更新日:2023年5月29日

疲れた…と感じるのはどうして?疲れの原因と悩み別の対処法を紹介

「疲れた…」と思わず口に出る、朝寝たはずなのに疲れを感じるといった経験はありませんか?疲れがたまってくると作業上のミスが増えたり、イライラしやすくなったりして余計に疲れてしまうなんてことも。また、疲れの蓄積が病気を招くこともあります。そうなる前に、疲れの原因と対処法を知っておきましょう。

監修

福渡 努 先生

滋賀県立大学 人間文化学研究院 教授 日本ビタミン学会 幹事
ビタミンB研究委員会 委員

INDEX

疲れとは?

疲れは体のアラーム症状

「疲労」(疲れ)は、「痛み」や「発熱」と並ぶ、体が発する三大アラーム症状の一つ。それ以上、そのような状況を続けていては危険というサインです。「痛み」や「発熱」は多くの人が体からの警告として自覚し、鎮痛剤やかぜ薬などで対処していますが、「疲労」はそれほど危機感を感じられず、対処していない人も多いでしょう。しかし、「疲労」も「痛み」や「発熱」と同様、生体の警告信号ですので、それを無視して走り続ければ、限界を越えて最悪の結果死に至ることも考えられます。たかが疲れだと侮らないようにしましょう。

・「疲労」と「疲労感」

疲労は「疲労」と「疲労感」に区別して用いられることがあり、「疲労」は心身への過剰な負荷(ストレス)によって生じた活動能力の低下のこと、「疲労感」は疲労が存在することを自覚する感覚で、多くの場合不快感と活動意欲の低下のことを言います。

疲労には、大きく分けると肉体疲労と精神疲労があります。しかし、私たちが感じる疲労の多くはどちらか一方からくるものではなく、両者の複合型のようです。つまり、体に同じようなストレスがかかったとしても、それを精神的に疲労感として感じるかどうかは、いろいろな条件によって異なります。例えば、楽しいこと、自主的に行っていること、やりがいのあることでは、疲労がたまっても疲労感を感じにくいですし、その反対に、あまりやりたくないこと、強制されていること、やりがいを感じられない作業などは、少しの疲労でも強い疲労感を感じてしまうでしょう。

・急性疲労と慢性疲労

一晩眠ると疲れが解消されるような急性疲労の場合は、対症的な治療で問題ないケースが多いです。一方、寝ても疲れが翌日に持ち越すような場合は、原因を特定して取り除く取り組みが必要とされます。なお、一般的に、寝ても疲れが残る状態が6カ月以上続く場合を「慢性疲労」と呼んでいます。

日本は「疲労大国」

日本は世界有数の疲労大国です。それを示唆するデータをいくつか紹介します。

厚生労働省の平成30年「国民健康・栄養調査」では、日本人の30~40代の約3割が「ここ1カ月、睡眠で休養を十分とれていない」と回答。少し前ではありますが、2004年に文部科学省が実施した調査では、「疲れているか」との質問に56%が「はい」と回答しています。就労人口を8千万として、この数値を基に日本全体に換算すると4,480万人に上ります。さらに、6カ月以上疲労を訴えている人、つまり慢性疲労に該当する人が3,120万人もいます。

2015年の総務省の調査でも、日本人労働者の20.8%が週に49時間以上働く「長時間労働者」であり、この割合は米国の16.4%、ドイツの9.6%、デンマークの8.4%などに比べてかなり高い結果に。そして、東京の平日の睡眠時間は5.59時間に過ぎず、平成9年の厚生労働省の調査では、一晩の睡眠で疲労が回復すると答えたのは41.6%。翌日に前日の疲労を持ち越すことが「ときどきある」と答えた人は42.7%、「よく持ち越す」が11.3%、「いつも持ち越している」が4.4%となっています。

ちなみに、日本人ならしばしば耳にする「過労死」という言葉。この言葉は、同じ意味の英語がないため海外では「karoushi」としてそのまま使われています。

あなたはどのくらい疲れている?

人は疲れてくると下記のような変化が見られます。

  • ・刺激に対する反応が遅くなる
  • ・思考力が低下して注意力が散漫になる
  • ・動作が緩慢で行動量が低下する

また、朝の目覚めが良いか悪いかも、疲れの蓄積の有無を手軽に判断する目安となるでしょう。

なお、文部科学省の研究班では疲労・疲労感の程度を把握するチェックリストを作成しています。気になる方は調べてみましょう。

疲れがたまる原因

〔ストレス-休息〕の計算結果がプラスだと〔=疲れがたまる〕

疲れが発生する原因はさまざまで、身体活動によって酸化ストレスが高まることや、心身のストレスによって自律神経のバランスが乱れて交感神経が優位な状態になり、心身を休める副交感神経が劣位になることなどが考えられています。また、脳内の神経伝達物質であるドーパミンやセロトニンなどのバランスが崩れることなどの影響もあるようです。

いずれにしても、疲れが“たまる”原因は、それら心身のストレスによって発生した疲れを、睡眠などの休息によって解消できないことによるようです。

・体の疲れと脳の疲れ

前述のとおり、疲労には肉体疲労と精神疲労がありますが、前者は末梢性疲労、後者は中枢性疲労とも呼ばれます。末梢性疲労の原因は身体活動や姿勢などによる筋肉の疲労などです。一方、中枢性疲労の原因としては、さまざまな仮説があり、脳内情報伝達物質の一つで“幸せホルモン”とも呼ばれている「セロトニン」不足なども関係していると言われています。

睡眠は、肉体疲労の解消はもちろん、脳の疲労回復にも重要です。睡眠には「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」の2種類あり、脳は、ノンレム睡眠と呼ばれる深い睡眠時に休んでいるため、睡眠が十分でないと、脳の疲労が回復せず、次の日に疲れを持ち越してしまいます。また、脳の疲労がたまっていくと慢性的な疲労状態となり、集中力の低下などにもつながっていくとされています。そのため、中枢性疲労の解消にはノンレム睡眠がより重要です。

疲れやすくなってしまう環境

同じ作業をしたとしても、環境によって疲れ方は異なります。例えば、高温多湿の環境ではストレスが高まり疲れやすくなります。また、空気が悪い、周囲の騒音、振動、照明が暗いといったことも、疲れを増やしかねない環境です。

その他、人間関係による精神的なストレス、睡眠不足や食事の量または質が良くないことなども疲れをためやすくします。

・コロナ疲れ

コロナ禍では、ユニバーサルマスク(無症状の人も含めてマスクを着用すること)による隠れ酸欠、三密回避のための運動不足、感染リスクからくる不安などによって心身にストレスがたまりやすくなっています。またそれらの影響で自律神経が乱れやすくなったりすることも考えられるでしょう。

疲れとともに現れる症状

体に現れる症状

・表情の変化

疲れはまず、表情の変化として現れやすいものです。顔つきや目つきに活気がなくなり、周りの人に対して、しょんぼりした印象を与えてしまいます。また、姿勢が悪くなったり、何度もため息をついたり、人から何か聞かれてもその反応が遅くなったりすることもあります。

・眼精疲労

体の疲れにともない眼精疲労が現れることが少なくありません。具体的には、目が疲れる、かすみ目、充血、目が重い、目がしみる、目が渇く、目の奥が痛い、涙目、目がしょぼしょぼする、まぶしい、まぶたのけいれん、視力低下などです。また眼精疲労で自律神経が乱れ、目の症状だけでなく、頭痛、肩こり、吐き気、めまい、倦怠感、食欲不振、うつ・不安などを生じることも。眼精疲労は、自律神経の乱れを知らせるアラームとも言えます。

・肩こり

厚生労働省が実施した「2019年 国民生活基礎調査」では、健康上の悩みとして、女性では「肩こり」がトップ、男性では「腰痛」に次いで2位となっています。「責任が肩にのしかかる」と言われるように、疲れの大きな原因であるストレスは、肩に負担をかけやすいものです。

・腰痛

同調査では健康上の悩みとして、男性では「腰痛」がトップ、女性では「肩こり」に次いで2位となっています。「腰」という漢字は、体を意味する部首の「にくづき」に、「要(かなめ)」と書かれるように、腰は身体の要。それだけ、常日頃の疲れが蓄積しやすいということです。

・手足のしびれ

疲れによる自律神経のバランスの乱れや筋肉の疲労によって、手足のしびれが現れることがあります。

・免疫力の低下

疲労回復が十分でない場合、免疫力が低下してしまいます。一例を挙げると、日々体を鍛えるアスリートは健康そうに見えますが、トレーニング疲れがたまっていることが多く、実際は一般の人よりも風邪をひきやすいというデータもあります。

メンタルに現れる変化と疲労の悪循環

精神的な疲れがたまって脳の負担が増えてくると、その機能(臓器の働き)が変調を来し、心の問題が生じやすくなります。

代表的な心の病気としてうつ病がありますが、約10人に1人が一生のうちに一度はかかると言われるほどです。うつ病の原因のすべてが明らかになっているわけではありませんが、原因の一つとして、精神的なストレスとそれによる疲れの蓄積が心の負担となって、うつ傾向になりやすくしてしまう可能性があります。

・疲れの症状が相互に影響を及ぼす悪循環

疲れの症状は、互いに良くない影響を及ぼしあうことがあります。例えば眼精疲労で肩こりや腰痛、めまい、食欲不振などが起き、それらの身体症状のためにメンタルにもダメージが生じてしまうことも。また、不安やうつなどのために眠れなくなったり、中途覚醒などで睡眠の質が低下していたりすると、体の疲労の回復が十分できなくなって、より疲れがたまりやすい状態になってしまいます。

疲れるシーンと対処法

疲れを感じやすいシーン

・仕事疲れ

仕事が多忙だと心身に負荷がかかり、肉体的・精神的に疲れやすくなります。また、職場の人間関係などによるストレスで、同じ仕事内容でも疲労感が異なることがあるかもしれません。

・家事疲れ

毎日行う家事によって、その日の疲れをその日のうちに解消できず、少しずつ疲労が蓄積していってしまうことがあります。また、お子さんがいる場合は育児の負担も加わってきますし、介護をされている場合は介護の負担も加わってくるでしょう。

・運動疲れ、長時間の座位による疲れ

スポーツや慣れない運動をした後は疲れを感じますが、軽く体を動かすことは、疲労感の抑制や疲労の回復に役立ちます。しかし、日本人労働者は世界で最も長時間、椅子に座って仕事をしているという残念な調査結果があります。長く座っていると、血流やリンパの流れが滞り、疲労物質などが溜まりやすくなり、疲れにつながります。

〔ストレス-休息〕の計算結果をマイナスにすると疲れがとれる

疲労は、心身に加わるストレスを休息によって解消できていないことで蓄積していきます。そのため、まずは上記の「疲れを感じやすいシーン」で取り上げたような、心身のストレスを減らす工夫を試み、加えて、休息を増やすようにすると良いでしょう。

・大切なのは「質の良い睡眠」

とくに睡眠が重要です。質の良い睡眠中は、副交感神経が優位になって心身の疲れが解消されていきます。それに対して、例えば睡眠中にいびきをかいたり、汗をかいたり、何度も目覚めたりするような質の低い睡眠では、せっかくの睡眠中にも交感神経が優位のままになってしまっています。睡眠環境を見直すとともに、場合によっては睡眠中に何度も呼吸が止まったり、浅くなったりする病気「睡眠時無呼吸症候群」などを疑ってみる必要もあるでしょう。

食事・栄養で回復する

・疲労回復のための栄養素

疲労回復にはビタミンB群が大切です。ビタミンB群は、細胞のエネルギー源である糖質の利用を高めるのに必要で、神経の働きを保つためにも必要とされます。

また、ビタミンCは、エネルギー産生にともなう酸化ストレスを緩和してくれるだけでなく、ストレスホルモン(コルチゾール)を下げるようにも働きます。

ビタミンEやDHA、EPAは、血流を改善して筋肉の疲労の回復を助けたり、神経の働きの維持などに役立ちます。近年では、メンタル面との関連も研究されていて、ビタミンEやDHA、EPAの値が低いことが、うつ症状と関連しているという報告もあるようです。

筋肉の疲労の回復には、タンパク質が重要です。その他、カルシウムは精神的なストレスでイライラしているような状況で、脳内の興奮を抑えるように働いてくれます。

・食事で補えていない人はサプリメントや市販薬の活用を

栄養は食事から摂ることが基本ですが、忙しくて食事に気をつかっていられない、疲れきっていて食欲が出ない、歳とともに食べられなくなってきた、という方もいるでしょう。また、ビタミン類は調理の過程で失われてしまうものもあるため、食事をきちんと摂っていても実は不足しているということもあります。

疲労の回復につながる栄養が不足しないよう、サプリメントや市販薬のビタミン剤などの活用も検討してみましょう。

・炭水化物は精製度の低いものを

一方、主食として食べることの多い穀物に豊富な炭水化物も、エネルギー源として使われる重要で欠かせない栄養です。しかし精製度の高い穀物を短時間で大量に摂ると、血糖値が急に上がり、その反動で食後数時間すると血糖値が下がりすぎるという現象が起きます。血糖値が高い時も低い時も疲れを感じやすいものです。対策として、なるべく精製度の低い、玄米や全粒粉などの炭水化物を食べると良いでしょう。

・カフェインを摂り過ぎない

カフェインを摂った後は一時的に覚醒レベルが上昇します。しかし、その後の疲労には悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。さらに、睡眠の質を下げてしまうことがあるので、摂り過ぎには注意しましょう。

適度に体を動かす、姿勢を正す

座りっぱなしなど、体を動かさないことも疲れの原因となります。長時間同じ姿勢が続くときは例えば30分おきに立ち上がって、歩いたりストレッチをしてみましょう。

また、ふだんの姿勢を見直すことも大切です。とくにスマートフォンの利用中は、首が曲がったり、姿勢が前かがみになりやすいので注意しましょう。

入浴、マッサージ、人との会話で笑顔に

寝る少し前に暖かい湯船に入り副交感神経を優位にしたり、マッサージで筋肉の疲れをとったりするのも良い方法です。また、メンタルの疲れは、親しい人との会話や、笑うことで解消されることが多いようです。居住環境が許せば、ペットを飼ってみるのも良いかもしれません。

疲れのサインを無視しない!

疲れは体が発するアラーム症状。疲れを感じているということは、心身にストレスがかかっていて、それを睡眠などで解消できていないということです。短期間なら無理がきくかもしれませんが、その目途が立たないような状況は問題です。生活パターンを変えたり、あなたにあった疲労回復法を見つけてください。それでも疲れが取れないなら、限界になる前に周囲に助けを求めたり、医療機関を受診してみましょう。

<参考文献>
  • シーエムシー出版「抗疲労・抗ストレス・睡眠改善食品の開発
  • へるすあっぷ21 2014-1「疲れは体が発するアラーム」」,2020
  • 総合臨床39増刊,1990「疲れやすい」
  • 日刊工業新聞社「おもしろサイエンス 疲労と回復の科学」,2018

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