲労症候群の原因としては、人間関係などに関する「精神的ストレス」や、過重労働や負荷が高い運動などによる「肉体的ストレス」、化学物質や騒音が引き起こす「環境ストレス」が挙げられます。これらのストレスは、まとめて「生活環境ストレス」と呼ばれています。
慢性疲労症候群の原因はオーバートレーニング症候群とも似た部分があり、症状も他のさまざまな疾患でも起こり得るものでもあるため、これらは診断が難しいとされています。「疲労感が抜けない」「運動量を減らしても体の不調が続いている」といった状態が続く場合は、自己判断せず、医療機関を早めに受診するようにしましょう。
疲労を溜めないようにするには?基本的な3つの対策
普段から強度の高いトレーニングをしている人も、そうでなくても忙しい日々を送っている人も、疲労による不調を防ぐためには、日頃から適度に休養を取ったり、疲労回復に必要な栄養素を摂取したりして疲労を溜めないことが大切です。最後に、疲労の回復・予防に必要な対策を3つ紹介します。
適度な休養を取る
疲労を溜めないために不可欠とされているのが、適度な休養です。仕事や家事、育児、介護などで忙しい毎日を送っていると、知らず知らずのうちに疲れが溜まっていることも少なくありません。意識的に休憩を取ったり、何もしない日をつくったりして心身を休めるようにしましょう。
日常的に強度の高いトレーニングを行っている人は、運動と休養のバランスを保ち、体をしっかり回復させることが大切です。週に1日は完全休養日を設けたり、トレーニングの負荷を下げる日をつくったりして計画的に休養を取ると、疲労が溜まりにくくなります。
調子が悪いときや疲れが溜まっているときは、まずは体調を整えることが大切です。トレーニングメニューを軽くする、時間を短縮する、場合によっては中止するなどして体を労わるようにしましょう。
加えて、睡眠時間を十分に確保することも重要です。必要な睡眠時間には個人差がありますが、最低でも6時間以上は確保するようにしましょう。毎日同じくらいの時間に就寝・起床し、規則正しい生活リズムをつくることも大切です。
ビタミンB群やビタミンCなどを摂取する
疲労回復・予防には、栄養素の摂取も欠かせません。まずはバランスのよい食事を摂り、エネルギーと栄養素をしっかり摂取するようにしましょう。
特に意識して摂取したいのが、先ほども紹介したビタミンB群とビタミンCです。ビタミンB群は、糖質・脂質・タンパク質をエネルギーに変える際に必要な栄養素で、疲労回復に欠かせません。また、ビタミンCには、疲労感の原因となる活性酸素を除去する「抗酸化作用」があり、疲労回復に役立ちます。
ビタミンB1を多く含む食品は、豚肉、玄米、枝豆など。ビタミンB2はレバー、魚介類、大豆製品、ビタミンB6は野菜、魚介類、ナッツ、ビタミンB12は魚介類や乳製品などが挙げられます。ビタミンCを多く含む食品は、レモンやグレープフルーツなどが挙げられます。こうした食品を普段の食事に取り入れて、疲労回復を促進するようにしましょう。
「忙しくて食事が簡単になりがち」「疲れていると食欲がわかない」という場合は、サプリメントやビタミン剤などで不足しがちなビタミン類を補給するのもひとつの方法です。特にビタミンB1は、水に溶けやすく、食品から摂取しても体内に吸収されにくいという特徴があります。ビタミン剤を活用する場合は、ビタミンB1をより吸収しやすい形にしたビタミンB1誘導体「フルスルチアミン」を含むビタミン剤がおすすめです。
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ストレスをコントロールする
心身を健康に保つには、ストレスを上手にコントロールすることも大切です。
自分に合ったリフレッシュ方法を見つけて、こまめに実践するようにしましょう。具体的には、「音楽を聴く」「お風呂につかる」「アロマを楽しむ」「お笑い番組を見る」といった方法が挙げられます。
どんなに運動が好きでも、仕事や家庭などの日常生活で大きなストレスを抱えている時期は、疲れが溜まりやすくなっています。そのような時期には、一時的に運動量を減らしたり、しばらく休養を取ったりすることも大切です。
運動を日常的に行っている人の中には、ストイックに自分を追い込んでしまう人も多いと考えられるため、自分にプレッシャーをかけすぎないことも大切です。心の疲れは体の疲れと直結しているため、メンタル面にも目を向け、リラックスする時間を確保するようにしましょう。
疲労が溜まって不調が起きないように、休養と栄養摂取を心がけよう
オーバートレーニング症候群は、主に過度なトレーニングを行うアスリートが陥りやすいといわれています。しかし、普段激しい運動をしない一般の人でも、日常的に疲労が溜まると、心身に不調が現れることも少なくありません。疲労回復に欠かせないのが、十分な休養と栄養補給です。疲れているなと感じたら、体調管理を優先し、まずは休養を取るようにしましょう。糖質やタンパク質、疲労回復に欠かせないビタミンB群やビタミンCなどを食事から摂取することも大切です。栄養バランスが偏りがちな場合は、サプリメントやビタミン剤などを活用するのもよいでしょう。
- <参考文献>
- 公益財団法人長寿科学振興財団「オーバートレーニング症候群とは」
- 第 33 回日本臨床スポーツ医学会 学術集会 教育研修講演 5, 山本宏明「オーバートレーニング症候群:理解と対応」
- 宮側敏明「トレーニングとオーバートレーニング」大阪市立大学保健体育学研究紀要. 37 巻, p.31-33.