更新日:2021年12月1日
疲れた時こそ食べるべき、疲労回復に役立つ食べ物
疲れを感じやすい現代の生活。疲労回復には睡眠や休養はもちろん大切ですが、やはり栄養も欠かせません。
今回は疲れた時に役立つ食材、栄養素について解説します。さらに不足すると現れやすい疲れの症状を栄養素別にご紹介するので、日々の健康管理に役立ててください。
監修
柴田 克己 先生
甲南女子大学 医療栄養学部 医療栄養学科 教授
厚生労働省 日本人の食事摂取基準2020策定検討会構成員
INDEX
疲れに役立つ食べ物
肉
食肉に豊富に含まれる動物性タンパク質は、心身どちらの疲労に対しても効果的とされています。筋肉の修復に役立つだけでなく、精神的な疲れに関係するホルモン・セロトニンの材料であるアミノ酸「トリプトファン」なども多く含んでいるためです。
また、肉には疲れに効果的なビタミンやミネラルなども含まれていますが、豚・鶏・牛など食肉の種類によって異なります。
なかでも疲労回復効果が高いと注目されているのは、以下の種類です。
豚肉
疲れに有効なビタミンB1が一般的な食肉の中で最も多く含まれています。ビタミンB1は糖質からエネルギーを生み出すために不可欠な栄養素。不足すると、糖質由来のエネルギーに依存する脳・神経に影響し、疲労感や倦怠感(だるさ)などにつながる恐れがあります。
鶏むね肉
抗酸化作用によって、疲労の原因となる活性酸素の抑制を期待できる成分イミダゾールジペプチドが多く含まれています。
カツオ
心身の疲れに有効な動物性タンパク質をたっぷり含んでいるカツオ。
さらに、糖質・脂質・タンパク質の三大栄養素をエネルギーに変える働きをするビタミンB群(B6・ナイアシン)も豊富なので、疲れた時に積極的に食べたい食材の1つです。
鰻(ウナギ)
ウナギ(かば焼き)は栄養価が高く、疲労対策に有用な栄養素を多く含んでいます。特にビタミンB1は魚介類のなかではトップクラスの含有量で、ビタミンB2やEも多く含んでいます。
エネルギー合成に関与するビタミンB1・B2はエネルギー不足による疲労感・倦怠感を防ぐために欠かせません。
ビタミンEは疲れの原因である活性酸素を抑える抗酸化作用があり、さらに血液の流れを良くする働きもあります。
レバー
鉄分が多い食材といえば、レバーを連想する人は多いのではないでしょうか。特に豚・鶏のレバーの鉄分含有量がトップ。そもそも鉄分は酸素を運搬するヘモグロビン(赤血球に含まれる成分)の構成要素で、細胞や筋肉など体の機能維持に不可欠な成分です。
レバーなど肉類が含む鉄分はタンパク質と結びついた「ヘム鉄」と呼ばれ、野菜など植物性食品に含まれる「非ヘム鉄」よりも吸収率が高く、効率的に鉄分を摂取できます。
さらに、脂質をエネルギーに変える働きをもつビタミンB2も豊富に含んでいるため、疲労対策としてはうってつけの食材です。
果物(フルーツ)
果物に含まれるビタミンCは、疲労を起こす活性酸素を抑える抗酸化作用があります。
特にレモン・オレンジなどの柑橘類やキウイフルーツ、イチゴはビタミンCが豊富なうえ、エネルギーを生み出す際に重要な役割を果たすクエン酸も多く含まれているので、疲れに良い果物といえるでしょう。
【疲れの症状別】
疲労回復に欠かせない栄養素は?
全身の疲れ/ビタミンB群、カルシウム、鉄
ビタミンB群、特にビタミンB1・B2・B6やナイアシン(ビタミンB3)・パントテン酸(ビタミンB5)は糖質・脂質・タンパク質からのエネルギー合成に深く関わっているため、不足した場合、疲労感をもたらす要因になる可能性が。エネルギー不足による全身の疲れを解消するために重視したい栄養素です。
また、カルシウムは骨の維持・筋肉の動作や脳・神経の機能維持に関わっており、不足すると骨が弱ることで筋肉・関節に負荷がかかる、神経の興奮が収まらないなどの状態を招く可能性があるため、疲れにつながる場合があります。
鉄分も全身への酸素運搬に不可欠の栄養素であるため、体力の維持を考える上では欠かせない栄養素といえるでしょう。
- <ビタミンB1の補給に>
目の疲れ/
ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンA
目の疲れの一因として、目を取り囲む筋肉が疲労していることが挙げられます。ビタミンB1は筋肉から来る目の疲れへの対処法として効果的で目の機能維持にも関わっています。他にも、粘膜の健康維持に役立つビタミンB2や、神経の機能維持に関わるビタミンB6・B12も一緒に摂取しておきたいところです。
また、結膜や角膜の正常な働きを補助するビタミンAは目にとって重要な栄養素。目の網膜にある細胞が光に反応する仕組みにも関与しており、暗いところで視力を保つ際に役立ちます。ビタミンCは目のレンズにあたる水晶体に多く含まれており、目の疲れには、ビタミンB群に加え、ビタミンCも必要です。
肩こり/ビタミンB群、ビタミンE
肩こりは運動不足や過労、ストレス、自律神経の乱れ、寒冷などさまざまな要因が重なり、肩周辺の筋肉の緊張と血流不足によって起こると考えられています。
そのため、筋肉や神経の疲れを和らげる働きがあるビタミンB1をしっかり摂取することがポイントです。また他のビタミンB群、神経の働きを正常に保つ作用のあるビタミンB6、神経の機能を正常に保つ働きのあるビタミンB12も肩こり解消に役立つ栄養素といえるでしょう。
末梢の血管の流れを良くし、栄養分や酸素、たまった老廃物の運搬を助ける働きを持つビタミンEも一緒に摂ることもおすすめです。
腰痛/ビタミンB群、ビタミンE、タンパク質、カルシウム
腰痛にも筋肉の疲れを和らげる働きがあるビタミンB1の摂取がおすすめ。また、神経の正常な働きを維持するビタミンB群(B1・B6・B12)も効果的です。さらに末梢血管の血流を改善する働きを期待できるビタミンEを一緒に摂ると、腰の筋肉の緊張をとり、痛みを和らげるのに役立ちます。
また、腰痛予防・改善のためにタンパク質やカルシウムを摂取し、筋肉や骨を強化することも大切です。
疲労回復の鍵を握るのはビタミンB群
ビタミンB群はエネルギー合成に不可欠
体は食べ物から摂取した糖質・脂質・タンパク質の三大栄養素を分解・変換し、活動するためのエネルギーを生み出しています。このエネルギーが満足に得られなくなると、疲労感や倦怠感(だるさ)が現れてくるのです。
エネルギーを生み出すためには三大栄養素のほかに、分解・変換の過程(代謝)を補助する成分が必要で、その役割を果たしているのがビタミンB群。なかでも脳や心臓、筋肉の主要なエネルギー源となる糖質のエネルギー合成をサポートするビタミンB1は疲労対策に必須の栄養素といえるでしょう。
また、ビタミンB群のなかには、エネルギーを生み出す過程で他の栄養素と協力し合って働くことが知られています。例えばビタミンB6はB2と、同じくビタミンB群である葉酸(ビタミンB9)はビタミンB12と協力し合っています。このような点から、ビタミンB群は単独ではなく、なるべく一緒に摂取することでより効果が期待できます。
ビタミンB群の摂取にあたって注意したいポイント
疲労回復の鍵である「ビタミンB群」はその働き・性質から、不足しがちな栄養素。ビタミンB群を摂取するにあたり、注意したいポイントをご紹介します。
①調理の過程で失われがち
ビタミンB群は水に溶け込みやすい性質があり、調理前の水洗いや茹でる工程で食材の外へ流出してしまいます。また、種類によって程度の差はあるものの熱に弱い性質もあるため、強い火力による調理でも失われてしまうことも。
②体内に蓄えにくいものがある
ビタミンB1は一度に吸収される量が多くなく、ビタミンの中で必要量に対して最も体内の貯蔵量が少ないとされています。水溶性ビタミンの1つであるビタミンB1は体内に蓄えられにくく、かつ失われやすくもある栄養素といえます。摂取量が少なければエネルギー合成の障害に陥りやすいため、注意が必要です。
③食生活によって不足に拍車がかかる
ビタミンB1は糖質、ビタミンB2は脂質からエネルギーを合成する際に必要ですが、それらが過多となる食生活だと、糖質・脂質を分解するために多くのビタミンB1・B2が必要となり、不足してきます。また、お酒を飲み過ぎた場合には、本来アルコールを分解するための酵素だけでは対応できなくなり、ビタミンB1を必要とする酵素が働きだし、必要量を高めてしまい、不足してくるかもしれません。
④食材中のビタミン量の精度は低い
食材中のビタミンの値は食品成分表を用いて計算します。例えば,食品成分表にアスパラガスのビタミンB2の値が0.15 mg/100 gと記載されているとします。食品成分表の値は,報告されている複数ある数値の中から,代表値が一つだけ選ばれます。この値は、今、あなたが食べているアスパラガスのビタミンB2の値ではありません。概ね、この程度という値です。また、①で述べられているように、食材は保存中、調理中、調理後の保存期間によっても、損失があります。ビタミン剤には損失はありません。ビタミン剤は調理による損失などの心配はなく、保管上の注意を守って使用すれば、品質保証期間中は品質が保たれています。
このように、ビタミンB群はさまざまな理由から不足しがちに。より効率的に摂取したいなら、食生活の改善だけでなく、ビタミン剤などを活用するのもおすすめです。
- <参考文献 >
- 厚生労働省 「日本人の食事摂取基準」策定検討会:「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書
(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08517.html) - 文部科学省 科学技術・学術審議会 資源調査分科会:日本食品標準成分表2020年版(八訂)
(https://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/mext_01110.html) - 文部科学省『食品成分データベース』
(https://fooddb.mext.go.jp/)
- 厚生労働省 「日本人の食事摂取基準」策定検討会:「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書