更新日:2022年12月27日
「抵抗力」をつけるための生活習慣とは?
新型コロナウイルス感染症の流行によって、体の抵抗力をつけ、免疫機能を高めることがより重視されるようになりました。ここでは、そんな抵抗力についてを解説し、生活習慣の中で抵抗力を高めるポイントをご紹介します。
監修
渡辺 恭良 先生
日本疲労学会 理事長、
神戸大学大学院 科学技術イノベーション研究科 特命教授、
理化学研究所 名誉研究員、
Integrated Health Science株式会社 代表取締役CEO
INDEX
そもそも「抵抗力」とは何をさすのか。
私たちは、日常生活を送る上で病気がなくて体調がよく、自由に活動できるときに、健康な状態であると感じます。逆に、夜更かしや過重労働が重なったり、疲れが溜まった状態を「抵抗力が落ちている」と感じます。
抵抗力とはその名の通り、外部から心身に対する影響を与えて生命力・生活力の低下を起こすことを防ぐ、または、それらの低下を最小限にとどめようとする能力です。その典型例としては、免疫機能によって病原体に「抵抗する力」があげられます。
行動体力と防衛体力
私たちは健康の指標として、「体力」をあげますが、その定義は人によってさまざまです。体力は大きく分けて、行動体力と防衛体力の2種類に分類されます。
行動体力とは、実際に体を動かして行動する身体的な能力です。いわゆる体力測定などで測られる、筋力、瞬発力、全身持久力などが含まれます。もう一方の防衛体力とは、病気やストレスに対する免疫機能などの受動的防衛力(=身体の状態を維持する力)や、環境に適応する力のことを言います。
誰もが持つ体を外敵から守るシステム「免疫」
私たちの体には、ウイルスなどの病原体から身を守る「免疫」という仕組みが備わっています。体の中への細菌やウイルスなどの異物の侵入をキャッチすると、それらを排除して体を正常に保とうとするシステムのことです。
体に入ってくる異物を処理するために体温を上げて免疫系の細胞を活性化し、また、異物を体外に出すために唾液、鼻水、喀痰、傷口からの漿液などで洗い流したりします。その結果として、風邪をひいたときには喉の痛みや咳、発熱や鼻水などの症状が現れるのです。この仕組みのおかげで、私たちはさまざまな病原体から身を守っています。
抵抗力が低下するとどうなる?
抵抗力が低下している状態、つまり「体が本調子ではない状態」で病原体に触れてしまうと、普段なら発揮されるはずの免疫機能が十分に働かない場合があります。体が細菌やウイルスに負けてしまい、感染症にかかりやすくなるのです。体を正常な状態に保つことができず、病気にかかったときには症状が重くなったり、なかなか治らずに長引いたりしてしまいます。逆に、寒気がしたけれど、暖かくして栄養をしっかり摂り、ゆっくり休んだら、そんなにひどくならずに済んだ、という経験は誰しもあるのではないでしょうか。それは、抵抗力のある状態が維持・回復されており、免疫がうまく機能したために、ひどくなる前に病原体に勝てた証拠です。
抵抗力が低下する要因とは?
抵抗力が低下するのにはどんな理由があるのでしょうか。
代表的な例として、仕事などで心身の負荷が大きく疲れやストレスが溜まっている、栄養バランスが偏っている、体力が落ちている、加齢の影響などがあげられます。とはいえ、免疫機能に個人差があるように、同じような生活をしていても、病気がちな人もそうでない人もいます。元々の体質など、さまざまな要因が絡み合っています。
疲れて防衛体力が落ちている
防衛体力の低下の要因の一つに、疲れがあげられます。
忙しかったり、無理をしなければならない状況が続くと、身体・精神活動による体の各組織の酷使に伴い、生体内の細胞の酸化が進み、傷付いてゆきます。これが、うまく修復できればよいのですが、栄養バランスや生活習慣・腸内環境の乱れ、休養不足により、細胞内の傷害を修復するために必要な細胞内のエネルギー不足に陥る状態が続くと、危険信号として脳に「疲れた」というアラートを送ります。つまり、疲れは、生体内のホメオスタシス(健康な状態を維持する、恒常性のこと)が崩れかけたまま過ごさないように、脳にお知らせしてくれている現象とも言えます。
このアラートを放置、もしくはうまく対処できない時期が続き、細胞内の修復エネルギー不足状態が続けば、免疫機能・抵抗力が徐々に低下し、ひいては防衛体力の低下といった負のスパイラルとしてひき起こされうることが考えられます。
生活習慣の乱れ
不規則な生活や暴飲暴食といった生活習慣の乱れは、抵抗力が低下する原因になります。夜更かしなどで体のリズムが崩れてくると、睡眠の質が落ちて疲れがとれにくくなるからです。食べ過ぎもよくないですが、逆に食事量が不十分であったり、栄養に偏りがあるなど、必要な栄養が十分に摂れていない場合も同様です。
腸内環境の乱れ
腸内にはなんと1000種類以上もの腸内細菌が生息しています。私たちの全身の免疫系の約70%が集まっており、腸内環境は肥満、糖尿病、動脈硬化症などの疾患と密接な関係が認められており、とくに、悪玉菌の種類が増えると病気の発症に近い状態になります。一方、善玉菌の細胞を構成する物質には、体の免疫機能を高める効果も報告されています。理想の腸内環境は、善玉菌が優勢の状態ですが、不規則な生活やストレスなどが原因で悪玉菌が増えてくると、抵抗力の低下につながります。
ストレス
心と体の健康は密接に関わっており、ストレスからくる暴飲暴食や食欲の低下、アルコールの摂取、不眠などによって、間接的に体に影響を及ぼして抵抗力の低下を招くことも十分に考えられます。ストレスは体温調節や睡眠、疲労など、私たちの体を制御している自律神経系の働きにも大きな影響を与えます。
加齢(身体抵抗力の低下)
抵抗力は加齢に伴って低下します。身体機能(行動体力)の低下に加えて、侵入した病原体との戦いに打ち勝つ速度や力がだんだん落ちてくることが理由です。高齢になってくると病気に罹患する方が多くなるのはこのためです。
「抵抗力」を高めるためのポイントは?
前述のように、抵抗力の低下には、栄養不足や運動不足、加齢など、さまざまな要因があります。これは逆に言うと「これだけで抵抗力を高められる」という改善策も存在しないのです。抵抗力を高めるためには体力をつけて健康な体を維持し、疲れを持ち越さないようにしましょう。
そのために心がけておきたいポイントを解説します。
栄養バランスのよい食事を摂る
まずは、暴飲暴食や過度な偏食をせずに、栄養バランスのよい食事を摂りましょう。全エネルギーを100%とした場合、理想的なバランスとされるのは糖質50~65%、脂質20~30%、タンパク質13~20%とされています。
ほとんど意識することはありませんが、私たちの体は自分の意志で行っている身体的な活動以外にも、心拍・血流、呼吸や体温調節、脳の働き、代謝とエネルギー産生など、生きているだけであらゆる臓器が機能しています。
つまり、それだけエネルギーを必要としているということです。体は代謝の工程でたくさんの栄養素を必要としているため、エネルギー産生のために必要な栄養素や必須ビタミン類・ミネラルが充足していることが前提になります。これらを中心に、偏りなくバランスのよい食事を摂るように心がけましょう。
抵抗力を高めるためにおすすめの食べ物は?
抵抗力を高めるためにおすすめの食品として、豚肉、鰻、レバー、海苔、落花生などの、ビタミンB群を多く含む食品があげられます。
ビタミンB群はエネルギー産生に関わっており、皮膚や粘膜の健康維持を助ける栄養素が多いことで知られています。特にビタミンB1は疲れをとるために重要な栄養素です。しかし、食事での摂取では水洗いや加熱など、調理工程で多くの栄養素を消失してしまいます。栄養ドリンクに含まれる「フルスルチアミン」はビタミンB1よりも吸収に優れた成分で、効率よく吸収することができるためおすすめです。
- フルスルチアミンを含む、身体抵抗力の維持・改善におすすめのアリナミン製品
また、タンパク質を多く含む食べ物もよいでしょう。タンパク質から得られるアミノ酸は筋肉や臓器を構成する材料となる栄養素で、欠乏すると特に免疫機能の低下が起こることで知られています。主に卵やお肉、魚や豆類などに含まれています。
こまめに運動をして体力をつける
運動習慣のある人は、そうでない人に比べると、高血圧、糖尿病、肥満などの生活習慣病の罹患率や、死亡率が低いことがわかっています。
適度な運動は身体能力や免疫細胞の働きの強化につながることに加えて、ストレス発散や質のよい睡眠の助けにもなり、体と心の両方によい効果をもたらします。ウォーキングやエスカレータを使わずに階段を使うなど、日頃の生活でできることを意識してみましょう。
休息の質を上げる
現代人は、老若男女子供みんな大変多忙な生活を強いられています。便利さを追求してきた人類がたどり着いている世界は、時短で移動し、連絡も頻繁に行い、仕事や勉学も「効率」優先で、どのような事業にも「スピードアップ」が求められています。インターネットやSNSで世界のどこにいても情報が氾濫していますし、マーケットのグルーバル化やオンライン会議の推進などで、24時間働ける環境になってきました。
毎日の慌ただしい気持ちを持ったまま、活動している人が多いと思われます。そこで、「質のよい休息」や「質のよい睡眠」が非常に重要になってきます。この2つは、もちろん、緊密につながっていますが、活動や過活動(オーバーワーク)によって減った「抵抗力」を回復させ、また、充電効果で「抵抗力」を増やすこともこの2つのことで達成できます。ただ、「休息」がとりにくい環境に対する対策を立て、自分に合った「いつ、どのタイミングで、どのぐらいの時間」を含めた「休息」メニューが大切であることは多くの人が気づいてはいますが、まだまだ「休息」に関する体系立った科学技術は緒に就いたばかりです。
リフレッシュ方法をいくつも持つ
休息には、受動的な(passive)ものと能動的な(active)ものがあります。単に、必要なタイミングと時間に仕事などを休む、休憩姿勢をとる、仮眠することをpassive restとすれば、通常、スポーツ界の言葉と考えられがちですが、active restとして、軽い運動(体操や散歩)、外出(とくに自然を感じる)、音楽を聞いたり癒し画像を見たり好きな香りを嗅いだり、美味しいおやつを食べたり、好きな飲み物を飲んだり、気の合う人とスマホなどで話したりチャットしたり、中には、好きなゲームを程よくすることもできます。思い切り自分の思いを伝えて相談したり、喜怒哀楽を外へ出したり、面白いことに腹の底から笑ったり、それもメンタル面の休息と言えます。
このような休息手段の自分らしいメニューを持つこと、また、リフレッシュできる方法をいくつも持っていることが「休息の質を上げる」ことにつながります。飲食には、心身の疲れを癒す成分が多く入ったものを摂取することもおすすめです。
質のよい睡眠をとる
抵抗力を高めるには、良質な睡眠をとり、その日の疲れをしっかりとることが重要です。そのためには睡眠に適した環境を整え、生活のリズムを整えることが必要です。具体的には、布団に入る時間に極端なばらつきがないように時間を決めたり、部屋を暗くして落ち着いた環境をつくることなどがこれにあたります。眠りの環境づくりも大切ですが、実は日中の昼寝も有効で、眠いときは無理せず眠ることも大切です。
また、寝る前にお風呂に入って体温を一時的にあげると深い睡眠に入ることができるため、睡眠の2~3時間前の入浴もよいとされています。
腸内環境を整える
腸内環境を整えるには、善玉菌を増やす食品を意識して食べるのもよいでしょう。善玉菌を増やす食品には、ヨーグルト、納豆、ぬか漬けなど、ビフィズス菌、乳酸菌、酪酸菌を含む食べ物があります。また、善玉菌の働きを助ける食品を積極的に摂ることも効果的です。野菜類・果物類・豆類があげられますが、これらの食品に多く含まれるオリゴ糖や食物繊維は、善玉菌のエサとなって腸内の善玉菌を増やす働きをしてくれます。
よい状態の腸内環境をキープするには、便の状態を見る習慣をつけることもおすすめです。悪臭のない、バナナ状の適度な柔らかさの便がスルッと出るのが理想です。
手洗いなど、基本的な感染対策をとる
病気にならないようにするためには、体の抵抗力を高めておくことも必要ですが、根本的にウイルスなどの病原体に触れる機会を減らし、体に入らないようにすることが効果的です。
新型コロナウイルス感染症でここ数年徹底されてきた、マスク着用、こまめな手洗い、手指のアルコール消毒、換気、咳エチケットなどの感染対策は、新型コロナウイルスのみならず、さまざまな感染症の対策としても有効とされています。
結局のところ、必要なのは「健康的な生活」そのもの
これまで、抵抗力を高めるポイントを色々述べてきましたが、重要なのは、よく食べ、よく動き、よく眠るという「健康的な生活」を送ることです。栄養バランスのよい食事、こまめな運動、質のよい睡眠といったシンプルな習慣が、抵抗力を高めることにつながります。
少しでも疲れていると思ったら、無理せず早めに休むことで免疫機能が正常に働き、病気になる前にブレーキをかけられる場合もあります。もちろん、免疫機能は自分の意志ではコントロールできません。いざというときに備えて日頃から体を本調子にキープしておくことがとても大切なのです。
そのためには、十分な栄養を摂ってよく眠り、疲れを翌日に持ち越さないことが大切です。疲れをとるためには栄養ドリンクなどもうまく利用して栄養を補給し、健康な体づくりにつなげましょう。
- <参考文献>
- 渡辺恭良・水野敬著「おもしろサイエンス 疲労と回復の科学」(日刊工業新聞社)
- 杉田 正明・片野 秀樹著|日本リカバリー協会監修「休養学基礎 疲労を防ぐ! 健康指導に活かす」(メディカ出版)
- 日本リカバリー協会RecoBar
https://recover-bar.jp/ - レビューブック 管理栄養士2023(株式会社メディックメディア)
- 栄養士・管理栄養士のためのなぜ?どうして?基礎栄養学 株式会社メディックメディア
- 猪飼道夫「運動生理学入門」(杏林出版)1969年p144、176
- 厚生労働省 日本人の食事摂取基準2020報告書
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08517.html - 厚生労働省 e-ヘルスネット
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/ - 文部科学省 食品成分データベース
https://fooddb.mext.go.jp/index.pl