更新日:2023年5月29日

やる気が出ない原因は? 対処法を知って仕事や家事を乗り切ろう

やる気が出ないとき皆さんはどうしていますか?仕事や家事などやらなくてはいけないことが目の前にある、だけどやる気が起こらない。今やらないと後でもっと大変なことになるのはわかっている、でも始められない――。何か良い対策はないのでしょうか?今回はやる気がでないと感じる原因や対処法について解説します。

監修

功刀 浩 先生

帝京大学医学部精神神経科学講座主任教授

INDEX

やる気が出ないときに現れる症状

国語の辞書を引くと、「やる気」は「物事を成し遂げようとする積極的な気持ち」などと解説されています。そのような積極的な気持ちになれないときは、体や心(メンタル)に不調のサインが現れていることが少なくありません。

体に現れるサインとしては、疲れがとれない、なんとなくだるい、眠れない、眠った気がしない、吐き気、食欲不振または過食、味覚の変調、腹痛、頭痛、肩こり、めまいなどがみられることが多いようです。

メンタル面にも症状が現れる

どうしてもやる気が出ないとき、体に不快な症状が現れ、さらにやる気が削がれてしまうという体験をしたことがあるかもしれません。やる気が出ないときは、体だけでなく、心(メンタル)にも影響が生じることがあります。具体的な例を挙げると、憂うつになる、何ごとにも興味が起きない、仕事がつらいと感じるといった変化です。これらのメンタルの不調が、体の症状を引き起こしたり強めたりしていることも少なくないでしょう。

やる気が出ない原因は?

環境や人間関係、スマートフォンやSNSからくるストレス

同じ内容の仕事でも、快適でストレスの少ない環境でやるのと、そうでない環境でやるのでは効率が大きく異なります。当然、疲れ方にも差が生じて、後者のような環境では、やる気が失せやすいものです。

また、自分にあったことを進んでやる場合に比べて、あまり適していないことを人から指図されてやる場合や、裁量が少ない場合は、ストレスが大きくなって、やる気が出にくいこともあります。

ところで、今はスマートフォンが仕事や私生活に欠かせないアイテムになりました。スマートフォンはたいへん便利なものです。しかし、使いすぎによってストレスが高まる懸念も指摘されています。例えば、SNSの利用はコミュニケーション過多につながりやすく、時間の浪費につながるだけでなく、SNSによって新たな人間関係のストレスが発生してしまうことは多々あります。また、夜間のスマートフォン利用は睡眠―覚醒リズムを乱し、睡眠の量・質ともに低下させ、日中の活力低下を招きます。ゲーム依存も深刻な問題です。仕事や勉強以外の「画面をみつめる時間」は1時間程度が最適で、時間が増えれば増えるほどメンタル不調をきたすという研究結果もあります(※)

※Wang X, Li Y, Fan H. The associations between screen time-based sedentary behavior and depression: a systematic review and meta-analysis. BMC Public Health 2019; 19: 1524

疲れがたまっている

「疲労」は、私たちに休息の必要性を知らせて、過剰な活動によって疲れ切ってしまうのを防ぐための重要な生体警報(アラーム)の一つです。アラームを無視し続けると、心臓や脳の重大な病気や、うつ病など心の病いの発症につながるので、疲れを感じたら、体を休めましょう。

疲れをとるために、睡眠は特に重要です。眠り始めの深いノンレム睡眠の間には、成長ホルモンの分泌が高まります。成長ホルモンは、運動や労働などによって疲労・破損した体の細胞や組織を再生する働きを担っているだけでなく、皮膚を修復したり、新陳代謝を活性化させたりする働きももっています。

運動不足

筋肉量を保つために、適度な運動を行うことは大切です。筋肉が衰えると、疲れやすくなります。また、筋肉はグリコーゲンというグルコース(=エネルギー源)を貯蔵する器官でもあります。

ストレッチなどの軽い運動も疲労の軽減につながります。縮んだ筋肉をストレッチをしてゆっくり伸ばすことによって血流を良くし、酸素や栄養を筋の隅々まで行き渡らせ、疲労の回復を早めることができます。

男性ホルモンのテストステロンには、やる気を高めるような働きがあり、そのテストステロンの分泌は運動によって高まります。テストステロンは男性ホルモンと呼ばれるものの、女性も分泌しており、特に閉経後の女性の健康にはテストステロンが大切な役割を担っています。

やる気の低下を引き起こしている可能性の一つとして、運動不足があることも覚えておきましょう。

栄養の偏りや不足、食べ方の問題

やる気を引き出すには、健康な身体の維持とともに、脳をしっかり働かせることが大切です。脳も結局のところ身体の一部であり、食べた物に含まれる栄養素によってその活動が維持されています。そのため、やる気を出すには普段の食事の摂り方が重要です。やる気が出ないという場合は、食事のカロリーは足りていても何らかの栄養素が不足していたり、食べ方に問題があるのかもしれません。

・三大栄養素の不足

身体的な活力の維持には、炭水化物、脂質、タンパク質の三大栄養素をバランスよく摂ることが基本です。その中で、炭水化物はエネルギー源として利用されやすく、脂質は少量でも高いエネルギー源になるという特徴があります。さらに、タンパク質は筋肉の材料として重要で、タンパク質の摂取量が少なくて筋肉が減ってしまうと、疲れやすい体になってしまいます。これらの三大栄養素をバランスよく摂ることが、疲れ対策につながります。

・微量栄養素の不足

ビタミンやミネラルなどの微量栄養素は、その量が「微量」であるために、容易に不足しやすい栄養素です。ダイエットをしている人や高齢になって食が細くなっている人などでは、特に不足してしまうリスクが高いでしょう。また、摂取エネルギー量が過剰で太っている人でも、食事が偏っている場合には、ビタミンやミネラルが不足していることがあります。やる気を出すのに大切な微量栄養素を一つずつみていきましょう。

まず、炭水化物をエネルギーに変えたり、神経の働きの維持などに必要な「ビタミンB群(葉酸を含む)」が挙げられます。また、さきほど男性ホルモンのテストステロンの重要性をお話ししましたが、そのテストステロンを作る過程で「ビタミンD」が必要とされます。その他にも、体調管理に役立つ「ビタミンC」、貧血予防や脳内神経伝達物質の合成のために大切な「鉄」、タンパク質の合成や脳の細胞の機能を高める「亜鉛」なども、やる気の維持にとても大切な微量栄養素と言われています。

・食べ方や時間帯の問題

食後に眠くなるという場合は、砂糖や果物に多く含まれる、身体に吸収されやすく食後の血糖が急激に上昇しやすい単純糖質を摂りすぎていて、食後高血糖になっている可能性が考えられます。夕方にやる気が下がるという場合も、食後高血糖の反動で低血糖気味になっている可能性があります。一方、一日を通してパワーが出ないという場合、ビタミンB群をはじめとする何らかの栄養素が不足しているのかもしれません。

なお、毎日、午前中にやる気が出ず、午後になると少し元気になるという場合は、うつ病など病気のサインかもしれません。憂うつな気分が続いていたり、何をやっても楽しくないなどの精神面の症状もある方は、早めに医師に相談しましょう。

何かの病気の可能性

病気のためにやる気が出ないということもあります。例えば、うつ病、睡眠時無呼吸症候群、甲状腺機能低下症、貧血、更年期障害などが、やる気の低下と関連の強い病気として挙げられます。

また、日本人の多くが花粉症に悩まされていますが、花粉症の患者さんであれば花粉の季節にやる気が削がれることを実感されているのではないでしょうか。

花粉の飛散とは関係なく、アレルギー症状が一年中現れる、通年性アレルギー性鼻炎という病気でも、症状のひどいときにやる気が低下しがちです。

季節の影響

やる気が出ない原因として季節が影響しているのかもしれません。うつ病の一つのタイプとして、主に冬季に発症して春すぎには寛解状態(一時的に治った状態)になる、季節性うつという病気もあります。季節性うつの要因としては、日照時間が少ないことが関係しているという説が有力です。そのため、冬季に発症しやすいようです。

季節が関係するその他の要因として、梅雨の長雨、真夏の酷暑、台風シーズンの頻繁な気圧の変動なども、体調やメンタルの不調を引き起こして、やる気の低下に結びつきます。

やる気が出ないときの対処法

作業内容を小分けにして、とりあえず始めてみる

片づけなければならないことは分かっていてもやる気が出ない場合、それをいくつかのステップに細分化して、小さな目標にしてみましょう。実際、一つひとつ片づけていくと、その都度達成感を得られて、やる気を維持しやすいものです。また、大きな仕事と小さな仕事が混在しているような場合には、とりあえず始めて、小さな仕事や易しい仕事からまず片づけていくと良いでしょう。

仕事や作業する環境を整える

仕事や作業場の整理整頓、照明の調整、机と椅子の相性の確認などを行い、快適な環境作りをしましょう。作業スペースに好みの音楽を流すのも良いかもしれません。

また、正しい姿勢で作業を行い、長時間同じ姿勢でいる場合は休憩をはさんで体を動かすようにしてください。オフィス内で条件が許すなら、椅子ではなく、立って仕事をするスタンディングデスクを試してみるのも手です。

睡眠不足と睡眠の質を改善して疲れを翌日に残さない

疲れを翌日に残さないようにしましょう。それには毎日の睡眠が大切です。質の高い睡眠のために、照明や室温などを調整して、睡眠環境を整えましょう。また、床につく少し前に温めの風呂にゆっくり入ると、体をリラックスさせる副交感神経が優位になって、寝つきやすくなりおすすめです。

一方、コーヒーや緑茶などのカフェイン飲料は、夕方以降は飲まないようにしましょう。アルコールも、眠気を誘いますが、睡眠時に中途覚醒しやすくなり睡眠の質を低下させることが明らかになっています。

栄養の摂り方を見直す

栄養バランスが乱れていると、疲れを感じやすく、やる気が出ない場合があります。「栄養の偏りや不足、食べ方の問題」で解説したように、三大栄養素をはじめ、ビタミンB群(葉酸を含む)やC、D、鉄、亜鉛などの微量栄養素が不足しないようにしましょう。

生命活動に必要な栄養素のうち、三大栄養素や鉄の不足については、健康診断の結果(アルブミンや総タンパク質、血清脂質、ヘモグロビンなど)などから推測可能です。一方、鉄以外の微量栄養素は、この健診からは判断できないため、別で調べる必要があります。

ふだんの食事摂取量が少ない人、偏った食生活をしている人、食事量や腸からの吸収が低下していることの多い高齢の人などは、より注意しておきましょう。

栄養素の不足が気になる人は、サプリメントや市販薬などを活用するのも手です。

・血糖値が乱れない食べ方の工夫をする

食後に眠くなる場合は食後高血糖、食事の数時間後にやる気がなくなる場合は反応性低血糖の影響が考えられます。食事の際に、血糖値を急激に上げにくい食べ方を工夫してみましょう。例えば、サラダやタンパク質(主におかず)から食べ始める、炭水化物はなるべく精製度の低いものにし、食物繊維もしっかり摂るようにすると良いでしょう。

・エネルギー産生を助けてくれるフルスルチアミン

食事からエネルギーの源となる栄養素は摂っていても、体内でエネルギーを作り出せていないために疲れてしまいやる気が出ないことがあります。炭水化物は、三大栄養素の中でも、エネルギーを作り出すのに特に重要です。この炭水化物からエネルギーを効率よく作り出すには、ビタミンB1が必要。しかし、ビタミンB1は調理時の水洗いや加熱などで失われやすく、さらに体内で蓄えにくいため、不足してしまいやすい栄養素の一つです。それに対して、ビタミンB1の誘導体である「フルスルチアミン」は、通常のビタミンB1よりも腸内から吸収されやすいという特徴があります。やる気を引き出すエネルギー産生の強い味方です。

「フルスルチアミン」は医薬品やドリンク剤などの指定医薬部外品に配合される成分なので、食事やサプリメントから摂ることはできません。疲れている時などには「フルスルチアミン」を含むビタミン剤などを活用してみてはいかがでしょうか。

その他のポイント

・笑ってみる

笑うことでやる気が引き出されるという研究結果が報告されています。特におかしなことがなくても、口元を引き上げるだけで、表情筋と脳の回路がつながっているため楽しい気分になれるようです。周りの人目を気にしなければ、いつでもすぐにできることなので、試してみてはいかがでしょうか。

・あえて他のことをする

集中力が必要な作業を1時間程度した場合、10分程度休むようにしましょう。

どうしてもやる気が出ない場合、いったんその作業を忘れて、別のことをしてみるのも良いかもしれません。例えば身の回りの掃除や片づけなどです。また、作業が終わった後にすることの計画を立ててみて、それをモチベーションとして利用するという手もあります。

・なんでも試してみる

その他、家事や仕事とオフの時間のメリハリをつけたり、リラックスするためのグッズ、例えば蒸気アイマスクを試したり、ヨガにチャレンジするのも良いでしょう。また、温泉旅行を計画してモチベーションにしてみたり、疎遠になっている人に連絡をとってみたりなどなど、いろいろな方法で生活に刺激を与えてみましょう。

誰であっても必ずやる気を高められるという共通の方法はないので、いくつか試してみて、自分にあった方法を見つけてください。

改善しなければ病気の可能性も。診察を受けましょう

「やる気が出ない」ときの対処法を解説してきました。やる気が出ずに困っている方は、ぜひ参考にしてみてください。ただし、しばらく続けても効果を感じられない場合は、何かの病気が隠れていないか疑ってみる必要もあります。無理をし過ぎず、医療機関を受診して、医師に相談してみましょう。

<参考文献>
  • リハビリナース15(6),2022「患者さんの『やる気がでない』とはなにか?」
  • 労働科学8-1,2021「人間の疲れとは何か:その心理的考察」
  • 総合臨床39増刊,1990「疲れやすい」
  • アスコム「疲労回復の名医が教える 誰でも簡単に疲れをスッキリとる方法」,2019
  • 功刀浩「心の病を治す 食事・運動・睡眠の整え方」翔泳社,2019

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