更新日:2022年8月31日
「疲れやすい」の原因は? 4つの行動と栄養素の不足
「疲れやすい」、「疲れが抜けない」、「元気が出ない」といった悩みを持つ人は多いのではないでしょうか。そのような状態では、「やりたいこと」「やらなければならないこと」があってもなかなか進まず、もどかしい気持ちになります。慢性的な疲労感や倦怠感(だるさ)をすっきり解消し、早く元気な毎日を送りたいものです。また、あまりに長く「疲れが抜けない」状況が続く場合は、病気も心配になってくるかもしれません。
本記事では、「疲れ」のさまざまな原因を紹介、対処法を解説します。
監修
渡辺 恭良 先生
日本疲労学会 理事長、
神戸大学大学院 科学技術イノベーション研究科 特命教授、
理化学研究所 名誉研究員、
Integrated Health Science株式会社 代表取締役CEO
INDEX
生活に●●が足りない!? 4つの行動の不足
いつも「疲れ」や「だるさ」を感じ、休日は家でゴロゴロ。たくさん休んだはずなのに疲れがとれず、なおさらストレス。こんな経験はありませんか?それは、あなたの生活に<4つの行動の不足>があることが原因かもしれません。
不足行動1外出が足りない──「プチ外出」のススメ
疲れているときこそ「プチ外出」が効果的。「買い物」や「散歩」など、まずは短時間の外出をしてみましょう。あるいは、サードプレースと呼ばれる趣味の会合など、自宅と勤務先(や学校など)以外の第3の場所に行くことも健康に良いというデータが出ています。家にずっといるより疲れがとれるかもしれません。「疲れは気から」という場合もあります。外出で環境を変えるだけでも気分転換になりますし、それがパターン化すれば自身の「気分の切り替えスイッチ」を持つことができます。
「家でゴロゴロ」はよくない?
「家でゴロゴロ」は、①心の疲労、②セロトニンやビタミンDの不足、③体内時計のずれを引き起こし、かえって疲れの原因になります。
①心の疲労
せっかくの休日に家にいて何もしないと、「これで良いのか?」という焦りが生まれることがあるでしょう。それが「心の疲労」につながってしまいます。心と体は連動しているため、それが体も含めた疲労感を生むのです。
②セロトニン不足、ビタミンD不足
家にずっといると、日光不足になりがちです。日光を浴びると「セロトニン」という脳内物質の分泌が促されます。この物質は心の安定、脳の活発化、ストレスや心の疲労の低減などに働き、不足すると、意欲の低下、イライラ、うつ症状などを引き起こします。また、外出し日光を浴びると「活性型ビタミンD」が体内で作られ、これは骨の維持や気分・意欲の向上に働くホルモンです。外出の少ない方、とくに、一日外に出ない主婦の方や、出かける際にいつも多めの日焼け止めを塗る方には、骨粗鬆症だけでなく疲れやすく抑うつ状態の方が多いという調査結果があります。
③体内時計のずれ
体内時計の調節には日光が不可欠です。日光を浴びないと、体内時計が現実時間とずれて、睡眠の質の低下、不眠などの睡眠障害やうつ病などの原因になりがちです。体内時計の調節には、朝の日光を浴びるのが特に効果的です。
また、家にいるとパソコンやスマートフォンを長時間眺めている方も多いのではないでしょうか。これが目の疲れ(眼精疲労)を引き起こし、体全体の「疲れ」の原因にもなるため注意しましょう。
不足行動2人との交流が足りない──億劫がらずに人と会話しよう
疲れていると、「誰ともかかわりたくない」、「話すのが億劫」などと感じたことはありませんか。そんなときこそ、家族や友人・知人と会話をしてみるのがおすすめです。人と話すと、気分転換になったり癒し効果が得られて、疲労回復に効果的です。話すのはできれば、自分に好意的で共感的な人がよいでしょう。
人と話して楽しい気持ちになれば、ポジティブな気分や意欲向上にかかわる脳内物質「ドーパミン」の分泌が促進されます。また、感情が共感できれば、幸福感や社交性の向上にかかわる脳内物質「オキシトシン」の分泌も促進されます。その結果、気分が向上して元気になることもあるのです。
不足行動3運動が足りない──疲れているときこそ体を動かそう
「疲れているときこそ、あえて体を動かす」という疲労回復法「アクティブレスト」(Active Rest;積極的休養)が注目されています。体の疲労だけでなく、心の疲労にも効果的とのことです。
もともとはスポーツ界で行われていた方法で、体が疲れているときこそランニングやストレッチなどの軽めの運動を行うというもの。血行の改善とそれによる疲労物質の除去、セロトニンの分泌促進、自律神経の調整により、疲労回復効果が生じるとされます。ただし、休息や睡眠などのパッシブレスト(Passive Rest:消極的休養)とのバランスが大切です。
不足行動4睡眠の質が下がっている──睡眠前の生活習慣を改善しよう
睡眠は、重要な疲労回復の方法の1つ。睡眠は時間だけで語られることも多いですが、「質」も大切です。睡眠の質を下げないために、下記のような生活習慣を意識して、睡眠の質の向上を目指しましょう。
- 食事時間:食後すぐに就寝しない
- 入浴習慣:湯船に浸かって体を温め、入浴剤などリラックスできる香りを使用する 入浴後、体温が上がっているうち、できれば、入浴後30分以内には就寝しない
- アルコール・カフェイン:就寝前の摂取を控える
- ブルーライト:就寝前1時間はスマートフォンやパソコンの操作を控える
食事に●●が足りない!? 4つの栄養素の不足
「疲れ」にはさまざまな栄養素が関係しますが、ここでは4つの栄養素(糖質・タンパク質・ビタミンB群・鉄分)の不足に注目します。
不足栄養素1糖質の不足
まず身体的な疲れの原因として、単純な「エネルギー不足」が考えられます。摂りすぎはよくありませんが、エネルギー源(車で言えば、ガソリンに当たる)である糖質(炭水化物)の摂取は適度に必要です。特に、糖質から摂取できるブドウ糖は脳のエネルギー源の主体なので、過度な制限に注意しましょう。
不足栄養素2タンパク質の不足
タンパク質が不足すると、体内のアミノ酸が低下し、活動により傷ついた細胞、筋肉や血管などの修復も遅れ、ドーパミンやセロトニンなどの脳内物質、体の維持に必要なホルモンが十分に作れなくなり、疲労につながります。特に、動物性タンパク質や大豆に多く含まれるトリプトファンというアミノ酸はセロトニンの材料になりますから、疲労感があったら肉や魚、乳製品、大豆食品を積極的に摂取しましょう。
不足栄養素3ビタミンB群の不足
ビタミンB群のうち特にビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6は疲労回復に重要な栄養素です。
①ビタミンB1
ビタミンB1は、糖質をエネルギーに変える際に必要不可欠な栄養素で、豚肉やウナギなどに多く含まれます。不足すると、糖質から十分なエネルギー産生ができなくなり、食欲不振、疲労、だるさなどの原因につながります。
②ビタミンB2
ビタミンB2は、特に脂質をエネルギーに変える際に必要な栄養素で、レバーやウナギ、牛乳、納豆などに多く含まれます。不足すると肌荒れや口内炎、疲労の原因につながります。
③ビタミンB6
ビタミンB6は、補酵素(酵素の働きを助ける成分)として多くのアミノ酸の代謝を助ける栄養素です。セロトニンの産生にもかかわるため、疲労回復に重要な役割を果たします。玄米、小麦胚芽、牛や豚、鶏レバー、マグロやカツオなどに多く含まれます。不足すると皮膚炎や口内炎、うつ症状の原因になる可能性があります。
ビタミンB群は、水に溶けやすい「水溶性ビタミン」で、たくさん摂取しても体内に吸収されにくく貯蔵しにくい栄養素です。また過熱に弱いため、調理すると減少しやすく、日に何度か効率的に摂取することが重要になります。
不足栄養素4鉄分の不足
鉄分は、血液中のヘモグロビンの構成成分として酸素を運ぶ栄養素です。レバー、赤身の肉、魚などに多く含まれ、不足すると貧血、貧血による疲労や倦怠感、息切れの原因になります。特に女性は鉄分が不足しやすいため、意識的な摂取が必要です。
「疲れやすい」の原因として考えられる病気とは
慢性的な「疲れ」や「だるさ」の背後には、病気が隠れていることもあります。なかなか改善しない場合は、治療が必要な可能性もあるため医師に相談してみましょう。
疲れ・だるさを引き起こす病気は非常に多岐にわたりますが、このうち特に注意すべき病気を紹介します。
※以下の疾患は、医師の診断が必要です。下記疾患が心配な場合には、早めに医師の診断を受けましょう。
慢性疲労症候群(正式名称:筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群)
疲労が慢性化(疲労が6か月以上継続)することを<慢性疲労>と言いますが、慢性疲労症候群とは、感染やストレスなどがきっかけとなり、それまで健康に生活していた人が激しい全身倦怠感に襲われ症状が半年以上の長きにわたる症候群です。強度の疲労感とともに微熱、頭痛、脱力感、筋肉痛、思考力の低下、抑うつ状態などの精神神経症状などの症状が長期にわたって続き、健全な社会生活が送れなくなる場合が多いです。また、多くの慢性疲労症候群の人には「睡眠の質の低下」がみられます。睡眠時に副交感神経が優位にならず、疲労が慢性化してしまうのです。
更年期障害
更年期障害の症状は、自律神経失調症の症状とよく似ています。性ホルモン分泌量の低下が原因で、40歳代以降の男女に現れます。慢性的な疲労(更年期疲労)をもたらす他、更年期症状と呼ばれるさまざまな症状があります。例えば女性の場合は、閉経前にイライラや不安感、うつ、不眠など、閉経後には無気力感などが生じます。初期症状として、だるい、寝つけないなどの曖昧な不調が生じる場合もあります。
うつ
うつには、一時的な抑うつと、長期化する精神疾患のうつ病があり、どちらも意欲の低下(やる気が出ない)、抑うつ気分(悲しい気持ち)、不安、疲労感、倦怠感、不眠・過眠(眠れない・起きられない)などがみられます。
疲労感や倦怠感、不眠・過眠などの体の症状が目立つ場合も多く、「体の問題」と考えられやすいので注意が必要です。
それ以外の「疲れ・だるさ」を引き起こす病気
急に現れる「疲れ・だるさ」の場合は、感染症の可能性もあります。その場合は発熱を伴うことが多いため、まずは体温を測ってみましょう。
徐々に現れて長期間持続する慢性の「疲れ・だるさ」の場合は、さまざまな疾患が挙げられます。心因性の疾患(うつ病、適応障害)を除けば、がん、心臓疾患、呼吸器疾患、糖尿病、肝障害、腎障害、睡眠障害、貧血、甲状腺異常などが代表的です。
「疲れ」や「だるさ」を感じたら、効率的な栄養補給を!
あなたの「疲れ」や「だるさ」は、生活習慣や栄養不足が原因かもしれません。まずは、規則正しい生活習慣、適度な運動、睡眠時間の確保や質の向上をはかり、生活に楽しみも取り入れて、ストレスの蓄積を減らしましょう。
同時に、紹介した4つの栄養素を含む、さまざまな栄養素をバランスよくしっかりと摂取し、状態が改善するか試してみてください。
なお、疲労回復にかかわる栄養素のうち、ビタミンB群はたくさん摂取しても体内に吸収・蓄積されにくい栄養素です。ビタミンB群を効率的に補給するためには、ビタミン剤や栄養ドリンクの活用がおすすめです。
- <参考文献>
- 渡辺恭良ら:おもしろサイエンス「疲労と回復の科学」/日刊工業新聞社(2018年)
- 大野裕:行動活性化と認知再構成法(講座 作業療法士が知っておくべき認知行動療法 第3回).作業療法ジャーナル53巻2号(2019年)
- e-ヘルスネット:更年期障害
- 田中まゆみ「疲れ・だるさの鑑別診断.JIM.20巻11号」
- 弘卓三・森田恭光編集「スポーツ・健康科学テキスト,第3版」/杏林書院(2015年)