更新日:2024年10月31日

寝ても取れない疲れは「脳疲労」が原因かも?メカニズムと対処法を解説

「寝ても疲れが取れない…」。そんな慢性化した疲れに悩まされている人も多いのではないでしょうか。その背景には、「脳疲労」が隠れているかもしれません。

脳疲労とは、過労やマルチタスク、情報過多などによって脳に過剰な負担がかかり、脳の機能が一時的に低下してしまった状態のこと。疲労感の他、集中力の低下、イライラなどが引き起こされることもあります。ただの疲れだと見過ごされてしまいがちな疲労ですが、慢性化するとさまざまな病気につながる場合も。

そこで、この記事では、脳疲労の原因や身体の疲労との関係、脳の疲れを解消する対処法を紹介します。

監修

渡辺 恭良 先生

日本疲労学会 理事長、
神戸大学大学院 科学技術イノベーション研究科 特命教授、
理化学研究所 名誉研究員、
Integrated Health Science株式会社 代表取締役CEO

INDEX

そもそも「疲労」って何?

そもそも「疲労」とは、労働や運動などによる全身のオーバーワークによって身体の中の細胞の酸化(さび付き)が起き、傷ついた状態となっているのに、その修復が追いついていない状態のこと。病気などにならないよう、休息の必要性を知らせるために身体が発するアラートの一つでもあります。

傷ついた細胞を修復するには、十分な休息とエネルギーが必要です。疲れているにも関わらず、休息がうまく取れていなかったり、必要なエネルギーが不足していたりすると、修復が間に合わず、疲労を蓄積してしまいます。

さらに、疲れを無視して仕事や家事、育児、介護、趣味などの活動を続けていると、疲労を感知して全身の精緻な機能調節を行っている「自律神経」が消耗します。その結果、全身の精緻な機能調節がうまくいかなくなると、慢性的な疲労に移行してしまうのです。

集中力の低下やイライラを引き起こす「脳疲労」とは?

疲労のなかでも、大量の情報に絶えず触れたり、マルチタスクを行ったりすることで、脳に過剰な負担がかかり、脳の機能が一時的に低下した状態を「脳疲労」といいます。

脳疲労の原因は、身体の疲労と同様、脳の細胞が酸化ストレスによって傷ついているにも関わらず、修復が追いついていないこと。例えば、寝不足や過労によって脳疲労が進行すると、集中力の低下やイライラ、憂うつなどが引き起こされます。日頃から脳のパフォーマンス低下が起きていないかを意識し、脳疲労だなと感じられたらすみやかに対処することが大切です。

脳疲労と身体の疲労との関係は?

脳の疲労と身体の疲労は、一見、全く別の疲れのように思えますが、実は、完全に区別できるものではありません。

脳の役割は考える・計算する・想像する・言葉を話す……といったことだけではなく、脳内にある自律神経中枢において全身の機能を統制・コントロールするといった重要な役割も担っています。自律神経は通常、交感神経系・副交感神経系と大きく2つに分かれていますが、自律神経中枢(脳と脊髄)のうち、特に脳の中では、それらがはっきりと分かれていません。

自律神経中枢のなかでも、「前帯状回」という脳の部位で2つの神経系バランスのやり取りや中枢の制御が行われ、「視床下部」という部位で実際に身体のさまざまな機能調節が行われます。これらの部位では、心拍や血圧、呼吸、体温調節、食欲調節など身体の状態の正しい把握に基づいて、精密制御機械のような微調節機能を担っています。前帯状回はコントロールタワー、視床下部が各部分的なコントロールを精緻に実行する命令系統を担っています。

▼自律神経中枢の前帯状回、視床下部の位置

人が1日の活動を行う中で、運動や思考などの作業を行っていくと、脳はそれに応じて、交感神経系を活発に働かせ全身に必要な活動が行えるよう指示を出します。やがて、一定の負荷を超えて全身がオーバーワーク状態になっていくと、脳は身体の各部位からの疲労アラートを感知します。すると今度は副交感神経系が活発になるよう指示を出し、全身をリラックス状態にさせ休養を取れる状態へと導きます。

このように、交感神経系と副交感神経系を調整する自律神経中枢が正常に機能していることで、日々の心身の健康を保っています。

▼自律神経系のバランス

そのため、激しい運動や長時間勤務による過労、寝不足などによって肉体的疲労が生じると、運動神経と自律神経の調節を行っている脳にも、過剰な負担がかかってしまうのです。また、自律神経系だけでなく、運動神経の調節も脳が行っています。運動神経系は、走ったり、重いものを持ったり、階段を上る、といった身体運動のためのプラン作り、シミュレーション、実際の筋肉・腱・骨格の動きのタイミング、そして、多数の筋骨格系のアイドリングと動きの実行を担いますが、それに限らず、じっと一定の姿勢を保ち続けることに対しても同様に筋骨格系に指示を与え、適切に機能しています。

▼自律神経系が私たちの身体にもたらす作用

一見、身体活動が少なく見えるデスクワークなどでも、自律神経と運動神経を使って、常に全身の体勢を維持しながら、視力や腕、手先の筋肉などをうまくコントロールしているため、長時間続ければ、脳と身体の両方に疲れが生じます。つまり、脳疲労とは脳だけではなく、身体と脳の両方が疲れている状態といえるでしょう。

身体が疲れていると、肩こりや眼精疲労、眠気、だるさなど、「休みたい」と感じる症状が起きることが多いのですが、脳疲労は自覚できない場合も少なくありません。身体を休めても疲れが取れないときは、脳の疲労に目を向けることも大切です。

脳の方が疲れやすい原因とは?

脳疲労を慢性化させず、しっかり回復させるには、まず、脳が疲れる原因を知ることが大切です。ここからは脳疲労の主な原因を解説します。

脳はエネルギー不足を起こしやすいから

エネルギーが不足していると、傷ついた細胞の修復が追いつかず、疲労が引き起こされて長引く原因になります。特に、脳は他の臓器と比較し常にエネルギー消費量が大きいため、エネルギー不足が長引く脳疲労の原因になることも少なくありません。

先ほど紹介したとおり、脳は何かを考えるといった意識的な活動の他にも、自律神経を使って、呼吸や消化、血液循環といった無意識下での機能を常にコントロールしています。自律神経に限らず神経細胞はいつでも素早く活動できるよう、常にアイドリング状態で待機しているので、脳は知らず知らずのうちにエネルギーを大量に消費しているのです。そのため、脳は定常状態でもエネルギーが不足しやすく、疲れやすいことが分かっています。

マルチタスクを行う場面が増えたから

同時に複数の作業を進める「マルチタスク」も、現代人の脳疲労が多くなってきた原因の一つです。

人が同時に進められるタスクの数には限界があり、タスクが増えると脳の情報処理が追いつかなくなります。そのため、マルチタスクを行うと、脳に過剰な負担がかかり、脳疲労につながってしまうのです。

現代では、IT技術の発展によって効率的に仕事を進められるようになった分、マルチタスクを行う場面も増加しています。例えば、チャットやメールがいつでもどこでも確認できるようになったことで、便利になった一方、「他の作業をしていてもチャットが入ると作業を中断してつい返信してしまう」「在宅勤務ができる一方で、家事、育児や介護を並行してしまうため気づけば長時間勤務になっていた」「休みの日にリフレッシュのために出かけていても、仕事のメールや着信に対応し、休まらない」という人も多いのではないでしょうか。その他、テレビを見ながら(もっといえば、歩きながら)スマートフォンを見るといった「ながらスマホ」も、マルチタスクの一つといわれています。

インプットされる情報が多すぎるから

脳疲労の原因として次に挙げられるのが、「情報過多」です。

近年、インターネット、スマートフォンが一気に普及したことで、情報に触れる機会が増えています。その結果、求めていない情報まで大量にインプットされてしまい、脳の処理が追いつかず、脳が疲れる原因になっているのです。

本来リラックスできるはずの余暇の時間に、SNSや動画サイト、ゲームなどを長時間使用していると、脳が絶えず刺激を受け続けてしまい、さらに脳疲労が進む原因になります。また、スマートフォンは今や、多くの人の生活必需品となっていますが、1台であまりに多くの役割を担っているがゆえに、使いすぎているのにやめられない状態に陥る人も少なくありません。そのため、脳疲労を防ぐには、スマートフォンの使い方を見直すことや、できる範囲で広告の非表示設定を行うことも有効です。他方、事業者や広告主においては、生活者の視点に立ったサイト仕様であるか?という視点を持つことも求められます。また、不適切なポップアップ広告などを制限する法的措置が整備されることも重要になってきます。

睡眠の質と量が低下しているから

睡眠の質の低下も、脳疲労の大敵です。

通常の睡眠サイクルでは、入眠後、すぐに「ノンレム睡眠」と呼ばれる深い睡眠が現れ、朝方には、脳が記憶を整理・定着させるのに必要な周期的な「レム睡眠」が現れます。睡眠の質が低下すると、このサイクルが崩れてしまい、脳疲労が引き起こされてしまうのです。

ノンレム睡眠は脳が休まる唯一の時間のため、十分に取れないと脳が休まらず、脳疲労が蓄積される原因になります。また、目覚ましなどで無理やり起きると、朝方の周期的なレム睡眠が十分取れず、自分に不要な雑情報が脳に残り、脳疲労が増すことも。睡眠時間全体が不足していると、ノンレム睡眠もレム睡眠も十分取れなくなってしまうため、まずは睡眠時間をしっかり確保することが大切です。

脳の疲れを解消するには? 今すぐできる脳疲労の対処法

脳疲労を解消するには、エネルギー不足やマルチタスクなど、脳が疲れる原因を取り除くことが重要です。ここからは、ぜひ習慣化してほしい脳疲労の対処法を紹介します。

エネルギー産生に必要な栄養素を十分に摂取する

まずは、栄養バランスのよい食事を3食しっかり取り、脳や身体の活動に必要なエネルギー源を十分に摂取することが大切です。規則正しく食事を取ると、生活リズムが整う他、自律神経の乱れを防ぐことができます。特に朝ごはんには、体内時計のズレをリセットする効果があるので、つい抜いてしまうという人は軽くてもよいのでできる限り食べるようにしましょう。

疲労を回復させるには、脳のエネルギー源となる糖質だけでなく、糖質からエネルギーを作り出すのに必要なビタミンB1をセットで摂ることが重要です。

ビタミンB1は神経細胞が正常に働くためにも必須の微量栄養素で、不足すると脳疲労の原因になることも。普段からビタミンB1を多く含む豚肉やかつお、うなぎ、玄米などを積極的に食事に取り入れるようにしましょう。

ただ、ビタミンB1は、水に溶けやすく調理過程で失われやすい点や、食事から摂取しても身体に吸収されにくいというデメリットも。ニンニクや玉ねぎと一緒に摂取すると、吸収率を高められるため、組み合わせて調理するなど、工夫を行うことが大切です。また、ビタミンB1をより吸収しやすい形にした医薬品成分「フルスルチアミン」を市販薬などから摂取するのもよいでしょう。

食事に気を配るのが難しい場合や、食欲がなく、うまく栄養を摂りづらいとき、疲労がなかなか取れにくいと感じている場合は、フルスルチアミンと糖質を同時に摂取できる栄養ドリンクを活用するのも一つの手です。

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シングルタスクを心がける

脳疲労を解消・予防するには、日頃からマルチタスクを避け、時間割をきちんと整理して作り、一つの作業のみに集中する「シングルタスク」を心がけることも大切です。仕事や勉強などを行う際は、下記を意識し、できる限りシングルタスクにするようにしましょう。

  • ・タスクを整理して優先順位の高いものから取り組む
  • ・同じ優先順位のものでタスクが多い場合はすぐに終わるタスクから取り組む
  • ・時間割を決めて、その間は一つのことだけに取り組む
  • ・行っている作業とは関係ないことが浮かんだらメモしておく
  • ・メールやメッセージの確認はタイミングを決めてまとめて行う

スマートフォンやパソコンなどを使う時間を減らす

スマートフォンやパソコンなどのデジタルデバイスの使用時間を減らすのも、脳疲労の解消・予防に有効です。

とはいえ、現代人にとってデジタルデバイスはなくてはならない点も多く、完全に断ち切ることは現実的ではありません。下記の具体例を参考に、デジタルデバイスのオンオフを見計らうタイミングとして、取り入れやすいものから試してみてください。

  • ・お風呂やトイレ、寝室にデジタルデバイスを持ち込まない
  • ・食事中や会話中はデジタルデバイスを見ない
  • ・散歩や読書、料理などデジタルデバイスを使わずにできる楽しみを見つける

睡眠時間を十分確保し、質を改善する

睡眠は、脳を休ませる、不要な記憶を消去するといった働きだけでなく、疲労の原因となる活性酸素を取り除く働きも担っています。そのため、脳疲労を解消・予防するには、睡眠の質を改善し、十分に睡眠を取ることも欠かせません。

まずは、寝る時間と起きる時間をできる限り固定して、生活リズムを安定させるようにしましょう。寝だめをすると体内時計が混乱するので、日頃の睡眠習慣を見直して、睡眠時間をしっかり確保することが重要です。

また、就寝前にデジタルデバイスを使用したり、カフェインやアルコールを摂取したりすると、寝付きが悪くなる、睡眠の質が下がるといった悪影響があるため、控えるようにしましょう。就寝前は、ノンカフェインのハーブティーを飲んだり、アロマを楽しんだりして、リラックスすることが大切です。就寝1.5~2時間前に38~40度くらいのお風呂に浸かるのもよいでしょう。

睡眠の質を上げるには、快適な睡眠環境を整えることも大切です。温湿度制御のみでなく、寝具、枕、寝衣などの工夫や、新しい試みでは自分の自律神経系活動に沿ったフィードバック機能を持った電動温度制御装置などが開発されてきています。寝室はなるべく暗くする、温度や湿度を調節する、耳栓などを活用するなど、心地よく眠れる工夫を行いましょう。疲労回復や睡眠の質の改善に有効な栄養ドリンクを就寝前に飲むのもおすすめです。

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コラム

あなたは自分の疲労を自覚できていますか?

最近では、疲労などのリスクを視覚化する「健康関数」の研究が進められています。4,000人ほどの健康な人を対象に行われた健康計測研究では、疲れているのに疲労を自覚していない人や、それほど疲労は強くないのに強い疲労感が続いている人が30%程度いるという結果も。

ちなみに、「疲労」とは、心身に過度の負担がかかることで、作業能率や作業効率が低下した状態のこと。「疲労感」は疲れを自覚している状態で、多くの場合、「休みたい」と思うような身体の不快感や意欲の低下などが見られます。

実際は疲れているにも関わらず、疲労を感じていない人は、過労死や病気につながるリスクが高いと考えられています。また、疲労を感じているにもかかわらずそれを無視していると、疲労をキャッチする機能が破綻し、だんだんと疲労を感じない状態になっていくことも分かってきています。

さらに、オーバーワークを続けると、常に交感神経が緊張状態になってしまい、寝付きが悪くなる、あるいは不眠状態になりはじめます。ここぞというときには誰しも無理をしてしまうことはありますが、がんばりすぎてしまう人ほど、疲労を自覚し、休養できているかを意識することが重要なのです。

疲労は、だるさや朝起きるのがつらいといった症状の他にも、「集中できない」「やる気が出ない」「些細なことでイライラしやすい」「夜中に目が覚める」といった形で現れることもあります。こうした症状がある場合は、脳疲労が起きている可能性が高いといえるでしょう。

まずは、身体のサインを無視せず、しっかり受け止めた上で、十分な休息や睡眠を取り、心身を労るようにしましょう。食事や栄養ドリンクなどから、疲労回復に必要な栄養素を摂取することも重要です。

脳に必要なエネルギーを摂取して脳疲労を回復させよう!

現代人が陥りやすい「脳疲労」。回復させるには、修復に必要なエネルギーを摂るとともに、マルチタスクや情報過多を避けて脳の負担を減らすことが大切です。シングルタスクを心がける他、デジタルデバイスの使い方を見直すなどして、脳の負担を軽減させましょう。脳や全身のエネルギー源となる糖質と、疲労回復に効果のあるフルスルチアミンを含む栄養ドリンクを活用するのもおすすめです。忙しい毎日でも1日に必要な量を摂取でき、集中力の維持・改善にも役立ちます。

<参考文献>
  • へるすあっぷ21 No.471 2024.1
  • 疲労はメンタルヘルス疾患や病気のもと?~抗疲労成分フルスルチアミンの可能性~
    https://www.youtube.com/watch?v=L_d1ot-Tx4o
  • 「寿命を延ばす疲れないカラダ その疲れ、寝るだけではとれません!」(監修 渡辺恭良)

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