更新日:2024年12月23日
冷え症(冷え性)は改善できる?必要な栄養素などのセルフケア方法も解説
冷え症(冷え性)を改善するには?「冬になると手足の指先が冷えて眠れない…」「普段から体温が低く代謝も落ちている…」など、冷え症に関する悩みを抱えている人は多いのではないでしょうか。実は、冷え症の冷えタイプは大きく4つに分類されます。自分の症状がどのタイプに当てはまるかをチェックし、体の冷えがどこから来ているのかを知ると改善方法も見えてくるかもしれません。この記事では冷え症の原因や、体の冷えと併せて生じることのある諸症状、また改善が期待できるセルフケア方法についても解説します。
監修
伊藤 剛 先生
北里大学北里研究所病院漢方鍼灸治療センター、北里大学客員教授
日本で最初の冷え症外来を開設した北里研究所東洋医学総合研究所で、東西の両医学に基づく冷え症研究と診療を行なう第一人者。
INDEX
「冷え性」と「冷え症」の違い
現在、「冷えしょう」の表記には、「冷え性」と「冷え症」の2種類があります。「冷え性」は冷えやすい体質や冷えに過敏な性質を表し、「冷え症」はその体質や性質によって生じる、冷えが辛いという主観的な自覚症状のことを表します。
西洋医学では、客観的な体温の低下である「冷え」は、低体温など疾患に結びつく病態として治療の対象としてきましたが、「冷え性」は明治以降に一般庶民の間で使われた言葉であり、医学用語ではなかったため、「冷え性」は主観的な性格や過敏体質と捉えられ、長らく治療対象にされずにきました。一方、東洋医学では、「冷え」を症状だけでなく、病気になる前の状態(未病)と捉え、二千年以上にわたる豊富な治療法の蓄積があったため、「冷え症」においても治療の対象とすることができたのです。そのためここでは、主に「冷え症」という言葉を用いて解説します。
なお、「冷え性」も「冷え症」も医学用語として使用されるようになったのは、昭和中期以降で、本来、日本独自の主観的な概念を表す用語であるため、客観的に体温が低下して冷えている場合でも、冷えが辛いという自覚症状がない場合は「冷え性」または「冷え症」とはいえません。
冷え症のタイプをセルフチェック
冷え症は、伊藤剛北里大学客員教授の研究により、その自律神経的特徴や冷えを自覚する部位などから、基本的に「下半身型」、「四肢末端型」、「内臓型」、「全身型」の4つのタイプに分けられています。自分の症状がどのタイプに当てはまるか、チェックしてみましょう。
1.下半身型冷え症
下記のチェック項目が当てはまる人は、下半身の血流が悪くなっている「下半身型冷え症」の可能性が高いでしょう。
- □普段から足は冷えるが手は温かい
- □顔や頭など上半身に汗をかきやすい
- □食事の量は普通である
- □寒い所に行くと足やふくらはぎが冷えやすい
- □足が冷えると顔が火照ることがある
男女ともに中年以降、年齢とともに増加する傾向があるため、冷え症外来の中では50%を占め、冷え症の中では最も多く見られるタイプです。
下半身型冷え症の主な原因は、下肢の血流低下です。老化や疲労により腰や臀部(でんぶ:お尻の部分)の筋肉(脊柱起立筋(せきちゅうきりつきん)や梨状筋(りじょうきん)など)が硬くなると、腰神経や坐骨神経が圧迫されてしまいます。その結果、下肢の動脈血管を調節する交感神経が刺激され、足の血流が低下します。また、ふくらはぎの筋肉(腓腹筋(ひふくきん)やヒラメ筋)が硬くなると、足の先から心臓に戻る静脈が圧迫され血流が低下します。このように下肢を環流する血液が低下することにより冷えが引き起こされるのです。
有効な対策としては、梨状筋などを硬化させる長時間のデスクワークなど座りっぱなしの状態を避け、腰や足のストレッチやウォーキングなどの運動を行うことで、硬化した腰や臀部の筋肉をほぐすことが挙げられます。
2.四肢末端型冷え症
下記のチェック項目が当てはまる人は、手や足の末端が冷える「四肢末端型冷え症」の可能性が高いでしょう。
- □普段から手先や足先が常に氷のように冷える
- □汗をあまりかかない
- □食事の量は少なめ
- □寒い所に行くと手と足の指がすぐに冷える
- □冷えると頭痛や腹痛が起こることもある
食事制限を伴うダイエットをしている人や、痩せ型の若い女性に多く見られるタイプです。冷え症では昔から最も知られている冷えのタイプのため、「冷え性」といわれてきた多くの場合がこの四肢末端型冷え症に該当します。ただし冷え症外来の中では冷え症全体の10%程度に過ぎません。
四肢末端型冷え症の主な原因は、体内で熱を十分に作れないことです。摂取カロリー不足や運動不足、基礎代謝量の低下などによって生じる体温低下を防ぐために脳が防御反応として、末梢の交感神経を過剰に働かせ、血管を収縮させて熱が漏れないようにするために冷えが引き起こされるのです。
有効な対策としては、食事の摂取カロリーを増やすことや、毎日行える適度な運動などが挙げられます。
3.内臓型冷え症
下記のチェック項目が当てはまる人は、体の中心部が冷える「内臓型冷え症」の可能性が高いでしょう。
- □普段から触ると手も足も温かい
- □全身に汗をかきやすく、冷えやすい
- □食事の量はやや多め
- □寒い所に行くと下腹部が冷えやすい
- □腹にガスがたまりやすい
30代以降の男女で、体重がやや多い人やアレルギー体質の人に多く見られるタイプです。冷え症外来の中では、四肢末端型冷え症とほぼ同様で冷え症全体の10%程度ですが、混合型冷え症でも、下半身型と内臓型との混合が多いです。
内臓型冷え症の主な原因は、アレルギー体質のように、主に体質によるものが多いのですが、腹部の手術をされた人で腹部の内臓血流が低下したために生ずる場合もあります。このタイプでは副交感神経が強く、交感神経の働きが弱いために、寒くても末梢の血管が収縮せず、体内から外へ熱が逃げ、体の中心部の温度が低下することで冷えが引き起こされます。体の表面は温かいのに、内臓など体の中は冷えてしまうため、「内臓型」と命名されました。
有効な対策としては、体の深部は冷えていても汗をかきやすいため、通気性のよい衣類で保温すること、食べ過ぎを控えること、温かい食事を摂ること、ウォーキングやジョギングなどの運動を習慣づけ偏った自律神経バランスを改善させることなどが挙げられます。
4.全身型冷え症
下記のチェック項目が当てはまる人は、体の全身に冷えが現れる「全身型冷え症」の可能性が高いでしょう。
- □人から手先や足先が常に冷たいといわれる
- □汗をあまりかかない
- □食事の量はどちらかというと少なめ
- □寒い所に行くと背中または全身が冷える
- □通常の体温が常に低く寒気がある
このタイプに当てはまる人は、冷え症外来でも5%程で多くありませんが、性別や年齢を問わず症状が見られることがあります。体温が低い状態が長く続くと皮膚や内臓などに支障をきたしたり、倦怠感や抵抗力が落ちたりすることがあるため注意が必要です。なお、低い体温とは、36.3℃以下を目安とします。ただし月経のある女性の場合は、高温期の体温で判定する必要があります。
全身型冷え症の主な原因は、熱を作れないことや体温調節ができないことです。体質的な場合もありますが、老化や栄養不足、極度の貧血や甲状腺機能低下症などの病気により体内で熱を十分に作れなかったり、ストレスや不摂生な生活などにより体温調節の機能が低下したりすることでも冷えが引き起こされます。
有効な対策としては、食生活や運動、睡眠などの生活習慣全体を見直すことが挙げられます。このタイプでは漢方薬が有効ですが、治療が必要な場合や、甲状腺機能低下症などの病気が潜んでいる場合があるので、疑われる場合は、まず医療機関を受診して検査を行なうとよいでしょう。
その他の冷え症のタイプ
ここまで紹介した4つの基本タイプに加え、体の一部が冷える「局所型冷え症」や2つのタイプの冷えが混在する「混合型冷え症」も冷え症のタイプとして考えられます。
・局所型冷え症
局所型冷え症は、手足、背中などの一部に局所的に冷えが現れるタイプです。外傷の後遺症、神経系の障害(頸椎症(けいついしょう)や腰椎椎間板(ようついついかんばん)ヘルニアなど)や、循環器系の障害(動脈硬化など)を患っている人に多く、冷え症の治療より原因疾患の治療が必要とされます。
・混合型冷え症
混合型冷え症で最も多いのは、下半身型と他のタイプが混ざった冷え症です。多くは年を取るにつれ、若いときと異なるタイプの冷え症が合併して起こるためです。冷え症外来では全体の約25%と多く、主に下半身型との混合です。
冷え症(冷え性)の原因とは
体温は基本的に、体の中で熱を作り(熱産生)、その熱を全身に運び(熱移動)、余った熱を体の外に出す(熱放散)ことにより、常に一定に調節されています。暑いときに汗をかくのは、この働きにより熱を体の外に放出しようとするからです。これをお金の出し入れになぞらえ「熱出納(ねつすいとう)」といいます。
冷えや冷え症は、熱の産生低下、熱の供給不足、熱の放散過多など、この熱出納のバランスが崩れたときに起きますが、いくつかの要因が複合的に症状として現れていることが多く見られます。ある決まった原因を取り除けば解消されるようなものではないため、自分に当てはまる原因がないか見てみましょう。
熱の産生低下
1.基礎代謝量の低下
基礎代謝量とは、生命を維持するのに必要最小限度の基本的な代謝量のことで、「早朝空腹時に快適な室内等においての安静時の代謝量※1」で表され、下記の計算式によって求められます。
基礎代謝基準値(kcal/kg体重/日)×参照体重(kg)=基礎代謝量※2
(体重1kgあたりの基礎代謝量の代表値×該当年齢の平均的な体重=基礎代謝量)
※1,2 日本医師会「1日に必要なカロリー 推定エネルギー必要量」より引用
必要な栄養が不足していたり、筋力が衰えていたりすると、体を動かすエネルギーが足りなくなり、基礎代謝量が下がってしまいます。その結果、体内の熱産生が減少し、恒常的な体温の低下につながることがあります。
2.摂取カロリーの不足
生物は生きるためには体温を維持しなければなりません。その熱を生み出す重要な要素として、食事があります。いわば体を燃やして熱をつくるための燃料です。病気やその他の事情で食事が摂れない場合、食料がない場合、胃腸が弱く消化吸収が悪い場合、ダイエットなどのため食事を制限している場合などに、体温を維持できずに冷えを生じることがあります。
3.運動量や筋肉量の不足
運動量や筋肉量が少ないと、熱産生が不十分となります。通常の体温は、冷えると自律神経の交感神経を介し甲状腺ホルモンが刺激され、脂肪組織の中にある褐色脂肪組織で熱を作り維持されます。これを「非ふるえ熱産生」といいます。しかしそれで足りない場合は、筋肉を収縮させて熱を作り出します。これを「ふるえ熱産生」といいます。風邪をひいたときに体がガタガタ震える悪寒の後に熱が出るのは、このふるえ熱産生のためです。このようなことからも、運動量や筋肉量が不足すると、冷えの原因になるということがわかるでしょう。
熱移動の障害
自律神経バランスの乱れ
せっかく作った熱も、体の隅々まで運ばなければ体温は維持できません。
こういった体温調節に重要な役割を持つのが「自律神経」です。「自律神経」には、体内の血管をコントロールし血液量を調節する「交感神経」と、交感神経の働きを抑える「副交感神経」があります。この2つがバランスよく働くことで、体温調節が行われています。
四肢末端型冷え症は、四肢末端の血管収縮性交感神経が過敏な場合、下半身型冷え症は、下肢の交感神経が緊張した状態で起こりますが、上半身が副交感神経優位な場合には、上半身ののぼせを伴うことがあります。また内臓型冷え症は、副交感神経優位で交感神経機能が弱い場合など、自律神経機能のバランスの違いでそれぞれ起こる冷えのタイプが異なります。
自律神経とストレスとの関係
自律神経が乱れる要因としてはさまざまなものが考えられますが、主な原因の1つにストレスが挙げられます。急性のストレスでは、交感神経が緊張することで血管の血流が低下して冷えが生じ、慢性化したストレスやうつ状態ではその緊張を抑えるために副交感神経が優位となり、熱の放散が多くなる結果、体が冷える場合があります。このように、うつやストレス障害など精神的な要因で起こる冷えを「心の冷え症」と呼び、冷え症の別分類として扱われることもあります。
過剰な熱放散
体質的に副交感神経優位な人は、皮膚血流が多く、寒くても血管が収縮しないため、熱が体から過剰に漏れ出て、その結果、内臓型の冷えを起こす場合があります。また痩せ型で体の表面積が普通の人より広かったり、栄養不足により皮下脂肪が少なかったり、発汗が多く皮膚が湿りやすい人では、熱が体表面から逃げやすくなり、体内での熱の保持が不十分となるため、体温が下がります。これらが原因となり冷え症につながることがあります。
月経に関する冷え
月経など女性特有の体調の変化やホルモンバランスの乱れも冷え症の原因として考えられます。
月経前症候群(PMS)
月経に伴い腹痛や頭痛、イライラなどを引き起こすことのある月経前症候群(PMS)は、女性ホルモンの変動が主な原因と考えられています。こうした女性ホルモンや黄体ホルモンの変動は、血流の停滞(漢方でいう瘀血(おけつ))、痛み、便秘など体に大きな変化をもたらし、体に冷えが生じることもあります。
更年期障害
更年期障害は、女性ホルモンの減少とゆらぎにより引き起こされます。女性ホルモンの中でも「エストロゲン」は女性の心身を健やかに保つために必要とされており、体温の基準点を動かします。そのため、それらが減ったり変動したりすると余った熱が放出され、「ホットフラッシュ」といわれる、のぼせやほてり、発汗などの症状が現れるだけでなく、体の冷えを感じることもあります。
東洋医学(漢方医学)における「冷え」の理解
東洋医学において、冷えの状態を診断し治療を行なう上で、診断上重要なものとして「寒(かん)」と「熱(ねつ)」という要素があります。下半身型は「上熱下寒(じょうねつげかん)」、四肢末端型は「手足厥冷(しゅそくけつれい)」、内臓型は「表熱裏寒(ひょうねつりかん)」、全身型は「表裏倶寒(ひょうりぐかん)」といった病態と関連があります。これらの病態を踏まえた上で、治療としては、「気(き)・血(けつ)・水(すい)」に基づいて行なわれます。
「気・血・水」とは、人間の体を構成している基本的な要素です。「気」とは、目に見えないもので、人間が活動するために必要とするエネルギー(元気、生命力など)を指します。「血」とは、血液やその流れのことを指します。「水」とは、血液以外の体内にある水分(リンパ液、涙など)を指します。この三要素は互いに影響しながら支え合い、バランスよく体の中を循環している状態が健康であり、そのバランスが崩れると、さまざまな症状となって心身に影響を及ぼすといわれています。
「冷え」は、「気・血・水」のうち、「気」が不足したり、停滞したり、また「血」が不足したり、滞ったり、さらに「水」が滞ったりしたときに引き起こされると考えられています。そしてそれらの異常に対し、様々な漢方薬がそろっています。
冷え症(冷え性)が女性に多いといわれる理由とは
一般的に、女性は男性に比べて食事摂取量や運動量、筋肉量が少ないため、自然に発生する体内からの産熱量も少ないと考えられています。他にも、上記のPMSや更年期障害など、女性特有の体調の変化も、冷えが女性に多い理由といわれていますが、実は生物学的には女性の方が男性より冷えには強いのです。女性ホルモンは寒冷時の抹消血管の血流を維持する働きがあるのに対し、男性ホルモンは血流を減少させてしまいます。それが証拠に、江戸時代までは、男性の方が女性より冷えや冷えにまつわる病気になりやすいと考えられていました。そのため閉経した女性は、男性ホルモンにより男性と同様に寒冷に弱くなるのです。また、女性の下着や衣服は男性より熱を逃がしやすいものが多いのも冷えやすい原因です。自分の体を冷えから守るためには、スタイルやファッションにこだわりすぎないよう気を付けましょう。
ただし、食事摂取量や運動量、筋肉量の減少による冷え症は男女ともに起こりうるものです。普段から正しい生活習慣を意識しましょう。
冷えにより生じやすい諸症状
体の冷えを対処せずに放置してしまうと、他の症状を悪化させたり引き起こしたりすることがあります。この状態が続くと、生活の質を下げることにつながりかねません。体の冷えと共に肩こりなどの症状を改善したい場合は、それぞれの症状に合った対策を行いましょう。
肩こり
肩こりは、緊張状態で筋肉を酷使したとき、交感神経の過度な緊張と筋肉の血流悪化により、筋肉が硬化し痛みに敏感になることで引き起こされます。特に眼精疲労や猫背などの悪い姿勢、そして首・肩・腕など上半身の冷えは、交感神経を緊張させ肩凝りの症状を悪化させるので注意が必要です。
腰痛・坐骨神経痛
腰痛や坐骨神経痛の一部は、慢性的な筋肉疲労や筋肉の硬化などにより神経を刺激したり圧迫したりして引き起こされます。ぎっくり腰やヘルニアなどの外的な要因による場合もありますが、慢性的な腰痛や坐骨神経痛は、腰の血流を悪化させるだけでなく、坐骨神経を刺激し脚の交感神経を緊張させるため脚の血流を低下させ、下半身型冷え症の原因になることも多いのです。
肩こりや腰痛を軽減するには、ストレッチや運動などが効果的といわれていますが、効果が実感できない場合は漢方薬や、神経の働きにかかわるビタミンB群や血行の改善に関与するビタミンEを配合したビタミン剤を使用するのもよいでしょう。なお、鎮痛剤は効果が限られ、原因治療にはつながらないため、長期間の使用は出来るだけ控えましょう。
- 肩こり、腰痛などでお悩みの方に
頭痛
頭痛には、片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛や病気の症状として出る頭痛などさまざまなタイプがあり、原因も色々ですが、冷えに関連しやすい頭痛は主に筋緊張型頭痛です。首や肩の凝りを伴うことが多く、自律神経、特に交感神経の緊張が主な原因として考えられています。そもそも交感神経が刺激されると末梢の動脈血管が収縮し、その神経がある組織の血流が低下します。それがその部位の冷えにつながり、同時に痛みを引き起こす「発痛物質」が発生します。その結果、体の冷えが痛みを、また、痛みが体の冷えを呼ぶという悪循環に陥ってしまうことになります。
頭痛を軽減するには、深呼吸ではなく、座禅の時の呼吸のように、呼気を6秒、吸気を2秒とする62(むに)の呼吸を行うと、呼気により副交感神経が誘導されて緊張が和らぎます。またストレッチ、入浴などで交感神経の緊張を緩め、副交感神経を働かせ、全身をリラックスさせることも効果的といわれています。
冷え症(冷え性)の改善が期待できるセルフケア方法
冷え症には、全ての症状に当てはまる万能な方法があるというわけではなく、体の不調に合わせて栄養を摂ったり、定期的に体を動かしたりする必要があります。
食事内容を見直す
偏った食生活を続けていると栄養バランスが乱れ、エネルギー代謝が衰えることで、基礎代謝量が低下し、冷えにつながることがあります。細胞のエネルギーのもととなる三大栄養素(糖質・脂質・タンパク質)の中でも特に糖質は、脳や心臓、筋肉の主要なエネルギー源となる大切な栄養素であり、糖質からエネルギーを作るにはビタミンB1が必要不可欠です。しかし、冷え症の中には、甘い物やお菓子を食事代わりとして、運動をしないような生活習慣が原因となっていることが、特に若い女性において問題となっています。エネルギー源として糖質が大切であることは事実ですが、糖質から生じるエネルギーの多くはインスリン合成に使われたり、またグリコーゲンとして肝臓や筋肉に蓄えられたりするため、熱を生み出すには筋肉を動かさなければなりません。つまり糖質を摂ったら体を動かす必要があるのです。
一方、タンパク質は、食後の産熱量が三大栄養素の中で最も高いので、運動ができない場合はタンパク質を多く摂るようにしましょう。そのタンパク質からエネルギーを作るにはビタミンB6が必要不可欠です。
このように、糖質にせよ、タンパク質にせよ、熱エネルギーの産生にはエネルギー源となる栄養素だけではなく、それらを代謝するためのビタミン類やミネラルが欠かせないのです。他にも、ビタミンEには強い抗酸化作用があり、摂取量が不足すると神経や筋障害の症状が生じるといわれています。その結果、血行が悪くなり冷えが引き起こされることがあります。
- ビタミンB1・B6・B12の補給に
また、貧血は熱を運ぶ血液量が減った状態であるため、強度の貧血では全身的な冷えを起こす場合があります。特に女性では過多月経や痔などで多くの血液が失われると鉄欠乏性貧血となり、高齢になると骨髄性の貧血となる場合もあります。貧血を起こす原因は様々ですので、まずは貧血の原因を調べることが重要ですが、鉄欠乏性の場合は、適度な鉄を補うことも必要です。
体内の熱産生を正常に行ったり、ホルモンバランスを整えたりするには、栄養バランスを意識した食生活を送ることが大切です。栄養過多の現代において、通常の食生活を送っていれば栄養素の不足から来る冷え症はほとんどないといわれていますが、摂取には栄養素バランスとともにビタミン類やミネラルの摂取も意識するようにしましょう。
体を温める食材を摂る
冷え症を改善するには、氷やアイスクリームなど体を冷やす食品よりは、体を温める効果が期待できる食材を摂る方がよいでしょう。一般的にはショウガやタマネギ、発酵食品(味噌・納豆など)などに体を温める効果があるといわれています。しかしこれらの食品を摂ることで、冷え症が治る訳ではありません。特に生のショウガは血流を改善する働きはありますが、直接体を温める作用はないため誤解の無いようにしましょう。
運動やストレッチをする
血流を促進して冷え症を改善するには、座りっぱなしの状態を避けることが大切です。例えば、梨状筋はお尻の奥にあり、股関節を動かす筋肉の1つですが、硬くなると坐骨神経を圧迫し、下半身型の冷えを起こします。この梨状筋を意識したストレッチを行うのもおすすめです。ただし競技的なスポーツでは、無理をしたり、自分のペースが守れなかったりするため、柔軟体操やウォーキングなどの軽い運動も基礎代謝量を上げるためには大切です。体力的にジョギングができるようであれば、さらに効果的です。
服装を調整する
真夏でもクーラーの近くに座っていたり、クーラーの効いた部屋で薄手の服を着たりしていると、部屋の内外での気温差に服装が伴わず寒暖差を感じやすくなったりすることで、冷えの悪化につながることがあります。羽織ものやひざ掛けを持ち歩くようにして、調整できるようにしましょう。特に内臓型冷え症の人は、着込むと汗をかきやすく、薄着だと体温が低下しやすいため、特に夏は衣類での体温調節は難しいので、環境温度に合わせた衣類を着るよう気を付ける必要があります。また四肢末端型冷え症の人は、手足が冷たいからといって、手足ばかり温めても根本的には改善できません。胴体部分を広く被うような下着や衣類を着て体温を上げることが、手足の冷えの改善につながります。
湯船につかる
湯船につかることで血流が促進され、冷え症の改善が期待できます。
40℃以下のぬるいお湯に長時間浸かる半身浴は、冷えを改善しません。暑い夏はシャワーでもよいのですが、冷え症の人は、冬は41~42℃の温かいお湯に肩まで浸かる全身浴が有効です。全身浴であれば、むくみの解消や体の修復が行なわれるからです。ただし、長時間浸かると発汗が多くなったり、血圧が低下しやすくなるため、浸かる時間は10分以内にしましょう。
禁煙に取り組む
タバコに含まれるニコチンによって末梢神経が収縮し、血流の悪化が起こることで、手足の体温が下がることがあるといわれています。特に若い女性に収縮性が著しくみられる傾向があります。喫煙が冷え症の原因になることはありませんが、一般的な人はもちろん、冷え症の人は喫煙により冷えが悪化する可能性もあるため注意しましょう。
「冷え症」には漢方薬を使用する手も
東洋医学において治療の対象とされてきた「冷え症」では、「寒熱」や「気血水」などの「証」の診断に基づく漢方薬が有効です。代表的な漢方薬では、下半身型冷え症には八味地黄丸(はちみじおうがん)や牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)、四肢末端型冷え症には当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)、内臓型冷え症には温経湯(うんけいとう)や四逆湯(しぎゃくとう)、全身型冷え症には四逆湯や通脈四逆湯(つうみゃくしぎゃくとう)などがありますが、これらの中には、煎じ薬しかない漢方薬もあります。自分で判断するのではなく、漢方医学的な診察が必要なため、漢方の使用を考えている場合は漢方専門医に相談してみてください。
自分の冷え症(冷え性)タイプを把握して、適切なセルフケアを!
一言で冷え症といっても、さまざまなタイプが存在します。まずは自分のタイプを把握し、改善が期待できる適切なセルフケア方法を試してみましょう。冷え症を放置してしまうと、肩こりや腰痛など、他の症状を悪化させてしまうこともあります。そのときは、症状に合わせたセルフケアやビタミン剤を使用するのも1つの手です。冷え症が改善されない場合には、漢方専門医に診てもらい漢方薬の使用も考えてみましょう。
- <参考文献>
- 伊藤剛『最新版 カラダを考える東洋医学』(朝日新聞出版)
- 伊藤剛『副交感神経を活かして不調を治す!』(PHP出版)
- 伊藤剛『改訂版 いちばんわかる!東洋医学のきほん帳』(学研)