更新日:2025年12月24日
グリシンとは?得られる効果や睡眠や肌との関連について紹介

「眠りが浅く、長時間寝ても疲れが取れない」「朝にすっきり起きられない」「肌のハリを維持したい」とお悩みの方も多いのではないでしょうか。近年、そうした課題に効果が期待される成分として、注目を集めているのが「グリシン」です。
グリシンは、私たちの体を構成するタンパク質の材料になるアミノ酸の一種で、食品やサプリメントを通じて日常的に摂取することができます。睡眠や美容などの分野で研究が進んでおり、健康志向の高い方だけでなく、研究者や食品開発に携わる企業関係者からも関心を集めています。
本記事では、グリシンの基本的な性質から期待される効果や安全性、そして摂取方法までをわかりやすくご紹介します。
監修
中村 真樹 先生
青山・表参道 睡眠ストレスクリニック 院長
INDEX
グリシンとは?
グリシンは、私たちの体内で欠かせない働きを担う「アミノ酸」の一種です。アミノ酸は、筋肉や皮膚、血管、臓器などの組織を形作るタンパク質の材料であると同時に、体の調子を整える役割も果たしています。
そのなかでもグリシンは、シンプルな構造を持つアミノ酸で、体の主要なタンパク質の構成成分である「コラーゲン」や「エラスチン」、抗酸化物質の「グルタチオン」などの材料として知られています。組織の維持に重要な役割を担う成分の一つであり、私たちの体には欠かせない存在といえるのです。
グリシンは「非必須アミノ酸」
アミノ酸は大きく「必須アミノ酸」と「非必須アミノ酸」に分けられます。
全部で20種類あるアミノ酸のうち、人が体内で作ることのできない9種類を「必須アミノ酸」、体内で糖質や脂質から作り出すことのできる11種類を「非必須アミノ酸」と呼びます。
必須アミノ酸は体内で合成できないため、食事から摂る必要があります。9種類は、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、バリン、ヒスチジンです。
一方、11種類の非必須アミノ酸は体内で合成できるため、必ずしも食事から摂らなくても不足しにくい特徴があります。11種類は、チロシン、システイン、アスパラギン酸、アスパラギン、セリン、グルタミン酸、グルタミン、プロリン、アラニン、アルギニン、そしてグリシンです。
グリシンの構造とアミノ酸との関係
グリシンは20種類あるアミノ酸のなかでも最も小さい構造を持ち、化学式はC₂H₅NO₂、分子量は約75、構造式は「NH₂–CH₂–COOH」と表されます。
体内では、同じ「非必須アミノ酸」であるセリンからも代謝経路を介してグリシンを合成できるため、必ずしも食事から摂らなくても不足しにくいとされています。
一方で、グリシンからは筋肉に関わるクレアチンや、有害物質の解毒や抗酸化作用を担うグルタチオンなど、生理的に重要な物質が作り出されます。
グリシンがもたらす主な効果
グリシンは単なる栄養素にとどまらず、私たちの健康や生活に役立つ可能性が示されています。ここでは代表的な効果をご紹介します。
睡眠の質改善

・体温調節への関与
グリシンには、皮膚表面の血流を増やして「表面体温」を高める一方で、脳や臓器といった体の奥の「深部体温」を下げる働きが示唆されています。
体温調節は睡眠と深く関係しており、深部体温が下がると相対的に皮膚や手足の表面体温が上がります。この表面体温の上昇が速いほど寝つきがよくなり、より深い眠りに入りやすくなることがわかっています。
・神経伝達物質としての作用
グリシンは、脳の脊髄や脳幹において「抑制性神経伝達物質」としても働きます。神経の過度な興奮を抑えることで、安定した睡眠をサポートし、深く長い睡眠を誘導することが明らかとなっているのです。
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肌のハリを保つ
グリシンはコラーゲンを構成する主要成分の一つです。コラーゲンは皮膚の真皮層に多く含まれ、肌の弾力やハリを保つうえで欠かせない存在です。そのため、グリシンを摂取することで、間接的に肌のハリをサポートする可能性があると考えられています。
静菌作用
グリシンには、細菌の細胞壁の合成を阻害することで、細菌の増殖を抑える静菌作用があり、食品添加物としても利用されています。
グリシンは体内で連続的に代謝に使われるため蓄積しにくく、人の健康を損なう恐れが少ないとされています。その特性から、食品の保存性を高め、日持ちを延ばす目的で活用されているのです。
コラム
グリシン研究の状況

グリシンは、睡眠との関連に加えて、免疫調整など多様な分野で研究の対象となっています。動物実験やヒト臨床試験も行われていますが、その多くはまだ研究段階にとどまっています。さらに近年では、アルツハイマー病との関連(Int J Alzheimers Dis.2023 Mar1:2023:1753791.)を探る基礎研究も進められていますが、臨床的に効果が確立されているわけではありません。
現時点で健康効果として認められているのは「睡眠の質」に関する分野です。例えば、睡眠不足条件下でのグリシン摂取が、翌日の疲労感の軽減や認知機能の改善に寄与する可能性(Front Neurol. 2012 Apr 18;3:61)や主観的な睡眠の質の改善(Sleep and Biological Rhythms 2007 5(2):126-131)が報告されています。今後の研究の発展により、新しい利用法が明らかになることが期待されています。
グリシンの摂取方法と摂取推奨量
グリシンは特別な食品にしか含まれない成分ではなく、私たちが日常的に口にする食材からも摂取できます。さらに最近は、睡眠改善を目的としたサプリメントなどの商品化も進んでいるのです。
ここでは具体的な摂取方法や、研究で用いられる摂取量の目安について紹介します。
グリシンの摂取方法
・食事からの摂取

グリシンは食品からも摂取可能です。特に豚肉のゼラチンに多く含まれる他、魚介類や豆類など、さまざまな食品に幅広く存在します。
| 食品名 | 可食部100g当たりの 含有量(mg) |
|---|---|
| ゼラチン(豚由来) | 24,000 |
| ほたてがい(貝柱、煮干し) | 7,300 |
| するめ(いか類、加工品) | 4,900 |
| えび類(干しえび) | 4,300 |
| だいず(分離だいずたんぱく、塩分調整・無調整タイプ) | 3,600 |
※食品名の表記は文部科学省「食品成分データベース」に準拠
・指定医薬部外品やサプリメントからの摂取
食事からの摂取が難しい場合や、睡眠の質改善など、特定の目的で効率的に摂取したい場合は、指定医薬部外品やサプリメントを活用するのも一つの方法です。
なお、就寝前に3gのグリシンを摂取すると翌朝の「疲労感」「活力や元気」「頭の冴え」の項目が有意に改善したという報告があります。可能であれば就寝前のタイミングで摂取できるとよいでしょう。
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グリシンの摂取推奨量
現時点では、厚生労働省や農林水産省などによる明確な摂取基準は定められていません。ただし、研究では1日当たり3g程度で、特に睡眠改善を目的とした臨床試験が多く使われています。
また、通常の食事で摂取した場合に健康リスクが報告された例は、これまでのところありません。グリシンは自然界で、えびや貝をはじめとした魚介類に多く含まれます。また、砂糖の70%ほどの甘味を持ち、調味料や甘味の主成分としても知られています。人の体内でも合成されるため、比較的なじみ深い成分なのです。
コラム
グリシンの安全性や副作用について
グリシンは、自然界にも広く存在しており、人間の体内でもさまざまな物質から生合成される、身近な成分です。食品やサプリメント、指定医薬部外品のドリンクなどから通常摂取する範囲では大きな副作用の報告はなく、食品添加物としても利用されています。
ただし、体によい食べ物であっても食べ過ぎはよくないように、過剰に摂取すると、一時的に胃腸の不快感や下痢などを生じる可能性があります。また、グリシンを含むサプリメント(健康補助食品)などは治療薬ではないため、活用してみても不眠や寝つきの悪さなど睡眠トラブルが続く場合は自己判断せず、医師に相談するようにしましょう。
グリシンを取り入れて睡眠の質改善を目指そう

グリシンは最も小さなアミノ酸でありながら、睡眠の質改善や肌の弾力維持に必要なコラーゲンの生成に関わるなど、体の健康に幅広く関わる重要な成分です。今後の研究が進むにつれて、新たな効果や活用法が明らかになることも期待されています。
豚肉や魚介類をはじめ、身近な食品に含まれているため、日常の食事から自然に摂取することができます。一方で「就寝前に摂取したい」「より効率的に取り入れたい」という場合には、必要に応じてグリシンを配合した栄養ドリンクなどを活用するのも有効です。
特に、「睡眠の質」が気になる方には、睡眠に関与するグリシンを含む指定医薬部外品のドリンクを生活に取り入れてみてください。
- <参考文献>
- 厚生労働科学研究成果データベース「グリシン」









