更新日:2023年9月27日
金縛りが起こる原因は?仕組みや解き方・予防法、睡眠環境と睡眠の質を整える生活習慣について解説
金縛りの原因が幽霊や心霊現象だと思っていませんか?
寝ている最中に急に体が動かなくなって、声が出せなかったり、ときには誰かの話し声が聞こえてきたり…。そんな症状があれば、心霊現象を疑ってしまうのも無理はありません。しかし実際には、「睡眠麻痺」という睡眠中の症状の一つなのです。
本記事では、金縛りの症状や仕組み、原因だけでなく、解き方や予防法について紹介します。
監修
中村 真樹 先生
青山・表参道睡眠ストレスクリニック 院長
INDEX
金縛りとは?症状と原因について知ろう
金縛りは、医学的に説明がついている症状です。具体的な診断名としては、「睡眠麻痺」が該当します。また、ICSD-3(睡眠障害国際分類第3版)という国際的な診断指針では「レム関連睡眠時随伴症」に分類され、症状が頻繁にあらわれる場合には「反復性孤発性睡眠麻痺」と診断されます。
これまで世界中で、文化・宗教的意味づけをされ、「心霊現象」として扱われてきた金縛りですが、心霊現象などではなく、医学的に説明ができる、れっきとした睡眠障害の症状の一つなのです。
金縛りが起こる原因
金縛りは、筋肉が弛緩し、体に力が入らないレム睡眠中に、脳だけが突然目覚めることによって発生するのですが、これは「乖離(かいり)したレム睡眠」が原因と考えられています。
そもそも睡眠のサイクルは、
・身体は休んでいるが脳は動いているレム睡眠 →よく夢を見る、筋肉が弛緩している、瞼の下で眼球が急速に運動している
・身体も脳も眠っているノンレム睡眠 →浅い眠りから深い眠りまで3段階に分けられる
に大別され、それらは規則正しく交互にあらわれます。持続時間はレム睡眠が約10~30分、ノンレム睡眠が約60~70分です。
「乖離したレム睡眠」=レム睡眠の出現のずれは、何らかの原因により本来、規則正しく出現するはずのレム睡眠が、不規則に出現したり、細切れに出現したときに、金縛りを起こします。
金縛りの特徴
金縛りの特徴には下記のようなものがあります。
- ・力が入らず体を動かせない
- ・声を出せない
- ・呼吸はできるが息苦しさを感じる
- ・誰もいない部屋に人の気配がする、それが見える
- ・誰かの話し声がする
- ・何かが胸の上に乗ってきて、息が苦しくなる
- ・自分が浮き上がって、寝ている自分が見える(幽体離脱)
などです。
体が動かないだけでなく、レム睡眠中の覚醒のため、そのとき見ていた夢と現実が混同し、実際には存在しない映像や音が鮮明に見えたり聞こえたかのように感じる「幻覚体験」が起こることもあります。
また、レム睡眠時は、情動処理に関わる脳の扁桃体の活動が高まっているため、「恐怖感・不安感」といった情動が生じやすくなります。このために、心霊現象に遭遇したと感じてしまう人もいることでしょう。
ただし、いずれの症状についても、周りの人から見たら本人はただ寝ているだけです。通常、1分から数分で自然に治まり、そのまま目覚めるか、また寝てしまうので、金縛りになっても落ち着いて、解消されるのを待ちましょう。
金縛りの経験者はどのくらいいる?
「金縛り」の概念が民族や文化によって異なるため差がありますが、だいたい人口の3~4割ぐらいが、一生のうちに一度は金縛りにあうといわれています。年齢については10代~20代の思春期に最初に経験する人が多いようで、性別は関係ありません。
なお、睡眠障害の一つで、突然強い眠気に襲われたり、笑ったときなどに突然、体の力が抜けてしまったりする、ナルコレプシーという病気では、患者の2~6割に睡眠麻痺(つまり金縛り)が発症するといわれています。
金縛りが起きやすい時間帯、前兆は?
金縛りは、入眠時や夜中に突然目が覚めたときに起こりやすいことが知られています。これには、睡眠のサイクルが関係しています。
一般的な睡眠のサイクルは、入眠直後にノンレム睡眠となり、おおよそ90分前後たってから最初のレム睡眠があらわれ、起床までの間に数回これを繰り返します。しかし、睡眠直後にレム睡眠があらわれることがあり、そのような場合は金縛りが発生しやすくなります。
なお、睡眠から覚醒に移行する段階である起床間近のレム睡眠も、金縛りが起きやすい、もう一つの時間帯です。
また、金縛りを体験した人に、その前日に何か変わったことはなかったかを質問するという調査から、体調が良くなかった、生活が不規則だった、いやなことがあった、睡眠不足だったなどの回答が得られたという報告があります。これらは、金縛りの前兆というよりかは「乖離したレム睡眠」が起こりやすい心身の状態であったといえるでしょう。
金縛りが起こりやすくなる原因
金縛りが起こりやすくなる原因=「乖離したレム睡眠」を生じさせる原因を見ていきましょう。
不規則な生活や飲酒
毎日の起床・就寝時間が異なる不規則な生活や寝る前の飲酒(寝酒)などは、不規則で中途半端なレム睡眠の出現をもたらすため、金縛りが起こりやすくなる原因といえます。
特に寝酒は寝つきが良くなるイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが、アルコールによる睡眠は眠りが不安定になり、中途覚醒や熟眠感の低下を招くために、昼間に眠気が生じる原因にもなります。また、習慣的にアルコールを飲んでいる人がそれを中断した場合に、入眠後のレム睡眠があらわれやすくなることがあります。
細切れの睡眠
1日の睡眠が何回かに分かれてしまう細切れの睡眠も、金縛りが起こりやすくなる原因の一つです。
米国睡眠財団による2015年の報告では、18~64歳に推奨される心身の健康を維持するために必要な睡眠時間は7~9時間とされています(Sleep Health 1(1), 40-43, 2015)。
また、短時間の睡眠を繰り返すような習慣だけでなく、日中の遅い時間帯に長時間の昼寝をすることも、夜間の入眠直後にレム睡眠があらわれやすくなり、金縛りの原因になり得ます。
仰向けで寝ている
仰向けで寝ているときに金縛りになりやすいことが報告されています。その理由は、仰向けは睡眠中に体の動きが生じにくいことが関係している可能性があります。
横向きなどの不安定な姿勢で寝ていれば、もし入眠直後にレム睡眠が発生したとしても、重力のために体動が生じて、それを契機にレム睡眠が中断し、金縛りになる確率が低下すると考えられます。
精神的ストレスや過労、その他の原因
精神的なストレスや過労も原因になると考えられます。心身ともに疲弊し、睡眠時間が確保できていないと金縛りは起こりやすいためです。
その他、病気の症状として金縛り(睡眠麻痺)が見られる場合があります。例えば、ナルコレプシー、うつ病、双極性障害などです。
また、金縛りは家族性も関係しています。特に女性は、家族に金縛りになりやすい人がいる場合、ご自身もなりやすい体質である可能性があります。
金縛りの解き方
深呼吸をする
金縛りになってしまったときには、息苦しさに驚いたり、動揺してしまうかもしれませんが、まずは落ち着いてゆっくり深呼吸をしてみましょう。金縛りの持続時間は、数秒から長くても数分といわれているため、無理に体を動かさず深呼吸をして待つと、自然に解消されていきます。
金縛りの予防・対策方法
睡眠習慣・睡眠環境を整え、規則正しい生活を送る
金縛りを防ぐには、第一に睡眠習慣や睡眠環境を整え、規則正しい生活を心掛けると良いでしょう。
・規則正しい睡眠習慣のためにできること
良い睡眠習慣を維持するポイントは、
- ‐毎日同じ時間に起床し、日光を浴びる
- ‐朝食をしっかり摂る
- ‐日中には体を動かして適度に疲れておく
- ‐長時間の昼寝や夕方以降の仮眠はとらない
- ‐夕方以降はカフェインを摂らない
- ‐寝る1~2時間前に38~40度のお風呂に浸かる
- ‐就寝前にブルーライトの強いスマートフォンやテレビを見過ぎない
- ‐就寝直前の食事を避けるとともに、空腹も避ける
- ‐寝酒はやめる
- ‐場合に応じて睡眠を助けるサプリメントや市販薬を試してみる
- ‐睡眠を妨げるような咳や鼻づまり、痛み、かゆみ、睡眠時無呼吸症候群、むずむず脚症候群などがあれば適切に治療する
- ‐目覚めやすくするために起床30分前から寝室の照度を少しずつ上げる
- ‐睡眠環境を整える
などです。
なかでも、最後にご紹介した睡眠環境は、下記の状態にできるのが理想です。
<理想的な睡眠環境>
- ‐寝室はなるべく暗くする(就寝の約1時間前からやや暗い暖色系の照明が望ましい)
- ‐睡眠を妨げる騒音はできるだけシャットアウトする
- ‐湿度は50~60%程度に保つ
- ‐室温は16(冬場)~26度(夏場)に保つ(布団のなかは32~34度)
※温度に関しては、暖か過ぎると深部体温が低下しにくくなって寝つきにくくなる可能性もあるので注意 - ‐寝衣は締め付けられない、吸湿性や吸水性・柔らかさのあるものを身に着ける
- ‐敷布団は適度な硬さ・寝がえりがしやすい・吸湿性・放湿性・保温性があるものにする
- ‐掛け布団は吸湿性・放湿性・適度な軽さ・柔らかさがあるものにする
など。
ストレスや疲れを溜めないようにする
金縛りを防ぐための第二のポイントは、ストレスや疲れを解消することです。ストレス・疲労の解消も規則正しい睡眠のサイクルにつながります。
いやなことや不安は生きている限り完全に避けることは難しいものですが、ストレスの解消には、効率よく気を紛らわすことのできる、自分にあった方法を見つけましょう。自分なりの解消法がまだないという方は、入浴や適度な運動、趣味に没頭するといったことを試してみてはいかがでしょうか。
ただし、度を過ぎれば逆効果になることもあるため注意が必要です。
また、疲れの解消には、十分な睡眠と健康的な食生活が大切です。疲労の回復は睡眠の役割の一つであるため、心身の健康を維持するために必要とされている7~9時間は寝るようにすると良いでしょう。食事の面では、エネルギー量の確保だけでなく、ビタミンやミネラルなどの微量栄養素が不足しないように気をつけてください。食生活が乱れていたり、偏食したり、少食の人などでは、疲労の回復に有効な微量栄養素が不足しがちなため、医薬品やサプリメントの摂取を考えてみるのも良いでしょう。
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金縛りが頻繁な場合や家族性の場合は医療機関へ
まずはここまででおすすめした、睡眠環境や睡眠習慣について目を向け、規則正しい生活を意識してみましょう。
それでも金縛りが頻繁な場合や家族性の場合は、医療機関の受診をおすすめします。
金縛りは3~4割の人が体験する現象だとお話ししました。とはいえ、心身ともに健康な人の場合、それほど頻繁に起きるものでもありません。もし日常生活に支障がでるほど頻繁に金縛りになるとしたら、薬による治療を行う必要があるかもしれません。何らかの病気が背後にある可能性も考えられます。
また、家族性の場合も薬による治療が必要になりますので、一度、睡眠学会専門医が在籍する医療機関(https://jssr.jp/list)を受診して相談してみると良いでしょう。
金縛りは幽霊や心霊現象による影響ではない!
金縛りは心霊現象ではなく、科学的・医学的に説明できる症状です。多くの人が経験していることであって、基本的には治療を必要とするようなものではありません。
ただし、なかには何らかの病気の症状として金縛りが起きていることがあります。また、悪夢を見るということが、メンタルヘルスの悪化と関連しているとする研究報告(Sleep. 2005 Sep;28(9):1135-41)もあります。もし、頻繁に金縛りが起きたり、金縛りをストレスに感じているのなら、ためらわずに医師に相談してみてください。
- <参考文献>
- 日本臨床66増刊2「反復孤発性睡眠麻痺、悪夢障害」「睡眠関連幻覚」,2008
- こころの科学179「悪夢と金縛り」,2015
- 朝倉書店「睡眠学 第2版」,2020
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