更新日:2023年3月30日
脳疲労とは?休んでも疲れがとれない、集中力が続かないのはスマートフォンなどの影響?原因と対処法も解説
脳疲労とは、視覚や聴覚を経由して大量に入ってきた情報を、脳が処理しきれず、集中力が続かなかったり、仕事中にミスが生まれやすくなった状態を指す言葉です。
脳疲労が続くと、自律神経の乱れやうつなど、身体に影響を与える可能性があるため、脳の疲労を減らす対策や工夫が必要になります。しかし、脳の疲労を取るといっても具体的に何をすればいいかわからないという方は多いでしょう。
本記事では、脳疲労の原因や、回復方法について解説していきます。
監修
渡辺 恭良 先生
日本疲労学会 理事長、
神戸大学大学院 科学技術イノベーション研究科 特命教授、
理化学研究所 名誉研究員、
Integrated Health Science株式会社 代表取締役CEO
INDEX
脳疲労とは
脳疲労とは、急激に情報があふれるようになった現代において、脳の情報処理が追い付かない状態を指す造語です。
インターネットの発達により、スマートフォンを使ってSNSや動画配信サービスを日常的に利用するようになった現代では、10年前の300倍のデータがやり取りされているため、脳への情報のインプット量が増えていると考えられます。
脳が情報を処理しきれず、脳疲労と呼ばれる状態になると、集中力が続かなかったり、ミスが増えたりなどの悩みが生じやすくなるとされています。
なぜ脳は疲れるのか
脳は、重量としては体重のおおよそ2%ほどと僅かですが、安静時のエネルギー消費量は体全体の消費量の約20%も占めていて、非常にエネルギーを使う臓器であると言えます。
脳を構成する神経細胞(ニューロン)は、アクティブに活動していること(いわゆる、頭を働かせている状態)を私たち自身で実感できる状態以外でも、身体各臓器の働き・リズムや身体姿勢を維持するために常に活動しており、また、様々な神経活動のためにアイドリング状態であり、そこに大きなエネルギー消費をしています。その結果、一方では、酸化ストレスを受けやすい特性を持っています。酸化ストレスとは、活性酸素が過剰に産生された状態のことを言います。普段は活性酸素を防御する機能が働いてバランスを取っていますが、過度な運動による疲れや、ストレスによって活性酸素を抑制する機能が乱れ、神経細胞に影響を及ぼします。
脳では、スマートフォンやパソコンなどから受け取った情報を処理していますが、脳に入ってきた情報量が多いと処理しきれず、脳疲労と呼ばれる状態になってしまうのです。
脳の疲れのサインとは?
集中力の低下によるミスが増える
脳が疲労したサインとしては、集中力が低下すること、そして、集中力が低下したことによるミスの増加が考えられます。
意識せずともできるルーティン化した動作・作業を続けていると、脳の一部の血流が低下し、ながら作業のような単純作業であってもミスが増えることがわかっています。
感情のコントロールがしにくくなる
脳が疲労すると感情のコントロールがしにくくなるとされています。
例えば、家事や仕事で疲れているときに、怒りっぽくなったり、不安を感じたりと健康なときと比べてマイナスな感情が芽生えるのは、脳が、思考、計画、判断といった知性的なこと以外にも、感情、情動を調節する役割も担っているためです。
自律神経が乱れる
脳が疲労すると、自律神経が乱れる可能性が高いとされています。
脳は生命維持のために行われる呼吸や消化、体温の調節、排泄などを司っているため、脳の疲れによって自律神経がうまく機能しなくなると、結果として体調不良につながります。
脳疲労が続くとうつ病や不安障害のリスクもある
脳の疲労からくる自律神経の乱れによる不調などは、放置すると不安や意欲低下、不眠といった、早期うつ症状につながる要因となり得ます。
実際に、疲れによって動機や意欲の発現、認知に関わる脳部位の血流が低下することがわかっているため、脳の疲労が続くと、意欲やモチベーション低下につながります。
脳疲労の原因とは
スマートフォンやパソコンの使い過ぎ
脳疲労の原因の一つには、スマートフォンやパソコンなどのデジタルデバイスの影響も考えられます。
スマートフォンなどを利用すると検索サイトで手軽に調べ物ができたり、SNSで友人とコミュニケーションがとれたりと便利な反面、脳が受け取る情報量が増加して脳疲労につながる可能性があります。
例えば、仕事でパソコンを使った後に、息抜きにスマートフォンでSNSをチェックする方は、脳を休めるどころか、視覚から入る脳のインプット量を増やして、かえって脳を疲れさせているかもしれません。
スマートフォンは脳疲労に影響がある
スマートフォンの使い過ぎによって脳が疲労することは、近年、スマホ脳とも呼ばれ問題提起の一つとなっています。
例えば、スマートフォンを使って長時間にわたって膨大な情報に触れたり、アプリの通知によって集中が阻害されたりすると、脳に疲労がたまるとされています。
しかし、スマートフォンそのものが悪いわけではなく、適切な距離を保った付き合い方をするのがよいでしょう。
睡眠不足
脳疲労の悪化要因として睡眠不足もあげられます。
脳は、ノンレム睡眠と呼ばれる深い睡眠時に休んでいるため、睡眠が十分でないと、脳の疲労が回復せず、次の日に疲れを持ち越してしまうのです。
また、脳の疲労がどんどん積もってしまうと、慢性的な疲労状態となり、集中力の低下などにつながっていくとされています。一方のレム睡眠も、脳波としては浅い睡眠でありますが、多量に入ってきたジャンク情報を淘汰し消去するために必須と考えられています。朝の目覚めのすっきり感には、双方の睡眠が必要なわけです。
精神的ストレス
脳が疲れてしまう要因としては、精神的ストレスも大いに考えられます。
精神的なストレスは体の不調や不眠などにつながり、脳の疲れを助長するおそれがあるのです。ストレスによって睡眠不足に陥ると、脳の休む時間が削られ、疲労を回復できなくなってしまいます。
マルチタスクによって脳の消費エネルギーが増える
脳疲労の原因は、日常的に発生するタスクの多さによって、脳の消費エネルギーが増えているのかもしれません。
私たちの脳には、処理資源と呼ばれる注意や集中をするたびに消費される資源があると考えられています。一度に注意を割く課題が多かったり、困難であったりすると、脳が働き過ぎて、消費資源が枯渇し、 脳疲労につながってしまうのではないかとされています。
人のマルチタスクは2つまでが限界であることが示唆された研究もあるため、マルチタスクで仕事を同時に進めるよりも、順番を決めて一つ一つ取り組む方が、脳のタスクに余裕が生まれ、集中力が続いたり、ミスを少なくすることができるでしょう。
また、脳には、デフォルトモードネットワーク、セントラルエグゼクティブネットワーク、サリエンスネットワークの3つのモードがあり、それぞれのネットワークを切り替えながら生活しています。
- ・デフォルトモードネットワーク(DMN):
思考、関心や注意を伴わない、ぼんやりとした安静状態のモード。 - ・セントラルエグゼクティブネットワーク(CEN):
前頭前野背外側部や後頭頂葉などが関与、ワーキングメモリや遂行機能といった思考に関連する(ワーキングメモリネットワークとの関連が深い) - ・サリエンスネットワーク(SN):
デフォルトモードネットワークとセントラルエグゼクティブネットワークの切り替えスイッチのような役割を担うネットワーク。私たちが行動を起こす際の「気付き」にもあたる。
情報過多やマルチタスクによって脳のインプットが過剰になることで、脳の負担が大きくなり、脳はより大きなエネルギーを消費していきます。すると、業務過多に陥った状態のように、一つのことに集中するためのセントラルエグゼクティブネットワークがうまく働かなくなるのです。
脳疲労を回復させる対処法とは?
リラックスする時間を増やす
脳の疲労を回復させるために大切なのは、ストレスをためないことです。アロマなどを活用したり、音楽を聴いたりしてリラックスする時間を積極的に作りましょう。また、マッサージをすると体を弛緩させ、よりリラックスできるようになります。
さらに、脳疲労に効果があると考えられているのが、みどりの香りです。
みどりの香りは、自然界でいう緑の葉っぱの香りを指します。みどりの香りには、ストレスを解消したり、疲労の回復を促したりする効果が報告されていますので、気分転換に自然のある場所へ散歩をするのも効果的です。
スケジュールを整理する
脳の疲れを軽減し健康な毎日を過ごすためには、スケジュールの整理が大切です。覚えておく事柄が多いと、脳の負荷も大きくなってしまいます。リマインダーを活用したり、タイマーをかけたりしてテクノロジーの力に頼るのも一つの方法です。
スマートフォンは使い過ぎると脳疲労の原因にもなり得ますが、うまく活用すると脳疲労の軽減にも役立ってくれます。
睡眠を十分に取る
十分な睡眠を取ることは、脳疲労の回復のために非常に重要です。適切な睡眠時間は個人差がありますので、あまり時間にはこだわらず、毎日すっきり自然に起きられる状態を目指しましょう。
睡眠前のデジタル機器の利用を控える
脳の疲労を軽くするなら、質のよい睡眠を促すためにも、眠る前のデジタル機器の利用は控えましょう。
スマートフォンなどの光は、睡眠や覚醒のリズムを調整するメラトニンというホルモンの分泌を抑制します。
ベッドに入ってから眠りにつくまでの間、スマートフォンについ手を伸ばしてしまいがちという方は、枕元に置くのではなく、充電器をデスクの上に置くなどして物理的な距離を置くこともよい方法です。
マインドフルネス
脳の疲労を回復するために、マインドフルネスを活用するのもよいでしょう。マインドフルネスとは、いま起きている出来事に着目する心の状態のことで、過去の後悔や未来への不安にとらわれない状態を作りだすことを指す言葉です。何も考えないことに集中することで、脳に空白を作りだします。
■マインドフルネスの具体的な方法
- ①できる限り雑念を払って静かにすること
- ②特定の心地よい姿勢(座位、臥位、歩行またはその他の姿勢)
- ③一点に集中すること(特別に選んだ言葉や語句、物体、呼吸の感覚)
- ④開いた思考(判断することなく雑念を自然に去来させること)
ぼーっとしている状態は、一見何も考えていないように見えますが、脳はあれこれと他愛もないことに考えを巡らせている状態にあります。またマインドフルネスを実施すると、クリエイティビティが高まり「ひらめき」が起こりやすくなるというメリットもあります。
とはいえ、マインドフルネスの時間を取ることが難しい場合は、代わりに「やり慣れた単純作業に切り替える」ことがおすすめです。やり慣れた作業は、脳が注意を割かずとも簡単作業できるので、無意識にぼーっとできるようになります。
脳疲労におすすめの栄養素
脳は体の中で最もエネルギーや血液を必要とする臓器です。
睡眠中は、長時間にわたって栄養が補給できない状態になるため、体温調節や呼吸など、脳に十分な栄養素を送るためにも、必要な栄養はしっかり摂ることが大切です。
ブドウ糖
脳疲労の回復のために、脳のエネルギー源となるブドウ糖は積極的に摂取したい栄養素です。ブドウ糖はぶどうやお菓子のラムネ、バナナなどに多く含まれている栄養素で、脳は1日に100g程度のブドウ糖を必要としています。
体内では食事から取り込まれた糖質が分解されて、一部はブドウ糖として活用されます。
ビタミンB群
脳疲労を回復するなら、ビタミンB群の摂取も大切です。例えば、ビタミンB1には、ブドウ糖をエネルギーに変える反応や神経の情報伝達に必須の要素です。そのため、ブドウ糖とビタミンB1を同時に摂取する必要があります。
ビタミンB1は豚肉やうなぎなどに多く含まれていますが、水洗いや加熱など、調理工程で失われやすいのが特徴です。体内に貯蔵しにくい栄養素なので、疲労回復に必要な栄養素が効率よく補給できる栄養ドリンクなどを活用するといいでしょう。
またビタミンB2は、脂質のほか、タンパク質や糖質をエネルギーにつくり変えるために必要なビタミンで、レバーや納豆、卵などに多く含まれます。
他にも、ビタミンB6は、タンパク質などをエネルギーにつくり変えるために必要なビタミンで、神経伝達物質の合成などに関与しています。神経伝達物質の一つであるセロトニンは、睡眠の開始やノンレム睡眠の中でも深い睡眠を調整していると考えられていますので積極的に摂りたい栄養素です。マグロやカツオなどに豊富に含まれています。
- <参考文献>
- 睡眠障害の対応と治療ガイドライン 第3版 じほう
- 社会脳から心を探る 公益財団法人日本学術協力財団
- 脳と疲労―慢性疲労とそのメカニズム 大村裕・渡辺恭良 共立出版
- 脳のネットワーク オラフ・スポーンズ みすず書房
- BRAIN DRIVEN 青砥瑞人 ディスカヴァー21