更新日:2023年1月30日
体力をつけるために日頃からできる工夫は?
加齢とともに体力の低下を実感する人は多いはず。以前より階段の昇り降りが辛くなった、少し走っただけで息切れしてしまう、子供と遊んでいるのに体がついていかないなど、日常生活の中で「体力が落ちてきたなぁ」と感じるシチュエーションは多くあるのではないでしょうか。そんな体力を維持するために日頃からできる工夫をご紹介します。
監修
渡辺 恭良 先生
日本疲労学会 理事長、
神戸大学大学院 科学技術イノベーション研究科 特命教授、
理化学研究所 名誉研究員、
Integrated Health Science株式会社 代表取締役CEO
INDEX
「体力」の定義とは?
運動生理学上の「体力」の定義は、「行動体力」と「防衛体力」の2つがあります。行動体力とは、体を動かして行動するための、いわゆるスポーツテストなどで測られる基本的な身体能力のこと。もう一方の防衛体力とは、免疫機能や身体抵抗力を含めた体が病気と戦うための能力のことです。
「体力が落ちる」と私たちはどうなる?
私たちは日頃から「体力が落ちた」「体力がなくなってきた」とよく言うことがありますが、キビキビと動けなくなったという意味で使う場合もあれば、純粋に走るスピードが落ちたという場合や、例えばジョギングなどで同じ負荷をかけているのに以前より長時間もたない、といった場合もあります。
先ほどの定義に沿ってみると「体力の低下」とはいったい何を指しているのでしょうか。行動体力と防衛体力の定義に沿ってご説明します。
行動体力が低下すると
行動体力の要素としては、体格や姿勢といった体の構造的な部分から、筋力や瞬発力、方向転換などをすみやかに行う「敏捷性」、運動を持続する能力「持久力」、「柔軟性」などが含まれています。
これらが低下すると、私たちが「体力低下」として連想しやすい典型的な現象が起こってきます。先ほどの例に出てきたような、筋力が落ちたなどの理由からキビキビ動けない(敏捷性)、走るとすぐ疲れてしまう(持久力)、反応が鈍くなる(瞬発力)などです。
これらの現象が現れてくると、運動そのものへの意欲の低下もともなうことがあります。また、運動、つまり動くことが億劫になれば、人と会う、新しいことへのチャレンジなどの意欲も低下してくることも考えられます。こうなると、物事に没頭する機会やリフレッシュの機会を失い、年齢的な老いとは異なる意味での活力の低下にもつながりうることが考えられます。
防衛体力が低下すると
一方で防衛体力の低下はと言うと、ウイルスなどの病原体と戦う体のシステムである免疫機能が低下したり、抵抗力が弱くなることが要因となります。
抵抗力とは、外部から心身に影響を与えて生命力・生活力の低下を起こすことを防ぐ、または、それらの低下を最小限にとどめようとする能力のことです。栄養不足や睡眠不足、疲れの蓄積などによって負荷がかかると、身体抵抗力の低下につながってしまうのです。
実際に、防衛体力には体温調節などのいわゆる自律神経によって健康な状態を維持する機能も含まれており、ストレスなどで自律神経のバランスが崩れることも防衛体力の低下に直結します。
体力は、行動体力と防衛体力をバランスよくつける必要がある
行動体力や防衛体力の低下する要因を見てみると、行動体力だけ、あるいは防衛体力だけをつけるだけでは不十分であるとも言えます。
例えば、重いものを持ち上げる筋力があっても、風邪をひきがちな体質では健康とは言えず、逆に早く走れないし瞬発力はないけれど、めったに病気にならない人もいるわけです。
理想はこれらの両方、つまり運動能力と健康を維持する能力が両立して初めて、「体力がある」と言えるのではないでしょうか。
何が原因で体力・身体抵抗力は低下するのか?
いったい何が原因で体力・身体抵抗力の低下は起こるのか、それは何と言っても運動不足です。私たち現代人は、電動自転車や電動キックボードなど、歩かずに済む手段が増えたことやロボット掃除機など便利な家電の普及より、つい楽をしてしまいます。リモートワークが推進されている近年では、テレワークが当たり前になり、出歩かなくなったために運動不足になっている人も。当然ながら、「体を動かさない」ことは体力低下の原因になるのです。
暴飲暴食や偏食によって、栄養バランスが崩れることも体力低下の原因になります。体がつくるべきエネルギーの材料が不足したり、寝不足、過労やストレスによって充分な休養が不足し疲れがとれない状態が続く場合も、翌日までにうまく疲労回復ができないことになり、抵抗力が低下していると言ってよいでしょう。
もう一つ大きな要因としてあげられるものは「加齢」です。一般的な傾向としては、体力テストで測られる体力・運動能力テストの記録は、女性は中学生頃、男性は高校生から成人頃をピークに加齢によって低下していきます。
体力をつけるための運動習慣で心がけるべきこと
体力をつけるために運動が必要なのはわかるけれど、なかなか始められない、長続きしないという人は多いのではないでしょうか。そこで、体力を維持するためにおすすめの運動と、習慣化するためのちょっとしたコツをご紹介します。
有酸素運動と無酸素運動
まず、運動にも種類があることを理解しておきましょう。運動には大きく分けて有酸素運動と無酸素運動があり、それぞれに特徴があります。
有酸素運動とは、酸素を使い体内の糖質・脂質をエネルギー源とする、筋肉への負荷が比較的軽い運動のこと。運動のなかでも比較的負荷が軽いウォーキングや水泳、エアロバイク、サイクリングなどが含まれます。
エネルギーとして体脂肪を消費するために、ダイエット効果を狙って行われることが多い運動ですが、同時に全身持久力や肺機能などを高める働きもあり、継続して取り入れたい運動です。
一方で無酸素運動とは、短距離走や筋トレのような短時間で強い負荷がかかる(運動強度の高い)運動のこと。筋肉を動かすエネルギー源として酸素の供給が追い付かなくなるために「無酸素」の名前がついています。継続することで瞬発力や筋力をそれまで以上に向上することができます。
初心者にもおすすめの軽めの運動は?
体力をつけるために運動は重要ですが、普段何もやっていなかった初心者がいきなりジョギングやジム通いをスタートするなど、ハードルをあげすぎると長続きしません。まず最初はストレッチやスクワットなど「道具なし」でできることからスタートするのがおすすめです。
①ストレッチ
ストレッチは時間帯や場所を選ばず、柔軟性を高める運動で、寝たまま行うこともできるため、初心者にも取り入れやすい運動です。朝に行うストレッチは寝姿勢でこわばった体をほぐして体を目覚めさせ、血流をよくする働きがあります。さらに、ストレッチは副交感神経を優位にさせることがわかっており、寝る前に行うとリラックスすることができます。
仰向けの状態で片膝を抱えて行うストレッチ①や、片膝立ちで前方の足に体重を乗せて行うストレッチ②などを行い、筋肉を刺激していきましょう。
②スクワット
上半身を支えることで太ももやお尻など、下半身の筋肉がバランスよく鍛えられる運動です。軽めにしたいときは浅く、強度を加えたいときは深くして深さによって強度を調節できるので、初心者にもおすすめ。
足を肩幅に開いて立ち、重心を真下に落としながらしゃがみ、姿勢を保ったまま元に戻します。このとき、猫背にならないように、膝は足と同じ方向に向くように意識する。
③ヨガ
ヨガと言うと、教室でインストラクターの先生と一緒にポーズをとるイメージがあるかもしれませんが、現在は動画配信サイトなどでも初心者用の動画が数多く配信されているため、やったことがない人も一人で気軽に始められます。本格的に筋力を鍛えるトレーニングから寝る前にするストレッチまで、強度や柔軟性も意外と幅広いので、自分に合ったチャンネルを見つけるのも楽しいかもしれません。
チャイルドポーズ:正座をし、足の親指をつけた状態から上半身を前へ倒していきます。胸の横に膝がくるように開きながら、肩の力を抜き、背骨を長く伸ばします。
運動は、負荷の大きさではなく「継続すること」を重視しよう
身体能力の向上まではいかなくとも、生活習慣病の予防などについては、身体活動量を多くするだけでも効果が期待できます。日常生活で簡単に取り入れられる徒歩通勤、通学、家事などの活動量を増やし、無理なく継続できることから少しずつ取り入れていきましょう。
何より、運動能力が低下すると「運動そのものが億劫になってしまう」という側面もあるので、やはり維持する意識が重要です。
体力をつけることの意味は、単に行動体力、防衛体力を養うことに留まらず、心身のストレス耐性にもつながっているということがわかっています。どのような強度の運動でも週にトータル1時間以上行えば将来うつ病になるリスクを減らせることが海外の研究でわかっています。心の健康には運動強度は重要ではなく、ウォーキングなど日々の活動を増やすだけでも充分効果的なようです。
外出機会が減る梅雨時期や冬季に限らず、在宅勤務の方が増えている昨今ではそもそもの運動機会を逸していると考えられますが、オンラインの運動セッションや階段での昇り降りなど、何でも良いのでとにかく体を動かすことを心がけることが、シンプルながらも世代を問わず悩まされるあらゆるストレスに立ち向かえ得る入口と言えそうです。
体力をつけるための生活習慣3選
運動以外に、体力をつけるためにできることは何でしょうか。
体力アップにおすすめのバランスのとれた食事、睡眠、入浴の3つの習慣をそれぞれ解説します。
体づくりのためには栄養バランスのとれた食事を
基本的なことですが、体力をつけるにはまず栄養が充足していることが必要です。私たちの体のエネルギーを消費するのは筋肉だけではありません。生きているだけで臓器や脳も常にエネルギーを必要としています。私たちの体が必要な仕事をしてくれるためにも栄養は必要不可欠なのです。栄養不足や過度な偏りのないように、バランスよく食事をとるようにしましょう。
また、体力を維持、強化するために必要とされる栄養素をいくつかご紹介します。まずは筋肉の材料となるタンパク質。タンパク質の不足は筋力の低下にもつながるため積極的に摂取しておきたい栄養のひとつです。お肉やお豆腐などに含まれます。また、必須アミノ酸であるBCAA(バリン、ロイシン、イソロイシン)は筋肉の分解を抑制して合成を助け、筋肉痛を軽減する働きがあります。運動と併用することで、筋肉量を増やし、身体能力を上げるのにも役立ちます。マグロやアジ、サンマなどの魚類や、卵、大豆などに含まれています。
最後に、エネルギー産生のアシスト役となるビタミンB群です。エネルギー産生を促してきちんと疲れをとり、体を回復させるために必要な栄養素です。豚肉や乳製品、緑黄色野菜などに多く含まれますが、水洗いや熱に弱く流出しやすいので、意識してとる必要があります。
栄養ドリンクは疲れをとるための栄養が効率よく吸収できるように工夫されており、中にはビタミンB群やBCAAが含まれている製品もあります。ハードな運動後や風邪で身体抵抗力が落ちている際に効果が発揮されるものもあるため、うまく活用しましょう。
- 【ビタミンB1などのビタミンB群を含む体力の維持改善効能をもつドリンク】
- 【BCAAを含む体力の維持改善効能を持つドリンク】
良質な睡眠をとること
身体能力を高めるにはもちろん運動が必要ですが、抵抗力を維持するために必要なのは十分な栄養と休息です。睡眠はとても簡単なセルフケア。疲労を次の日に持ち越さないよう、質のよい睡眠を確保しましょう。
- 【ノンカフェインでビタミンB1を含む、疲れの回復に効果的なドリンク】
ゆっくり湯船に浸かる入浴習慣
おすすめしたいのが入浴です。入浴そのものが体力や抵抗力の改善に直接効果を発揮するわけではありませんが、お湯に浸かってゆっくり体を温めてリラックスすることで、質のよい睡眠を誘い、疲れをとるという点で意味があります。入浴後2時間程度たち、体温が下がってくると眠気を誘います。
好きな香りの入浴剤を使うなど、就寝の時間に合わせてお風呂時間をゆっくりとれるように工夫してみましょう。
体力をつけるには、継続的な運動と生活習慣の両輪で
まず、頑張って運動しなければいけない、という思い込みを捨てるところから始めましょう。
体力や抵抗力をつけるのに運動が役に立つことは事実ですが、日常生活の中でできる手軽な工夫もあります。まずは朝や夜のストレッチを日課にする、エスカレーターをやめて階段を使ってみるなど、ハードルが低いところから始めることをおすすめします。
始めて習慣化してくると、ふとした拍子に前より疲れなくなった、階段を登っても息が上がらなくなった、などの変化に気付くはずです。そんな体の変化に気付くと楽しくなってきます。ここまで続いたのにやめるのはもったいない、という気持ちも出てくるかもしれません。運動の強度を上げるのはそれからでも十分。まずは初めの一歩から、スタートしましょう。
- <参考文献>
- 杉田 正明・片野 秀樹著|日本リカバリー協会監修「休養学基礎 疲労を防ぐ! 健康指導に活かす」(メディカ出版)
- 「栄養士・管理栄養士のためのなぜ?どうして?基礎栄養学」(株式会社メディックメディア)
猪飼道夫「運動生理学入門」(株式会社杏林書院) - 厚生労働省 e-ヘルスネット