更新日:2024年4月25日

手のツボ押しは疲れや肩こりの緩和に効果的?正しいマッサージ方法を紹介

手のツボ押しをするとどのような効果があるのでしょうか。ツボを針や灸で刺激する「鍼灸(はりきゅう・しんきゅう)」は古代中国を起源とし、江戸時代まで日本の医学として行われてきた、およそ3千年の歴史ある伝統医学です。単に長い伝統の裏付けがあるというだけでなく、世界保健機関(WHO)によってツボの場所と名称が国際的に統一されるなど、西洋医学の発達した現代もなお重要な療法として位置づけられています。ツボを押す手技療法は、日本では「あんま」や「指圧」として行われてきましたが、使用するツボは鍼灸で用いられるツボと同じです。

ツボは全身にありますが、とくに手足に重要なツボが集中しています。時や場所を選ばず手軽に押せる手のツボですが、その手のツボを刺激することによって、全身に影響を及ぼすことが期待できるのです。ここでは、さまざまな症状の緩和につながると言われる、手首から先のツボについて解説します。

監修

伊藤 剛 先生

北里大学北里研究所病院漢方鍼灸治療センター、北里大学客員教授

INDEX

自分で押せる手のツボは不調改善におすすめ

ツボって何?

東洋医学では、体の中にはあらゆる機能を保つためのエネルギー=「気」が巡っていると考えられています。そのエネルギーが巡る経路を「経絡(けいらく)」と呼び、経絡に沿って並んでいる体表面のポイントを「経穴(けいけつ)」と呼びます。その経穴が、一般に「ツボ」と呼ばれる場所です。なお、経絡には「経脈(けいみゃく)」とその枝である「絡脈(らくみゃく)」があります。

経穴(ツボ)を刺激すると「気」の流れがよくなり、経絡で結ばれている脳や内臓に刺激が伝わって、さまざまな症状が改善すると言われています。実際に、自律神経(交感神経)など皮膚に近い部分の神経と体内に広がっている神経がつながっていることから、ツボを刺激することで体の中にまで作用が及ぶと考えられています。

14本の経脈に乗っているツボを「正穴(せいけつ)」と言いますが、冒頭で解説したように、この正穴の位置や名称は世界保健機関(WHO)によって統一されており、その数は361種類(左右で約670ヵ所)あります。なお実際には、正穴に属していないが特殊な効果を持つ「奇穴(きけつ)」や、正穴、奇穴どちらにも属していないが特異的に現れる「阿是穴(あぜけつ)」など、正穴に含まれていないツボもあるため、全身には800種類を超えるツボがあるとされています。

手のツボの特徴

ツボは全身に広がっていますが、とくに手や足には重要なツボが多く存在しています。それらの手や足のツボへの刺激は、手足の症状の改善はもちろん、経絡を介して血管の弾力が増したり、血流が増加したりすることで全身の症状の改善にも有効と言われています。

また、これまでの研究により、手と足のツボは脊髄を介して脳に伝わり、脳から体の各部位に働くことがわかっています。「商人の手もみ」と呼ばれる、ごまをする仕草は、客のわがままを我慢するというストレスを緩和するために、無意識に手のツボを刺激するしぐさが由来ではないかと言う研究者もいます。

手のツボは誰でも手軽に刺激できることが大きなメリットです。家の中はもちろん、仕事中や電車内など、いつでもどこでも自分ひとりでできるため、長続きできる健康法の1つとして活用しましょう。

疲れや肩こりなどの緩和におすすめの手のツボ

手のひらのツボ

肩こり・首こりを緩和する後渓(こうけい)

小指の付け根の側面にある、小さな骨の出っ張りの下あたりで、軽く握りこぶしをつくったときに現れる付け根のシワの縁にあたる所。

筋肉の緊張やこわばりを緩和したり、痛みを鎮めたりする効果があるとされ、肩こりや首こり、頭痛、眼精疲労の解消にもよいツボです。また、メンタルヘルスの不調に対しても効果が期待できます。

自律神経のバランスを調節し、倦怠感を緩和する労宮(ろうきゅう)

手のひらの中央より少し上の、中指と薬指の骨の間のあたり。精神状態や自律神経の働きを整えるツボで、心痛や動悸をはじめ倦怠感や憂うつな気分を改善したり、ストレスによる不眠、痒みなどを改善したりすると言われています。

腎の働きを整えて老化を緩和する腎穴(じんけつ)

小指の第一関節の左右中央にある奇穴。耳鳴り、血尿、腰痛、夜尿、頻尿、抜け毛など、腎、すなわち老化に伴う症状に効果があるとされているツボです。歯痛、下痢、便秘腹満などにも使われます。

飲みすぎ・食べすぎや下痢を緩和する魚際(ぎょさい)

手のひらの親指の下にあるふくらみのあたり。このふくらみが魚の腹に似ており、その「際(きわ)」にあたるため、「魚際」と名付けられました。魚際の色調で、胃腸の具合を推測できるとも言われています。

また、咳、発熱、のどの痛みなど風邪の症状や喘息にもよいとされています。

喉の痛みを緩和する少商(しょうしょう)

親指の爪の生え際の外側にあるツボで、風邪などの咽喉炎に伴う喉の痛みや声のかすれ、咳などに速効的に効くとされるツボです。風邪で声が出にくくなったときに試してみるとよいでしょう。

手の甲のツボ

肩こり・腰痛・緊張を緩和する合谷(ごうこく)

手の甲の人差し指の付け根をたどっていき、親指の骨にぶつかるあたり。さまざまな効果が期待できることから、たくさんある手のツボの中でも「万能のツボ」と言われています。とくに歯痛などの鎮痛効果が高いことが知られています。

合谷は緊張した筋肉を柔らかくするのに役立つとされ、例えば、肩こりや腰痛などの痛みにも効果的です。その他にも、手のしびれや痛み、高血圧、花粉症などにも効果が期待できます。

肩こり・首こりを緩和する少沢(しょうたく)

小指の爪の付け根の外側で、爪からわずかに離れた所にあり、血流を改善する効果のあるツボと言われています。肩こりや首こりの改善が期待できる他、風邪の症状などにもよいとされています。

肩こり・首こり・背中のこりを緩和する商陽(しょうよう)

人差し指の爪の付け根の親指側で、わずかに爪から離れた所にあり、肩や首、背中のこりを緩和するツボと言われています。また、下痢や便秘、眼精疲労、風邪の症状にも効果を期待できます。

腰痛を緩和する腰腿点(ようたいてん)

腰痛点とも言う奇穴です。人差し指と中指の骨の間、および、薬指と小指の骨の間を手首に向かってなぞっていき、ひっかかった所の2ヵ所が腰腿点です。腰痛の緩和に役立ち、ギックリ腰と呼ばれるような、急な強い痛みにも有効と言われています。

目の痛み・かゆみを緩和する陽池(ようち)

手首の横ジワの中央から、やや小指よりのあたり。目の痛みやかゆみを伴う結膜炎などの症状を緩和すると言われています。

寝ちがえ・頸の痛みを緩和する落枕(らくちん)

人差し指と中指の中手骨の挟まれたくぼみの中央にある奇穴です。落枕とは中国語で寝ちがえの意味。寝ちがえによる頸の痛みや頚部の筋硬直による痛みを即座に緩和すると言われています。

手首のツボ

肩こりを緩和する外関(がいかん)

手のひらを下にして手首を上にそらしたときに、手首にできるシワから指の幅3本分ほど肘よりで、手首の幅の中央、橈骨(とうこつ)と尺骨(しゃっこつ)という2本の骨の間にあたる所です。

腕や手、指の痛みに対して有効とされるツボで、肩こりにもよいとされています。また、頭痛や疲れ、むくみやめまいの改善も期待できます。

乗り物酔い・頭痛を緩和する内関(ないかん)

「外関」の裏側(手のひら側)にあたるツボです。つまり、外関を探すときとは反対に、手の甲を下にして手首を上にそらします。そのときに手首にできるシワから、指の幅3本分ほど肘よりで、手首の幅の中央にあたる所です。

乗り物酔いや頭痛に効果があるとされるツボで、手のしびれや痛みという体の症状の他にも、自律神経調節作用をはじめ、抑うつや無気力といったメンタルヘルスにもよい影響を期待できます。

不眠・どうきを緩和する神門(しんもん)

手のひらを上にして手首を曲げたときにできる、関節のシワの小指側にある豆のような小さな骨(豆状骨)の上辺にあるわずかなくぼみ。

心臓の働きとの関係が深いツボで、どうきや息切れに効果を発揮するとされています。また、血圧のコントロールや便秘の改善にも役立ち、さらに疲労やめまい、不眠、不安、抑うつ、イライラなどの緩和にも効果を期待できます。

加齢に伴う変化の影響を緩和する養老(ようろう)

手の甲側から見たときに、手首の小指側にある突き出た骨(尺骨頭)の下(肘側)にあたるくぼみ。

新陳代謝を活発にしたり、老廃物の排泄を促したりするのに効果的とされていて、「若返りのツボ」または「アンチエイジングのツボ」と呼ばれることも。肌荒れや顔の出来物に効果があり、また眼精疲労、さらには生活習慣病の改善にもよいと言われています。

手のツボを正しく押すコツと注意点

ツボは自分で押してみて軽い鈍痛はあるものの、それと同時に心地よく感じる(イタ気持ちいい)所を目安に探すとよいでしょう。なぜなら、異常のあるツボは、痛みの感覚が過敏状態になっているため、押すと鈍痛を生じるからです。ツボの位置は個人差があり、また常に固定したものではなく、その日の体調などによって若干ずれることがあります。なお、不調が体の右側にある場合は右手、左側の場合は左手のツボを刺激するのが基本です。

ツボは1ヵ所につき1回3~5秒押して、パッと離し、しばらく余韻を感じ取るといったことを1~2分続けます。力が弱すぎると十分な効果が発揮できない場合もあるため、力加減はやや強めがよいでしょう。ただし、強く押すほどよい、または長く押すほどよいというものではありません。刺激しすぎると揉み返し(筋繊維が損傷し痛みを感じること)などが生じ、逆効果になることもあるため注意が必要です。

手のツボ押しをするべき最適なタイミングとは

手のツボは、いつでもどこでも刺激できるという点が、他の部分のツボと比べて大きなメリットでしょう。デスクワーク中に疲れを感じたときや緊張する場面などでも、気楽に押すことができます。

とはいえ、ツボ押しの効果をより高めるには、リラックスしている状態、例えば、入浴後のくつろいでいる時間帯に押すのがおすすめです。また、ツボ押しには安眠効果もあるとされているため、寝る前に押すのもよいでしょう。

道具を活用する際には注意が必要

手のツボを自分自身で押す際には、反対側の手指の腹を使うのが基本です。指の代わりにボールペンのキャップ側の部分を使ったり、机の角にツボの位置を押し当てたりすると、皮膚や筋肉を痛めることもあるので、強く押しすぎないよう注意が必要です。

他にも、指先を洗濯ばさみで挟んで刺激する、櫛を握りしめて手のひらの複数のツボを同時に刺激する、ツボ押し専用のグッズを利用するといった方法もありますが、同じく使用には注意が必要です。ご自身にあった方法を探してみましょう。

ツボ押しを避けるべきタイミングとは

ツボ押しをすべきでないタイミングもあります。例えば、怪我をしているとき、感染症にかかっているとき、妊娠中(とくに妊娠初期)などは避けるべきです。また、お酒を飲んだ後や満腹時もあまりおすすめできません。

他にも、ツボを押す前から痛みを感じる場所は、炎症を起こしている可能性があるためツボ押しは控えたほうがよいでしょう。もしその痛みが続くようであれば、医師の診察を受けることをおすすめします。

体の不調を緩和するために、ツボ押しにプラスするとよい工夫とは

食事や栄養バランスを見直す

ツボ押しは、さまざまな症状を緩和すると言われていますが、健康の基本である食事と運動と休養(睡眠)の3つは、どんなときもおろそかにできません。

食事については、単にエネルギー量を適切にするだけでなく、不足しがちな微量栄養素(ビタミンなど)をしっかり補給する必要があります。現代人に多い「疲れ」という症状の改善には、ビタミンB群の不足が関係していることが少なくありません。また、肩こりや腰痛など、筋肉の「こり」が関係している症状の改善には、血行促進作用のあるビタミンEがよいとされています。

気になる症状がある場合は、これらの基本を踏まえて、ふだんの食事のバランスが偏っていないか、運動や休養が不足していないか、振り返ってみましょう。

適切に市販薬を活用する

ビタミン不足や栄養バランスの偏りが気になる場合には、まずは食生活を見直し、偏りを避けて食材を適量摂取するのがよいでしょう。とはいえ、外食が多かったり、忙しくて料理にあまり時間をかけていられなかったりという理由で、健康的な食生活を続けることが難しい人もいるでしょう。そのような場合は、ビタミン剤を利用してみるのもよいかもしれません。

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水分補給を意識する

ツボ押しには、体内に溜まっている有害物質の排出を促すデトックス効果があるとされており、その効果は水分補給によって、より高まると考えられます。

極端に冷たい飲み物は体を冷やし、せっかくのツボ押しによる血流改善効果を弱めてしまいかねません。補給するのは常温の水でも大丈夫ですが、白湯、もしくは温かいハーブティーなどがおすすめです。また、なるべくカフェインを含まないものを選ぶのがよいでしょう。

「手浴」を行いながらツボを押す

手をお湯につける「手浴」をツボ押しに加えて行うのもよい方法です。

手の皮膚温は足の皮膚温より高いので、足浴(足湯)をするときよりもやや高めの温度のお湯を用意し、手首までを数分間、お湯に浸けてみましょう。すると肩や首の血行がよくなり、疲れがとれてくるのを実感できると思います。足浴では眠気が生じてしまうことがありますが、手浴ではそれが少ないとされているため、仕事や勉強に支障ない程度のリラックス効果を得られます。

さらに緊張やストレスなどを強く感じるときは、エッセンシャルオイル(精油)を使用して行うアロマセラピーを加えると、より効果的かもしれません。香りによる嗅覚神経の刺激は脳への働きかけを介して、自律神経のバランスを整えると言われています。そのため、ツボ押しの効果アップも期待できます。

これらの工夫でも気になる症状が改善されないようなときは、医療機関での治療が必要となる場合があります。ツボ押しに頼りすぎることなく、早めに医療機関を受診するようにしてください。

<参考文献>
  • 伊藤剛「カラダを考える東洋医学」, 2021
  • 伊藤剛「東洋医学の専門医がやさしく教える即効100ツボ」, 2020
  • 日本理療科教員連盟・東洋療法学校協会編「新版 経絡経穴概論 第2版9刷」医道の日本社, 2021
  • 主婦と生活社「最新版 よくわかるツボ健康百科」, 2009
  • 中経出版「どこでもできる! 手のツボで元気になる本」, 2011

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