更新日:2022年5月30日

肩甲骨(けんこうこつ)まわりが痛いのはなぜ?原因と対処法を解説

肩甲骨(けんこうこつ)周辺の骨や筋肉の不調から、肩が痛いと感じている方は多いのではないでしょうか。肩甲骨まわりの痛みは肩こりや五十肩などから生じるケースもありますが、肩にある骨や筋肉、腱だけが原因とは限りません。中には内臓の不調からくるケースもあります。

ここでは、肩甲骨まわりに痛みが生じる原因について解説するとともに、痛みの予防や対処法についても紹介します。

監修

手塚 正樹 先生

院長・高砂慶友整形外科

INDEX

肩の仕組みを知ろう

肩は上肢(腕と手)を支えると同時に、これらを動かすことができる仕組みをもつ重要な部位で、主に鎖骨、上腕骨、肩甲骨で構成されています。肩甲骨は背中の上の方にある逆三角形の平らな骨です。この肩甲骨と、二の腕の上腕骨から成る肩甲上腕関節 は一般に「肩関節」といわれ、体の中で 動く範囲が最も大きい関節です。

肩は上腕骨の肩側の先にある球形の骨頭が、浅くくぼんだお皿状の関節窩(かんせつか )にはまることで自由に動かすことが可能になります。ただし、はまっている部分が浅いために脱臼(関節を形成している骨が外れた状態)が起こりやすい場所でもあります。

肩甲骨まわりが痛い原因とは?

肩甲骨まわりが痛い原因としては大きく二つ、「筋肉・骨・関節の不調」と「内臓の不調」に分けられます。ここでは、それぞれの原因から考えられる病気をいくつか紹介します。

筋肉 ・骨・関節の不調

肩関節はさまざまな方向に動かせる構造になっており、たくさんの筋肉や腱(筋肉と骨をつなげる組織)、靭帯(骨と骨をつなげる組織)が集まっています。しかし加齢にともない肩甲骨を動かす筋肉や上腕骨を上げる筋肉が硬くなって肩甲骨の動きが制限されたり、腱板の働きが低下したりします。また、外傷を受け それによって炎症が起こりやすくなり、肩の痛みの大きな原因となるのです。

また、肩関節の周囲には肩にかかる衝撃を吸収したり、関節の動きを滑らかにしたりする働きを持った組織がありますが、これらの弾力が損なわれることでも炎症が起こり痛みを感じます。

考えられる症状や疾患

■肩こり首から肩にかけて、あるいは首すじから背中にかけて、痛みやこり、張りなどの症状が生じます。さらに頭痛や吐き気をともなう場合もあります。原因はさまざまで、僧帽筋(そうぼうきん)や肩甲挙筋(けんこうきょきん)など肩に関連する筋肉の疲労や、頚椎椎間板ヘルニアなど背骨の病気などによって首の神経が圧迫されて生じる場合があります。

■五十肩(肩関節周囲炎)肩を酷使したり、ぶつけたというわけではないのに、突然肩に鋭い痛みが生じて動かせないといった症状がでたら「肩関節周囲炎」かもしれません。肩関節周囲炎は「五十肩」とも呼ばれ、関節を構成する骨や軟骨、腱、靱帯などが加齢にともない変性し、肩関節の周囲に炎症を起こすことが主な原因と考えられています。

■肩腱板断裂(腱板損傷)(かたけんばんだんれつ(けんばんそんしょう))肩腱板断裂は、腱板の老化や外傷が原因で起こります。腱板の腱が断裂した状態で、肩が動かせなかったり、動かす際に痛みが生じたり、夜間に痛みが現れたりします。外傷によるものは半数で、残り半数ははっきりしていません。日常生活の中で断裂が起こってしまい、原因は肩の使いすぎと考えられています。

■肩鎖関節脱臼(けんさかんせつだっきゅう)例えば柔道やラグビーで転倒し、肩を強打した場合などに起こる脱臼です。鎖骨と肩甲骨の間にある靭帯が断裂することによって、肩関節の一部に痛みや腫れが生じます。肩腱板断裂(腱板損傷)をともなう場合もあります。

■石灰性腱炎(石灰沈着性腱板炎)(せっかいせいけんえん(せっかいちんちゃくせいけんばんえん))老化などで腱板内に石灰(リン酸カルシウム結晶)が沈着することで起こる炎症で、40~50歳代の女性に多く見られます。夜間に肩関節の痛みが突然生じることから始まる場合が多く、睡眠が妨げられ、関節を動かすことができなくなります。石灰は当初は濃厚なミルク状ですが、硬く変化し、たまって膨らんでくると痛みが増してきます。

内臓の不調

肩甲骨まわりの痛みは、内臓の不調によって生じる場合もあります。もとの病気から離れたところに現れる痛みを関連痛(放散痛)といいますが、例えば狭心症や心筋梗塞では肩や腕などにも痛みが現れることがあります。また、肝臓で作られた胆汁が十二指腸に至るまでの通り道、胆道(たんどう)に石(結石)ができる胆石症では、半数以上に「胆道痛」といわれる右の肋骨の下やみぞおち、右肩甲骨の下に痛みが生じます。

肩甲骨まわりに痛みを感じたとき、大きく息を吸って痛みが強くなるといった場合は、肺や心臓を覆っている膜や横隔膜などに炎症が起きているかもしれません。このような場合は肩周辺以外の治療が必要になるので循環器内科や消化器内科といった医療機関を受診しましょう。

肩甲骨まわりの痛みの予防と対処法

肩甲骨まわりに痛みを感じたときはどのように対処したらよいのでしょうか。ここでは、日常生活で気を付けたい肩甲骨まわりの痛みへの予防策や、痛みが生じた際の対処法について紹介します。

ストレッチをする

ストレッチを行い、意図的に筋肉や筋を伸ばすことで筋肉の緊張が取り除かれ、血液の流れが良くなるとともに、筋(すじ)がやわらかくなって関節の動く範囲が広がります。その結果として、痛みの改善やけがの予防などが期待できます。

ストレッチを行う際には次の5つに注意しましょう。

  • 時間をかけてゆっくりと伸ばす。
  • 伸ばす部位を意識する。
  • 痛くなく、気持ちよい程度に伸ばす。
  • 深い呼吸は緊張をやわらげるため、呼吸を止めずに行う。
  • ゆっくりとストレッチする時間がないときは、以下のような肩関節まわりの体操を、すき間時間などに行う。

<ストレッチ例>

例1:仰向けになり、手で痛い方の腕を支えながら上に挙げます。3~5秒頭上で保ち下ろします。

例2:壁に向かって立ち、人差し指と中指で壁を這い上がるようにして、腕が上がる限界まで上げていきます。そこで5~10秒保ちます。同様の動きを、壁に対して体を横にして立ち行います。それぞれ10回程度が目安です。

正しい姿勢を心がける

肩に過剰に負担がかかるような悪い姿勢はもちろん、長い時間同じ姿勢を取り続けることも筋肉や関節にとっては良くありません。例えば、パソコンでの作業は前かがみの姿勢を長時間続けがちで、肩や首の筋肉に大きな負担をかけることになります。

また、左右のバランスが崩れるような体の使い方をすると、体が水平を保とうとして肩の筋肉が過剰に働き、硬くなりやすくなります。例えばショルダーバッグは片方の肩に負担が集まるため、両肩で背負うリュックタイプに替えてみるのもよいでしょう。

適度な運動を行う

日ごろから肩を動かす適度な運動を心掛け、肩周辺の筋肉の強化を図ることも大切です。適度な運動により血流が促進され、肩こりなどの症状を軽くすることができます。特別なスポーツをする必要はなく、普段から体を意識的に動かす習慣をつけましょう。

例えばウォーキングは手軽にでき、適切な歩き方により肩のこりや痛みの予防となります。歩くときの姿勢は、あごを引き、背筋を伸ばして胸を張りましょう。そしてつま先で地面を蹴り出して、かかとでしっかりと着地します。足の動きに合わせて両腕を軽く振り、左右のバランスをとることがポイントです。

体を冷やさないようにする

肩のこりや痛みの最大の原因は筋肉疲労と血行障害です。血行が悪くなると疲労物質が筋肉の中にたまり、末梢神経を刺激して痛みや不快感が生じます。お風呂に浸かって筋肉が温まると、血流が良くなり疲労物質を排出する助けとなります。また、体や肩まわりを温めるためには、蒸しタオルやカイロなどを利用してもよいでしょう。ただし、低温やけどには注意が必要です。蒸しタオルやカイロが肌に直接触れないように工夫して温めるようにしましょう。

薬で痛みを緩和する

■内服薬痛み止めとして一般的な非ステロイド性消炎鎮痛薬には、炎症を鎮め、痛みを抑える働きがあります。その他、肩のこりや痛みがなかなか取れない場合は、ビタミンB群やビタミンEなどの有効成分が配合されたビタミン剤もおすすめです。

ビタミンB群は、代謝に関わり、特にビタミンB1は細胞のエネルギー産生に欠かせません。さらにビタミンB6、B12は神経系を正常に保つ働きがあり、傷ついた末梢神経の修復に関与し、痛みやしびれをやわらげます。また、ビタミンEは末梢血管の血流に関与します。

■外用薬消炎鎮痛成分が配合されている塗り薬、湿布やテープ剤などの貼付剤は、炎症を抑え、痛みをやわらげる作用があります。貼付剤では湿布が一般的に使われていますが、例えば関節のような動く場所には塗り薬を使用するなど、場所にあわせて選ぶとよいでしょう。

病院で診察を受ける

肩に痛みを感じたときに、湿布や塗り薬などで対処している方は多いでしょう。一時的な症状であれば、それらの方法で症状が軽くなることが期待できます。しかし、たびたび痛みに見舞われるようであれば、動作や姿勢など日常の生活習慣を見直すことが必要です。また、中には消化器疾患をはじめ内臓の不調が原因となっている場合もあります。安静にしていても痛みがおさまらない場合は、まずは整形外科を受診し、内臓の不調などが疑われる場合は、必要に応じ医療機関で診察を受けるようにしてください。

<参考文献>
  • 手塚正樹「くび・肩・背中の痛み」(法研)
  • 高橋正明監修「STEP整形外科」(海馬書房)

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